表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/28

さて、夕食です

「ひどいですよ。おじょうさま~」

 アンがヘロヘロ~っと帰ってきたのは、もうすぐ夕食を食べようかな?、ぐらいの時間だった。

 力無く伏せられた耳。ぐんにゃりと曲がった背中。普段は右カールをキープしているしっぽまで、ダランと下に垂れてしまっている。


「きょうというきょうは」

 ついでに口調も。

 なんとなく、知性がスポン! と抜けたような、しゃべり方だ。


「お昼は?」

「なんか、ながしかくいパンが、ちょびっとでしたぁ。えいよう? とかが、つりあいよく、はいってるらしいですけど、よんほんじゃ、たりないですぅ」

 なので、話も実に()らしやすい。


 自分が、怒っていたのも忘れて、座っている私の足にすがりつくアン。

 よしよしと頭を撫でている間にも、ポツリポツリとスカートに、丸い跡がついていくが気にしない。


 どうせ、アンが(自分で)洗うんだし。


「大変だったわね。お夕食は部屋に運んでもらいましょう」

「ゆう食!」

 アンの耳がピン! と力を取り戻した。


「今日は骨付きステーキよ」

「すテーキ!」

 アンが立ち上がって、ぎゅっとこぶしを握りしめた。


「骨はアンにあげるわ」

「本当ですか!」

 ぶんぶんぶん、とアンのしっぽが力強く振られる。


「もう出来上がっていてもいい時間ね」

「行ってきます!」

 疲れを置き去りにして、アンが勢い良く部屋から飛び出して行く。


 若い(単純)っていいなぁと私の目が自然と遠くを眺めた。

 確か私とアンは、一歳しか違わないはずなんだけど。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「それでですね。結局どこにあったと思います?」

 私が食堂に行くと、アンが給仕になってしまうので一緒に食べる事はできない。

 今のように、差し向かいで食事ができるのは特別なのだ。


「・・・机の上の紙の丘の中?」

「えーっ? なんでわかるんですか!」

「ふっ。簡単な推理だよW君」

 マナーモードOFF。気やすい空間の中で、ちょっとお話の登場人物になりきってみる。


「あの部屋には本の山と紙の丘があった」

「ありましたね」


「本を積んでしまう時はどんな時かね」

「読みたいけど、読む時間がない時?」

 それは通称、“積ん読” と言われているが。


「それではあそこまで、高く積まれはしないだろう。ここは読む必要がないけど、捨てられもしないと考えるべきだ」

「買わなきゃいいじゃないですか!」

 あ、まずい。アンが、片付ける人の身にも、とか言い始めた。


「いやいや。買ったわけではないだろう」

「?」

 最近は印刷できるようになったとはいえ、まだまだ書籍は高価なものだ。


 そんなお高いものを買わずにもらえる? とアンが。

 疑問符までは頭の上に浮かべても、続くはずの答えは浮かばないようなので、ヒントをさりげなく示唆(しさ)してみよう。


「ヒントは紙の丘」

 いかん。ぜんぜん、さりげなくなかった。


「丘ですか?」

 それでも、わからないようなので続けよう。


「彼の職業は何かね?」

「変な食品の開発者」

 おおう。

 よっぽど黒い液体と、長四角い固パンの印象が強かったのか、アンの中で、この国最高の頭脳が、コック帽をかぶりだしたようだ。


「宮廷魔術師長!」

「そうでした!」

「と、すると~」

「すると?」

 ぐぐっと、アンが身を乗り出してくれる。


「本は、書く方なのよ」

「なるほど」

 ストンと。話もアンのお尻も収まる所に収まった。

 もちろん、読みもするだろうけど。


「研究書かレポートか。対象を近くに置いて書いてたらそっちに集中しちゃったんでしょ」

 走る羽ペン。ブラインドタッチされるインク壺。

 そして置き場のなくなる、文字の乾いてない紙。


 何しろ、部屋中があの有り様なのだ。


 ちょっとぐらいと、研究対象の上に一枚乗せれば、後は積み重なるだけだろう。


 かくして、魔道具は丘の迷宮の秘宝と化しましたとさ。


「お嬢様が、もう少しいてくれたら良かったのに」

 がじ、がじ、バキン!

 骨を噛み割ったアンが中身を丁寧にナイフとフォークで食べ始めた。


「そうねぇ」

 すぐ見つけても良かったんだけど。


「机の上は触らないでって言われなかった?」

「そうなんですよ。結局他のところに無かったんで、最後に片付けたんですけど」


 やっぱり。


「これも、食べなさい」

「さっきの骨に加えて、デザートまで?! お嬢様・・・」


 感動したらしいアンがそっと──


 ──私のおでこに手を伸ばしてくる。


「熱なんか無いわよ!」

「いえ! あるはずです!」

 おいおい。言いきってくる、その力強さはなんなのよ!


「やっぱりあげない!」

「・・・」

 なぜ、ホッとしているのかしら?

 それでも、私が持ち上げた皿からアンが目を離さない。


 上、下。右、左。


 ぐる~っと回って。


「よだれ、よだれ」

 皿はアンの前に、コトンと舞い降りた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ