プロローグ
初投稿です。
今後男の子を好きな男の子や女の子を好きな女の子が登場予定です。
よろしくお願いいたします。
__無数の花束が空から舞い落ちている。
朝も夜もないオレンジの街に花弁が舞う。
極夜に覆われたここカーモス王国では、観賞用の植物が育ちにくく、手が届かないほどではないが高級品である。故に、これだけの花を国民が目にするのは歴史上初めてのことだった。街ゆく人は皆上を見上げ、こどもたちは窓を開けて身を乗り出している。
__街からは煙が上がり、鐘塔が炎に包まれている。
街の人々は、美しさと残酷さを併せたなんともいえない光景に息を呑んだ。静寂の中で、ぱちぱちと火の粉が飛ぶ音だけがやけに大きく目立つ。煙を吸ったせいか視界がぼやける。誰かが抱きとめてくれているのを感じながら、白髪の少女……キトゥンは、なんとか最期まで見届けようと必死に意識を浮上させる。汗で張り付いた前髪を、抱きとめてくれた誰かがやわく払ってくれる。
「こんな時まで、自分のことなんてちっとも考えないで」
「……うん、ごめんね」
「やっと会えたと思ったらこうだ」
「うん、本当にそう。返す言葉もないや」
ああ、彼は。
こんなところまで自分を追いかけてきてくれた、大切な人。
恋をしているかと聞かれたらいいえで、愛しているかと聞かれてもいいえで、けれども好きかと聞かれたら迷いなく好きと言えて、一緒に死ねるかと聞かれたら――――――死ねる。そんな人。
「ちょっと素直になった?」
キトゥンは笑って、それから彼に起こしてもらって空をもう一度仰いだ。
花弁が舞っている。
火の粉が散っている。
これは、火葬だ。
物語になれなかった全ての魂への。
街ではもう消火活動が始まっていて、街の騎士団が鐘楼へとなだれ込んでいる。この事件の犯人を捕まえるためだ。彼女はきっと逃げないだろう。その心中を想ってキトゥンはただただ一点を見つめる。間違いなく今日という日は王国の歴史に刻まれるだろう。それが彼女の本懐だった。
極夜街に、花束を。