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さて、紅茶オンリーです

「狙われたのは本当に王子だったのかしら?」

 今、私はアンがアップルパイを取ると思った。

 三段重ねの一番上のお皿で一番好きなお菓子だから。

 だけど、アンが他のお菓子を取ったように、誰もが誰も、一番を選ぶとは限らない。


 え? なんでアップルパイが一番かって?

 ・・・アップルパイは一番に決まってるでしょ?



「狙われたのは他の人?」

 ちょっと話がずれたが、アンのいう通り、その可能性は十分にある。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「あの時、踊場にいたのは王子以外だと、宰相の次男に金貸しのどら息子、あと少女ですね」

「そうね。けれど、騎士団副団長の三男と魔術師の弟子の弟子の弟子も考えに入れてかまわないわ」

「ああ! 慣れて無いと、詠唱が伸びるって言いますよね」

 そう。

 魔法は詠唱が終わった時点(・・・・・・)で、発動される。

 つまり、発動のタイミングが難しい。

 大抵の攻撃魔法は、術者から目標に飛んでいくようになっている理由でもある。

 対象が自分に向かってくるなら、多少発動時間がぶれても、必ず線上のどこかで当たるからだ。

 同時に、飛んでいく魔法を相手に避けられるデメリットもできてしまうんだけど。


 それに比べて、今回使われた魔法は、いきなり目標近くで発動していた。

 これは、目標に回避する余裕を与えない高等技術なのだが、文字通り、難易度は高い。

 発動位置は詠唱で指定しているので、対象がそこにいる間に唱え終えねばいけないからだ。


「二人を狙ったけど、動いてしまった」

「または、階段から落とすのが目的だった」

 これなら王子に怪我一つ無い理由にもなる。


「問題は・・・」

「動機が、一から考え直しになりますね」

 まったく、そのとおり。


 なんだけど。


 アン。

 嬉しそうに、おやつのお代わりを取りに行かないで!

 お昼もあるんだから!


 ◎ー ◎ー ◎ー


「誰からにします?」

 さぁーっ。さぁーっ。さぁ・・・。

 カップ一杯の紅茶に、どれだけの砂糖がとけるのかしら?

 結局、紅茶のみになった、アンの手元にも興味をそそられるけど、今考えるのはそこではない。


 まずは、・・・。

 ・・・あまり襲われる原因を持ってない人からにしましょうか。

 最初に「こいつだ!」ってなると見落とすだろうし。


 私はいつも王子の影に隠れてる、少女の姿を思い出した。


「少女からにしましょう。名前は、スジャーナ。身分は伯爵令嬢」

「おお」

 すらすらと、彼女の人物像を語り出した私を、アンが称賛の目で見てくれる。


 そう。苦労したのよ。王妃教育。


 名前と身分は間違っちゃ失礼だし、領地の場所やら特産物やら、覚えなきゃいけない事はとにかく多いし。

 それでも、紙とにらめっこできる情報はまだまし。


 顔は実際に見に行かなきゃいけない上、そんなの機会があるわけじゃないから、ほとんど一回で特徴をつかまなければいけないし。

 それを、あの王子は。

 自分はやらないクセに、こっちの苦労をぜんぜん理解しないで・・・。


「お嬢様」

「ん?」

「眉間にシワが」

 おっと、いけない。

 ええと。スジャーナだったわね。


 伯爵令嬢だけど、正妻の子ではない。

 身分が高くなるにつれ跡継ぎの関係もあり、複数人の妻を持つのはそう珍しくもないが、相手が貴族以外となると、とたんに数はへる。

 継承の資格を問われたり、婚姻でも上手く話がまとまらなくなるからだ。


 メイドさんと・・・。


 なんてのもあるが、お屋敷クラスのメイドさんは、ほとんど下級貴族の三女から下だ。


「何ですか?」

 まあ、代々家につかえている、アンみたいのもいるけど。




 そんなスジャーナを、伯爵が引き取った理由は・・・。


 魔力の属性が光だったからだろうか?


 もちろん、自分の娘だから、無条件にって可能性もあるけど。

 

 光の属性は希少だし、回復魔法持ちは一族に一人でもいれば、安心感が段違いになる。

 魔法をかけてもらうのに「お金が足りない!」とか「え? こんなに順番待ちが?」とかならないから。

 ついでに、良縁に恵まれれば、家にとってもバンバンザイというわけだ。

 先ほどの問題も光魔法持ちなら、楽々と突破できるだろうし。


 さて・・・。


「彼女が狙われる理由・・・」

「性格が悪いとか?」

「ん~」


 長らく貴族社会と接してこなかった彼女の性格は、とにかく控え目、に見えた。

 というか、あれはいきなり貴族の多い学園に放り込まれて、何をどうしていいかわかんなかったのだろう。

 壁があれば後ろに。木があれば幹に。知り合いがいれば人影に隠れていたのは本来の性格ではないはずだ。

 それでも、怪我をした人はもとより、動物がいれば率先して治療するのだがら、優しい人ではあるはず。


「なんでそんな人が、よりにもよってあの(・・)王子の?」

「たぶん、知らなかったのよ」

「何を?」

「王子の顔を」

「ああ・・・」 

 

 つまり、適切な距離も。


 王子が同じ、もしくは近い学年にいれば、お近づき、までは───おそれ多くて───いかなくても、顔ぐらいは知ってもらえないかなー、と思うのはおかしくない。

 けどそれは、思いにとどまって、実際に行動する人はまれなので、できあがるのは王子を中心とした遠巻きの輪、なのだが。


「入っちゃったんですね」

「知らず知らずのうちに、ね」 


 王子に見つかってしまえば、後は想像がつく。

 出自の珍しい少女を、あの王子が面白がらないワケがない。


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