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さて、二杯目です

「それで、あの有り様と」

「でしょうね」

 あの性格なのだ。「ボク王子!」(あっけらか~ん)と身分をあかされてしまえば、逃げるなんて考えられないだろう。

 かくして、王子の新しいパートナーが、めでたく誕生というわけだ。


 まあ、彼女が王子をどう思っているかはわからないけど。


 いや。なぜか、切り立った谷底の激流にもまれるドレス姿が目に浮かぶ。


「そうすると、彼女は流されているだけ?」

「家も拠り所にはならないでしょうしね」


 あっぷあっぷする少女。

 急流の中、ようやく見つけた岩の横でタイミングをはかって・・・。

 ・・・つかんだところがボコッと取れた。


 何しろ、娘が王子の目に止まったのだ。

 ここは遠慮して機嫌を損ねるよりは、と考えるのが普通の親だろう。


「う~ん。聞いてると、あんまりうらやましくないですね」

「玉の輿なのにね」

「たまのこしって・・・なんです?」

 何かしら? 今一瞬アンの顔が物騒に。

 別に処刑後の姿じゃ無いわよ。


 玉は遠い東の国の猫に多い名前だ。

 輿は乗り物の名前らしい。

 えらい人が乗るぐらいだから、凄く豪華な馬車だろう。

 猫なのに、そんな凄い馬車に乗る。

 それが転じて、望外の幸せに出会った時の例えになったのだろう。

 よう、しらんけど。


 決して、殿方の一部分を残して、あとの部分を袋叩き、の、略ではない。




「ん~。難しいですね」

「見た感じだけなら、ラッキーガールなのよね」


 なんで、あんな小娘が! キー! っと嫉妬する人も出そう。

 ・・・事情を知ってれば、がんばっ! って応援する人も出そうだが。


 アンが悩むのも無理はない。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「いまある情報では、こんなところね」

「一旦、保留ですか」


 アンがティー・コージーをつまみ上げた。


「ふふふ」

「なんですか?」

 今日のカバーはワンちゃんを模している。

 アンがつまむと、子供の頃、彼女がアンナに後ろ襟をつかまえられて、ぶら下げられた姿にそっくり。


「何でも無いわよ」

 うん。マナーの勉強から逃げてたアンも立派になって・・・。


「はぁ」

 私はアンが注いでくれた、紅茶に唇をよせた。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「次は宰相の次男ですか」

「そうしましょう」

 名前はマクシミリアント。通称はミリアン。

 父や兄と同じ黒髪黒眼の少年だ。

 特に兄とよく似ているが、本人は嫌がっている様子。

「僕は兄さんじゃない!」って叫び声は、私も聞いた。


 王様ご指名の王子の側近候補=王子の前の取り巻きの一人であった兄は優秀すぎた。


「負けないように」って比べられる相手に、ほぼ完璧な成績(越えられない壁)を残され、彼が卒業しても比較されるとなれば、一人、叫びたくなるのも理解できる。


 ・・・聞いた人は、ビクッ! ってなるけど。


「彼も十分優秀なんだけどね」

「そうなんですか」

「問題はやっぱり性格ね」

「悪いんですか?」

「いえ。弟なのよ」

「ああ」


 兄弟は歳の違う二人の男子ではない。


 離れて一人ずつ育てれば別だが、そうでなければ兄には兄のふるまいが、弟には弟のふるまいが刷り込まれてしまう。


 例えば王子が何かを企んだとしよう。


 それが、何かの決まりを破るなら?


 宰相の長男はいさめるだろう。

 

 そして次男は。


「抜け道を探しちゃうんですね」

 アンのいう通り、兄対兄なら発生する対立が、兄弟では発生しない場合が多い。


 そして、王子は一人っ子で、オレ様タイプ。


「兄が優秀なら、それでいいんだろうけど」

「ボ・・・(ンクラ)、ガ・・・・(キっぽい)あれ(・・)ですものね」

 うん。アン。よくがんばった。


 ・・・聞こえちゃってるけど。


「とすると」

「王子が起こした問題の、矢面に立っていた可能性はあるわね」

 それも、あまり良くない盾として、だ。


「目に浮かびますね」

 アンがなんか遠くを見始めた。


 やらかした王子。

 怒る当事者。

 難しい用語で、決まりの抜け道ともいえないような小穴をつつき広げる宰相の次男。

 もっと怒る当事者。

 さりげなく、見せつける身分。

 仕方なく黙る当事者。

 笑いながら去って行く二人を、睨み付ける当事者。

 手近な物にあたり出す当事者。

 「ちょっと!」登場する当事者の奥さん。

 お小言を言われる当事者。

 くどくどと続くお小言。

 ぶちギレる当事者。

 受けてたつ当事者の奥さん。


「美味しく無い」

「何が?」


 何をどこま(夫婦喧嘩は)でみたのやら(犬も食わない)



「スジャーナさんよりかは、恨まれてそうですね」

「原因はあれ(・・)だけどね」

 ミリアンが恨まれるかは、当事者がもめ事の原因=「アハハ」と笑うアイツに気づけるかどうかだろう。

 油を注いでも、火種が無ければ拭くだけですむのだ。


「次は、副団長の・・・」

「アレね」

 ・・・どうして私のまわりには “あれ” が多いんだろう。


 あれは、あれを、あれするんだろうか?


「お嬢様? 疲れちゃいました?」

「どっと、ね」

「それは、いけません!」

 疲れが取れるんですよーっと。

 こら! 何杯いれるのよ!


 ・・・いい加減にしないと “ン” を “レ” にするわよ?


「これは私が飲みますねー」

 わかれば、よろしい!




「名前はダストング。騎士団副団長の三男。」

「・・・それだけですか?」


 それだけ、とな?


 さすがの私でも、男爵までいくと情報が薄くなる。


「しかも、三男なのよ~♪」

「しぃゆみましぇん、しゅみましぇん」


 あれ(王子)とは違い、素直に謝ったので、私は、うりうり、うりゃー! っと、つまんで伸ばしていたアンのほっぺを放した。



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