さて、お出かけです
「容姿は銀の短髪でレッドアイ。だから、魔法が使えるなら、火属性。騎士としての腕は上位グループ。性格は直情径行。自分が思い込んだら、考えを曲げないタイプね」
「おーっ」
パチパチ、・・・パチ?
私の推理を聞いたアンの拍手に途中でなにかが挟まった。
その名は疑念。
どうやら、他の人の人物評価との違いに気がついたようね。
「いまのって。あの時に見たまんまですよね?」
ふっ。
私は無言で紅茶を口に運んだ。
「容姿とかは、見た通りだし。お休みで人が少なかったとはいえ、公爵家の警備は突破してましたし。性格もちょっと考えれば、容易に想像がつきますっ」
ふっ。
あー。紅茶美味しい。
「なら続きはアンがしてごらんなさい」
「続き?」
「そう。彼がパーティー会場で、ああなった理由」
「・・・」
私に聞かれて、アンがピタリと黙った。
少ないが、お話を組み立てる材料は揃っている。
いくつか、事前に調達しておかなければいけないものもあるけど。
「人に恨まれている可能性はあります。特に騎士科で勉強している人に」
熟考の末、絞り出した答えと引き換えに、アンがグーっと砂糖たっぷりの紅茶を飲み干した。
・・・よほど、エネルギーを消費したようね。
「理由は?」
「あの実力と性格です。腕力があるのに、人の話を聞かないなんて」
うん。正解。
実力からもたらされている自信が、ダメな方向にいってしまっているのだろう。
あれでは騎士科でも、もて余されてるに違いない。
部下側の設定なら命令に従わなければならないし、リーダーとして仮に何人か従わせるなら、突発的な状況の変化や、変化する状況に対応できなければいけない。
今の彼では、どちらの役割も果たせないだろう。
「王子の側近としては “暴” がつきかねない力担当ね。・・・何、考えてるのかしら」
いや、何も考えて無いんだろうなぁ。
王子は、後ろに目の無いタイプだ。
眼前の相手が、いきなり萎縮しだしても、背後の配下が威圧しているなんて、想像すらしないだろう。
「でも、あんまり手は出さないのかな?」
おっ? アン、よくそこに。
「学園内で暴力沙汰のお話って聞かないものね」
手を出さないのか、出せないのか。
前者なら最低限の自制心が備わっているだけだが、後者ならとんだ見かけ倒しだ。
・・・以前なら、速やかに確認するが、今、それは私の役目では無い。
◎- ◎- ◎ー
「次は、ついに! 金貸しのどら息子ですね」
「抜けてる。抜けてる」
え?! って顔をしているあたり、完全に素で忘れているようだ。
まあ、私も、一回確認しないと存在に思い当たらなかったぐらい影が薄いんだけど。
「ああ! 宮廷魔術師の弟子の弟子の弟子の弟子の弟子?」
多い、数が多いわよ。
正確には弟子は三つだ。
「あれ? 魔法科の生徒と、弟子って何が違うんですか?」
他の国は違うのかもしれないが、この国では単に宮廷魔術師といえば、宮廷魔術師長を指す。
つまり、アンに変な黒い飲み物を飲ませたり、変な長四角い小型パンを食べさせるあの人だ。
魔術師長、相談役、生き字引、変な食べ物を作らなきゃ好い人。
と、たくさんの肩書きをもつ人物だが、今関係あるのは、魔法科総長だろう。
補佐をしている副師団長も彼のお弟子さん。
そして、教師陣の中には副師団長のお弟子さんが大勢いると。
師匠から教えを受けるのが弟子なら・・・。
つまり・・・。
「言ったもの勝ちよ!」
「言ったもの勝ち!」
魔法科生徒の一人、よりかは、弟子の弟子の弟子の方が、箔が厚く───。
───なるのかな?
まあ、普段は途中小声になるのかもしれない。
「名前はオンブル。男爵家の次男だけど双子だからもう一人も同学年。当たり前だけど。髪も目も灰色だから、四属性使い。新たに目覚めるなら光よりかは闇の方が可能性はあるわね」
火は赤系統、水は青系統、風が緑で、土が茶。
二属性以上の持ち主は混ざるがオッドアイ。
頭蓋骨が間に挟まる髪の毛はともかく、脳が直結している瞳には、持っている魔力の影響が出やすいと言われている。
魔術師長が糸のような細めなのは、自身の属性を隠すためと言われているし、明るい色なら光属性が、暗めの色なら闇属性が目覚めやすい、らしい。
歯切れが悪いのは、魔力が無い人の瞳にだって色はあるし、綺麗な赤なのに、凄い光魔法の使い手が現れたりするからだ。
一応、その人がどんな属性の魔法を使ってくるか見分ける、という名目で、髪の毛と目玉の色は覚えたけど。
・・・意味あったわよね?
「あんまり、恨まれてなさそうな人ですね」
「そうね」
双子のもう一人はソレイユ。
男兄弟なら何かと張り合いそうではあるが、彼女は令嬢。
特に仲が悪いという噂は耳に入っていない。
影の薄さから、順番がうしろになったが、本来ならスジャーナの次ぐらいで良かったと思う。
「さて、次こそは金貸しのどら息子ですね!」
なぜ、そんな鼻息が荒いのか?
ふんふん! と息で三杯目の紅茶に波紋を描かせているアンには悪いんだけど。
「名前はアントーニー二。通称はアントニー」
「なんで、二を重ねたかな?」
「さぁ?」
私のカップの底を見て立ち上がりかけたアンを手で制す。
一つうなづけばアンが嬉しそうにポットの残り全てを、自分のカップにうつして。
後はお決まりのあの儀式。
砂糖が、一杯・
砂糖が、二杯・・。
砂糖が三杯目・・・。
砂糖が・・・。
「あれ? 情報は? それだけですか?」
「だって、彼、貴族じゃないもの」
さすがの私でも、知らない人は知らないのだ。
「え~。どうするんですかぁ」
どうしましょうね。
「誰かに調べてもらう」
「誰かって、・・・私ですよね?」
「それとなく、噂話を集める」
「のも、私ですよね?」
テーブルの縁をつかんだ両手の間に、アゴの載せたアンが上目遣いだ。
ペタンと、した耳同様に見えないしっぽもシュンとしてるに違いない。
この仕草は・・・。
「・・・お昼を頂いたら、お出かけしましょうか」
「お出かけ!」
ピン! とアンの耳が復活した。
「じゃあ。お昼運んできますね!」
ブンブンブンとしっぽの風圧でスカートを揺らしながら、アンが部屋を出ていく。
・・・まだ、出来上がるには。
早く無いかしら?




