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やっと、閃きました

「お話としてはそつがないけど、それだけで彼を犯人にするのは難しいわね」

「ダメですか」

 そういえば、彼はどうなったのだろう?

 私に処遇を聞いてこないから、うちで監禁してはいないみたいだけど。

 彼の父親に引き渡したのかしら?


「そもそも、彼に狙われる理由がないわよ」

「・・・」

 うわー!アンの目付きったら!


「お嬢様は無自覚で人にうらみをかうタイプですよそうこの私も色々とあるんですよ最近なら部屋の片付けをさせられるってわかってたのにおいてきましたよねそうですよねデザートなんかじゃごまかされたりしませんよいやくれるものはもらいますけど・・・」と言ってそうだ。


「お嬢様はともかく御家同士の軋轢とかは?」

 おお。上手に誤魔化したわね。


「うーん。最近はないかな? 宰相をしていた曾祖父の頃ならともかく、最近はあんまり重要な地位についてないし」

 それでも、公爵の地位にいる以上、ちゃんと発言力はあるのだが。

 役職を巡ってうんぬんとか、派閥がどうのこうのとかとは、距離をおいている。


「それに、アンの仮説を証明するには、最低でもトリックに使ったマジックバッグと遅延の魔道具を見つけないといけなさそうだけど・・・」

「身体検査をするべきでしたね」

 いやいや、アン。

 ネギを背負(しょ)ったカモではあるまいし、犯人が自ら証拠を持って突撃してくるだなんて。


 ・・・無いわよね?


 しばしの考える時間中、東の国に住むという、幻の鴨が付け合わせの野菜を背に飛んで行った。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「今日のご予定は?」

「宮廷魔術師長に分析の進み具合を聴いて、後は成り行きね」

 馬車は進むのに、犯人探しは進まない。


 昨日アンに頼ったように、ここは自分以外の力もあてにしてみよう。

 犯人捜しを命じられたとはいえ、孤立無援でやれとは言われていないし。


 などと考えているうちに、私達は案内人の先に見覚えのある扉を見る事になった。



「うっわ~」

 こんこんこん、からの~「どうぞ」(入室許可)

 入り口から中を覗いたアンの第一声がこれである。


 そこは一つの独立した世界。


 天井まで積み上げられた本は山。 


 執筆途中らしき紙の固まりは丘。


 かろうじて床が見える曲がりくねった通り道は川のようで。


 平坦な土地に見えるところにも、なにがしらの品物が置かれている。



 色とりどりの羽が、独特の軌道を描いてその上を舞い上がり続け、私達を見つけて、チチチっと一鳴きして身を隠す放し飼いの使い魔の気配。


 ってあれ? 確かここはアンが・・・?


「すごいじゃろ」

「『すごいじゃろ』じゃ無いです!」

 あ、アンが膝から崩れ落ちてる。


「散らかる魔法でもかけてあるんですか!」

「はっはっは。魔法に頼る事でもないわい」

「よりたちが悪い!」


「あー、もう! まったくもう!」と嘆きながらも、応接セットのあった場所を片付け始めるアンはメイドの鏡だと思う。


 ◎ー ◎ー ◎ー


 げーぷ!


「のどが渇きました!」との催促にこたえて出された飲み物を遠慮なくあおったアンが、これまた臆面(おくめん)もなく、年頃の女の子が出しちゃーいけない音を立てている。


 そう、これは・・・酒場でビールを飲むおっさん?

 からむとめんどくさそうなので、放っておこう。

 一仕事は終えてるんだし。


「あの件じゃな」

「はい」

 私の仕事はこれからだし。


「分析は完了したが、結果からいうと何もわからんということがわかった」

「は?」

 なんとも、とぼけた話だが、ここにいるのは我が国最高の頭脳である。

 ・・・「何、言っているのかしらこのおじいさまは」などというのは止めよう。


「魔法が飛んできた方向も、属性もなーんもわからんかった」

「何、言っているのかしらこのおじいさまは」

 よし。よく言ったアン。


「そうなった理由で考えられる事は?」

「術者が至近距離、自身の魔力圏内で発動させれば、いきなり現れたように見えるじゃろうな」

 人のもつ魔力は心臓から発生して体内を循環し、持ってる魔力にもよるが、だいたい腕を伸ばした距離ぐらいまで漂ってると言われている。

 これが魔力圏だ。


 至近距離なのだから、飛んできた方向も何も無い。


「無属性の攻撃魔法は?」

「無いわけでは無いが、普通は属性を付与するはずじゃな。風だってあるとないとでは威力がまるで違う」

 髭をしごきながら魔術師長が質問に答えてくれる。さすが生き字引。打てば響くように疑問が解けるのは本当にありがたい。


「魔法を飛ばした跡を隠蔽するのは?」

「無理じゃ。ほぼ不可能じゃろうな。唯一の手段は目標を自分の魔力圏に入れる事じゃが、腕ほどしかない魔力圏を相手まで伸ばすんじゃぞ? そんなの人間技じゃないわい」

 そう言ってかぶりを振る魔術師長。


 この国最高の魔法使い手でも難しいなら・・・。


 分析用の魔法で現れた、黒い球体。

 上がらない容疑者。

 見つからない動機。

 なぜ無属性の、魔法を・・・。


 ピシャン!


 てんでんばらばらに散らばる事柄の間を、稲妻のように枝分かれしたラインが繋ぎ合わせた。


 後少し確認する事があるけど、幸いここには。


 こん、こん、こん。


「シャーロット様、宮廷魔術師長。お呼びです」

 主語が省かれているが、私はともかく、宮廷魔術師長を呼び出せる人物は一人しかいない。


 ギリギリ、間に合ってよかった。


 私はキリリ!と。顔を引き締めたのだった。

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