さて、聞き込みです
「お嬢様、姿勢悪いですよ」
「わかってる」
私が、前のめりになっているのには理由がある。
いまだ、解明の糸口も見えない事件の解決に向け、気持ちが高ぶってる──
──わけではない。
公爵家御用達のドレスメーカー製のこの衣装。
「あのですね、ええと、なんて言ったら良いのかしら・・・」。
正直。女性服のお店に男装用の服の製造を頼んだのは、無理を言ったと思ってオリマス。
・・・やってみたら「普段、作らないのを作るのが楽しかった」って言ってもらえたので、ご迷惑ではなかったと、思いたい。
ええと、話がそれたが、つまり何が言いたいかというと、この帽子はマジックバッグの応用なのだ。
〈H&W氏の冒険〉でも、二人の住んでいる下宿の女主人が、H氏に頼まれて、彼に変装するシーンがある。
「ハンチング帽に、女性の長い髪の毛が収まるだと?!」
「そう! 収まるのさ! マジックアイテムならね!」
H氏がタネを明かすのと同時にバサリと帽子をとって正体も明かす、名シーン。
それも再現できるのだ。
「髪の毛って重さあったんですね」
「ねー」
マジックバッグのランクにもよるが、上位だと見かけより大きい物が入るのに加えて、入れた物の重さを軽減したり、まったく感じなくできたりする。
つまり、私が前のめりな原因もそれだ。
「お嬢様、ムダに髪の毛長いですものね」
「ムダ、言わない!」
ちなみにアンの山高坊にも同じ機能がある。
ショートヘアそのままの貴女の方こそ、と。私は思うのだが、どうだろうか?
◎ー ◎ー ◎ー
そんな、こんなで。
話ながらゆっくり歩いても、目的地は遠くない。
まずは、外見を、と。
私とアンは通りの角から頭を覗かせた。
ど~ん! でいいのかな?
一件あたりの間口がそろった並びに、二軒分のスペースを使って、その建物はあった。
お金を扱うからか、石造り。
けど。
「ピッカピカですね」
アンが目を丸くするほど磨く必要はあったのか。
「おっきい顔ですね」
どら息子のお父さんだろうか? 頭に布を巻いた男性を端に描いた看板が、二軒分の長さを余すことなく活用している。
けど、・・・笑顔、なのよね? あれ。
「でも、中は見えませんね」
一階の窓に使われているガラスは、建物の持ち主の財力を物語っている、が。
外より中が暗く見えずらいので、普通のお店なら灯りを使って釣り合いをとる。
あえて、なのか。
透明なはずのその建材は、中の様子を伝えては、いない・・・。
「入りづらいお店ですね」
「そうね」
まあ、物を売る店ではないので、それでいいのかもしれない。
お金を借りるところを見せたくないお客さんには、ありがたい造りだろうし。
とはいえ、情報を集めたい私達にとっては、あまり歓迎できない。
「まずは、まわりのお店に評判を聞いてみましょうか」
「はい」
基本は聞き込み。
一軒目。右隣。
「あの~。となりのお店について・・・」
「あ、あのお店かい? いい店だよ。どんな人にも貸してくれるんだ」
二軒目。左隣。
「あの~。となりのお店について・・・」
「あ、あのお店かい? いい店だよ。どんな人にも貸してくれるんだ」
三軒目。向かいの二店舗。
「あの~。お向かいのお店について・・・」
「「あ、あのお店かい? いい店だよ。どんな人にも貸してくれるんだ」」
四、五軒目。向かいの両隣。
「あの~。あのお店について・・・」
「「あ、あのお店かい? いい店だよ。どんな人にも貸してくれるんだ」」
「これは・・・」
途中から、あれ? あれ? となり始めたアンが、指を折って聞き込みしたお店の数を確認している。
「どうも、黒っぽいわね」
この分だと、この通りのお店全てに聞いても同じ答えしかかえって来なさそうだ。
どうやら、何らかの手段───たぶんお金絡み───を使ってる。
「自分のお店を使って欲しいから、宣伝?」
「その可能性もあるけど」
ことさら、いい店と強調しているのが気になる。
本当にいい人やお店は、自分をわざわざ “いい” なんて主張したりしない。
◎ー ◎ー ◎ー
「さて。次が本番ね」
軽ーく、お店の評判を確認してみたが、ここで調べたいのはどら息子の評判だ。
「また答えが同じだったら、どうしましょう」
先程の異常な受け答えを思い出したのか、ペタンと、アゴをテーブルにのせた状態でくわえたストローの飲み物が冷たかったのか。アンの足元から頭へ、震えがぶるりと登っていった。
その可能性もないわけではないが、その場合、返ってくるのは「わかんない」か「知らない」だろう。
虚ろな目で、一字一句棒読みされるよりは怖くないはず。
「実は、息子さんに縁談が持ち上がってまして、でいくわよ」
「結局、聞くのは私なんですね」
アンが飲み終わった容器を、私の分まで片付けてくれる。
休憩終了。
うん。その調子で、がんばれ、アン。
◎ー ◎ー ◎ー
「まぁっ! 縁談? あの息子さんに!?」
さっきの心配は意味がなかった。
そして、「この件はくれぐれもご内密に」という、口止めも意味がないだろう。
立て板に水とばかりに、彼について語り出した右隣の店の女将さんによって、明日にはこの辺に縁談を知らない人はいなくなるに違いない。
・・・変装していて良かった。
「あの~。隣の」
「まぁまぁ! 縁談ですってね!」
「ふぇっ?」
? ? ?
もう左隣の女将さんが情報共有している!
この情報の伝達速度を何かに使えないかなー。
とか。
考えている私は。
現実逃避の非難は、あまんじてうけよう。
すいません!
予約投稿、失敗しました。
もう読まれてるみたいなので、このままで。
零時待ちだった方、ごめんなさい。
m(_ _)m




