さて、動機は
「うぐっ!」
「お嬢様・・・」
今日も今日とて。朝、鏡の前で我に返った。
ベッドの上でスッキリ目覚めたい、とは常々思っているのだが。
なかなか思い通りにはいかないものだ。
本日のコルセット担当はアンナ。道理で締め上げのキレが違う。
アンが、じわ~っと締め上げる感じなら、アンナは、きゅっ! っと締め落とす感じ。
・・・それでも、声は短くもれたけど。
うん。わかっているのよ。アンナ。
毎朝、殿方に聞かせられない声を絞り出してるって。
でも、吸った空気がもれるんだから。
え、吐ききっておきなさい?
気のせいかしら? 二度と吸えなくなるような・・・。
鏡の中のアンナとの、無言のやり取り。
ああ、アン。今日のドレスは明るめの赤で。
◎ー ◎ー ◎ー
「では、報告を聞こうかW君」
今日の犯人捜しの前に、昨日の捜査を完了させよう。
「はい。魔法遅延用の魔道具は発見されました」
アンがさんざん部屋を片付けた後にね。
「大きさは手にすっぽり隠れるぐらい。形状は砂時計です」
ふむふむ。なるほど。
「肝心の使用状態は未使用。なので、今回の事件には関係無さそうです」
「うむ」
良いニュースだ。これで容疑者の大量増殖は無くなった。
今でさえ、卒業生が約百二十人、保護者がほぼその倍、警備とか来賓を合わせると、四百人を少し越えるのだから。
「本当に一つしか無いのよね?」
「はい。中の砂が特殊で、今ある分しか無いそうです」
「砂・・・中身か。まさか、入れ替えられたりしてないわよね?」
「昨日、試しに使ってもらいました」
む? それは重要な情報だ。
「呪文詠唱中にひっくり返すと、砂がですね、上から下に落ちるときに黒から白に色が変わって」
ふむふむ。
「落ちきるまで、杖の先が光りませんでした」
使った魔法はライトか。一見、光属性のようだが誰にでも使える魔法。指定箇所が明るく光るので、発動がわかりやすく物も壊さない、練習や実験にちょうど良い魔法。
そして、魔法は呪文詠唱完了後、即動する。
つまり、魔道具の効果も確かなようだ。
「時間は? 遅れはどのぐらいだった?」
「う~ん。偉い人が一話しゃべるぐらいでしょうか?」
これはもう、確認しても意味はない。
単純な好奇心。
「一回使うとしばらくって言うのは?」
「その後、またひっくり返したんですが、ゆっくり砂が落ちてて、完全に白から黒に戻るのには、五日はかかるそうです」
五日、五日か・・・。
砂時計の砂を早く落とす方法はいくつかある。が・・・。
さすがに五倍まで短縮はできないだろう。
これで、魔道具が使用された可能性の線は完全に切っても良さそうだ。
◎ー ◎ー ◎ー
「と、なると。使われた魔法が判明するまで、こちらは保留」
容疑者から外すにしても、加えるにしても属性がわからなくては始まらない。
「なら、動機の線を手繰りますか?」
「そうなんだけど」
「だけど?」
「王子を襲うほどの、理由がある人が・・・」
腕を組んだ私につられて、アンも腕を組んで目を閉じる。
王子、王子・・・。
金髪に碧眼。
・・・私と似ているのは、血のつながりがあるから。
大抵の公爵家の発祥は、王家からの分家だし、何代かに一回、お嫁さんを出したり、もらったりしている。
まあ、私もその一人になる予定だったけど。
それはさておき。
無邪気な笑顔が素敵だけど、今となっては子供っぽいとしか思えない。
典型的な甘やかされ坊やだ。
何かしたいけど方法がわからない。
当然、取り巻きで処理する。
で、最後の方になっては、「やっぱりこうした~い」と言って土台の部分に口を出すタイプ。
そこを直すには、建てたモノを全部やり直す事になるんですけどねぇ?
口を出さなくても、美味しい所は独り占めしたがるし。
あーっ! 思い出したらイラッときた。
最後の方は取り巻きも、私にしか相談してこなくなってたし!
まあ、だから新しい取り巻きを作ったのか。
恋人も含めて。
実際のところ、生徒は容疑から除外してもいいかもしれない。
物語で殺人の原因になるのは、愛憎と金銭関係だが、あんなのでも、王子なのだ。
中身を知らずに良いなぁと思う女生徒がいても、お付き合いしようとまでは思わないだろう。
近い身分同士でキャッキャウフフとはいかないし。
まずは親を通じて交際の申し込みというのは、しり込みする理由には十分だ。
あくまで王子は観賞用。
お子ちゃまだから、ワンナイトとかわかんないだろうし。
金銭も。脅したり、騙し取ったりはあり得ない。
そんな事をしなくても、使えるお金はたくさんある。
お小遣いが止められたって話も聞かないし。
むしろ、騙し取られたお金を取り返す時に、とか思ったけれど。
ダメね。
たぶん、騙されているのにも気づかないわね。
「これで、愛憎の線も、金銭トラブルの件も無くなったわね? 他に何かあったかしら?」
まあ、だいたいのトラブルは私の耳に入っているはずだけど。
うん。アン。わかってるから。
私を、指ささないで・・・。




