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さて、到着しました

「まるで、お母さんが、ここにいるみたいです」

 アンが、ちょん、ちょんと、借りてきた刷毛(はけ)の先で、封印に水を含ませた。

 裏面の糊が柔らかくなるまで、しばし、待ち時間。


 確かに。やけに文章の意味の整合性が、剥がす順番と合っている。


 貼られている紙と字のサイズ的では、短い文言しか書けない。

 文字を小さくすれば、たくさん書けるけど、あんまり細かいと、私ともかく、アンが無視し始めるだろう。

 つまり、短い文章なのに、だ。


 右から順番に、または左から。

 それなら話は簡単だけれど、アンは思うがまま、適当に剥がしているように見える。


 なぜに、こんなに意味が通じるのか?


 待ち時間に考えてみよう。




 ああ、なるほど。

 封印の一部分が、ほんの少しだけ重なっているのか。

 下の紙を先に剥がすと上の紙に引っ掛かって破けそうになる、と。

 それを無意識に避けるから、貼った順番に剥がす事につながるのね。


「どれを選んでも、文章になるのかと」

「そういう手段もあるわね」

 今の私とアンのように、お母様とアンナも顔を付き合わせて、あーだこーだ言いながら封印していたなら、少しほっこりする。

 

〈本当に、それで、いいのねぇ?〉


 アンがぷるぷると震える手で剥がす、大きめの最後の一枚は、ぜんぜん、ほのぼのしていなかったけれど。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「ちょっと待って」

「?」

 引っかけた金属製の輪を梃子(てこ)の要領で締め上げる留め具に指をかけたアンを制して、私はベッドの陰に隠れた。


「いいわよ~」

「・・・じゃ無いでしょう!」

 え~、ダメ?


 迷宮では、開けた瞬間に、けたたましい音の鳴る宝箱の罠があるという。

 お母様も、アンナもお城だけど、屋敷には息のかかったメイドさんが、まだまだたくさんいるのだ。


「一人だけ逃げようったってそうはいきませんよ?」

「ダメ?」

「私はイヤだったけれど、お嬢様に開けるように命じられたって言います!」

「それだと、貴女だけ助かるじゃない!」


 ギャッギャウフフ。


 なんとなーく、濁った騒ぎの中。


 やっと、衣装ケースは開けられた。


 もちろん、アラームは鳴らずに。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「はひょー」

「それ、たまにでますね」

 アンにドレスの後ろのボタンを外してもらったり、コルセットのヒモをほどいてもらった私は、ベッドに広げられた服? を手に取った。

 

 まあ、一枚目は服というより、包帯に近い。

 お胸の上からギュッ巻きつけて、装着完了。

 いや、二枚目か。

 ちゃんと、ドロワーズは履いてるわよ?

 男装の一枚目ってことで。

 次にシャツ。それからズボン。


 普段、一人で服を着たりしないから、ボタンを留めるのも新鮮な体験だわ。


 女性服と男性服の違い。

 華やかさとかデザインとか、色々あるけど、一番の違いは、着付けにかかる人数だと思う。

 

「お嬢様~」

 ・・・アンみたいのもいるけど。


「はいはい」

 私のと違って、三つ穴のズボンに苦労しそうなのはわかるけど、それより前の包帯で自分を縛っちゃうって、どうなのかしら?

 私と違って、メイド服って一人で着るんでしょう?

 


「・・・そこ。不自然だから、隠さない!」

 お着替え完了。

 なのだけれど。

 アンが両手の甲を自分のお尻から離さない。

 こちらに向けられた手のひらの肉球が、第三の穴からピョンと出てきているしっぽで見えかくれして可愛い。


 可愛い、けど。


「だって~。・・・丸見えですよ?」

 丸見え言わない・・・。


 確かにスカートと違い、体とのスペースがあまり無い、というか、ほぼほぼ密着しているズボンは、スカートに比べて体型が出やすい。


 丸見えってほどじゃないけど。

 無いわよね?


「お嬢様だって押さえてるじゃ無いですか」

 うっ!

 ・・・だって仕方ないじゃない。

 こ、コルセットがないんだから!


 アンみたいに、ズボンのベルトに脇腹のお肉が乗ったりしてたら・・・。


「上着を羽織れば隠れるわよ、ね?」

「なんかきついですぅ~」


 パクパク、バクバク食べてるから。

 お腹に・・・。


「胸のあたりが~」

 ・・・なんですって?!


「行くわよ」

「ふぇっ?」


「い~く~わ~よ!」

 ふん! う、うらやましくなんてないんだからね!


 渋るアンの手を引いて、やっと出発。


 ◎ー ◎ー ◎ー



 壁を越えるごとに馬車を乗り換え、目的地周辺にきたところで降りた私は、馭者(ぎょしゃ)に向かって握った手を突き出した。 

 

「お嬢様、これは?」

 手をパッと開けば、中身は落ちる。

 とっさに受け止めた馭者の手のひらの上で、銀貨が澄んだ音色を奏でた。


「馬車を預けたら、しばらく遊んでで良いわよ」

「えっ? いえ、しかし・・・」

「アンがいるから平気よ」

「・・・」

 私から目を離すなと言われているのだろう、が。


「わかりました」

 銀貨を持った時点で私の勝ちだ。

 渡される前なら固辞するだろうが、一度手にした物を手放すのは難しい。


「あ、後私達がここにきた事は内緒よ」

「わかりました!」

 さらに。

 小さい要求を飲ませてからの本命。

 ちょっとお小遣いには大きい金額の理由も添えて。


 これで彼の疑問は解消されただろう。


 ・・・私の本当の目的に気づかれること無く。


「出かけてないなら、『どんな服を着てったの?』とか聞かれませんものね!」


 その通り。


 だけど、アン。


「・・・手を出しても、貴女の分は無いわよ?」

「ええ~っ!」

 むしろ、なぜに、もらえると思っているのか。


 バレたら貴女も怒られるんだから、黙ってなさいよ!

 

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