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さて、一件落着です

「放しなさい! 放さないと、こうですよ!」

 後ろから羽交い締めされたアンが、男のすねにガンガンとかかとを当てている。


「おい! 誰か、足押さえろ! 早く! 早くして~」

 あー、すねってお肉がつかないからすぐ骨なのよね。ぶつけただけでも痛いのに、あれじゃあ、たまらないわね。

 

「乙女の足にさわるな!」

 前にしゃがんだ男の顔に刻まれる靴跡。

 そのまま、パタリと倒れ付した。


 あれ? もしかしたら、このままいけちゃう?


「腰を落とせ、ばか野郎」

 あ。ダメか。

 場馴れしているのか、リーダーの指示でアンを押さえてる男の姿勢が低くなった。

 ほぼ膝だちの姿勢では、アンも自由に足技を繰り出せない。


 残り三人。一人はアンを押さえてるから、実質、リーダーとあと一人だ。

 

 じり、じり。


 一対一。


 あくまで大物ぶりたいのか、リーダーは手を出してこない。 

 そして、最後の一人も、飛びかかってはこないようだ。


 二人組の内、片方だけ暴れまわった場合、残りの一人の戦闘力は?

 そんな値踏みをしているのが、緊張と共に伝わってくる。


 そして、私も。


 アンが「お嬢様」と呼んでしまっているから、私が彼女の主人だってばれている。


 わざわざ護衛をつける=主人に戦いの心得が無い。

 いつ、飛びかかってきてもおかしくは、無い。


 そうしてこないって事は・・・。


「今、助けるわね! アン!」

 バッ! と付き出した私の腕の先から相手がいなくなった。


 やっぱり! 魔法を警戒していたのね!


 ◎ー ◎ー ◎ー


「やめて下さい!」

「やめやがれ!」

 あれ? なぜか声が重なって聞こえるけど?

 

「こっちがどうなってるか見えないんですか!」

「こいつがどうなってもいいっていうのか!」

 うん。アンを押さえてる男が変な顔をしているので間違い無いだろう。


 アンが口をパクパクさせているのは、話し出すタイミングをはかっているに違いない。


 ・・・二回、かぶっちゃったからね。


「いや、俺はこれ以上言うこと無いし」

「あ、そうなんですね」

 なにやら話しがまとまったらしい。

 やっと、アンが喋り出した。


「お嬢様の援護は危ないんです! 訓練中、何回私に魔法を当てたと思ってるんですか!」

 ええと? ひー、ふー、みぃ。


「指折り数えないで下さいよ! 後頭部が寒くなります!」

 私の瞳は紫。

 つまり、普通、使える魔法は火と水となるのだが。

 公爵家の一員である私はそれに加えて氷も使える。

 飲み物に入れて冷やしたり、生物の鮮度を保ったり、日常生活でも活躍の機会が多く、親しまれている魔法だが、当然攻撃にも使える。

 火はその性質上使いづらい(燃え広がる)し、水は威力が今一なので、よく使うのだが。


「何回、後ろ頭が凍ったか! 結局連携は無しになったじゃないですか!」

 うん。その節はすまなかったと思っている。


「もー。お嬢様の魔法はノーコンなんですよ。ノーコントロール! どうせ後ろの人を狙っても、私に当たるんですから。どうすればいいか、わかりますよね?」


 アイコンタクト。

 何かを思い浮かべている彼女の瞳がうるんでいる。


 そう。わかったわ、アン。


 貴女の覚悟、無駄にしない! 


「いと、気高き氷雪の女王よ。ありのままに振る舞うそなたの力の一欠片を我が眼前に・・・」


 私ごとやっちゃって。そう言いたいのね!


「うわー! うわー! 違います。そうじゃないです! やめて! 止めてー! 誰かー!」


 う~ん? 違ったか。

 そして、誰に何をお願いしてるんだか。


 止めようたって。


 手遅れよ?


「顕現せしめよ!」

 ひょいっと。アンのお願いを聞いて飛びかかってきた四本の腕をかわした私の詠唱に応じ、魔力が体から抜けていく。


 目に見えない力は世界に触れ、その姿を現し、上書き始める。


 先ずは水。どこからともなく溢れだした流れが男達の足を包み込む。


 ピキピキピキッ!


 冷され凍りついた液体の体積が膨らみ、こすれ合う音が響く。

 白く低く漂うのは、ひやされた空間から湧き出した水分。 


「うわっ!」

「動けねー」

「なんだこりゃ?」


 そう言っていられるのも今のうちだ。


 氷魔法は、怪我もさせないが、攻撃は続行中なのだ。


 詠唱によって空になった肺に、すぅーっと補給すれば、凍った空気が溶ける、なんとも言えない感触。


 さて。

 早めに・・・。

 

「危ないじゃないですかぁ!」

 おや?


「無事だったのね、アン」

「どこがですか!」

 羽交い締めの腕を(みずか)ら押さえてV字腹筋。

 浮かせた足は凍った地面から離れているけど──。

 ──惜しかったわね。


 しっぽの先が、着いちゃってる。


「リトルファイア」

「あっつい!」

 あ、そうか。


「とかすんなら、直接当てなくていいんですよ!」

 ふーふーとアンが、涙目で自分のしっぽの先を吹いている。


「もう! これだからもう!」


 よし。


 ・・・今日のデザートもアンにあげよう。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「それで、なんで襲ってきたんですか?」

 アンが自分を羽交い締めにしてきた男を尋問している。

 飛びかかってきたリーダーは、倒れたところで凍ったので、口も凍ってしまってる。鼻は無事だけど。


「早く答えないと、霜焼けますよ?」

 そう。氷魔法の怖いところがそれだ。

 ずっと冷されているだけでもきついのに、魔法がとけた後でも影響が残るのだ。


「く、口止めだ」

 霜焼けた経験があるのだろう。かゆみを我慢するような顔で、男が口を開いた。


「口止め?」

「洗濯物の件だ!」

 一旦、喋り出してしまえば、後は。

 聞かずとも、ペラペラと。


「おねしょの事ですか?」

「十歳は、まあ。だけど、聞かない話じゃ」

 子供の頃の話だし、そんなに必死に・・・。


「ドレスの方だ!」


「「ドレス?」」

 ああ、最近、借金のかたなのか、よく干してあるって、あれ?


「俺たちが、坊っちゃんと着てるなんてばれたら! もう、外を歩け無いだろう? なぁ?」

 手は自由なので、顔は覆えるのね・・・。


「なぁ? とか聞かれましたよ? 今の私達に」

「・・・そうね」


 ここはそっと立ち去ろう。


 そうかー。逆転はそこまでダメかー。


 私達、今。


 男装中なんですけど!


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