04 隠したい秘密
シュカは既製品のドレスを購入する際には、まず胸がガバガバにならないか気にしなければならないほどに胸のない少女だ。
せっかく変身薬を使ってわざわざ人間の姿をとっているのだからナイスバディになりたいところだったのだが、シュカの人間の姿はこれなのだから仕方がない。
男のようだとコンプレックスに思っていた胸だが、こんなところで活用できる機会が来るとは思っていなかった。
いきなり胸を触らされたヴォルクは青い目を見開いて硬直していた。
ヴォルクの指先は石のように固まっている。
だが、彼の手はすぐにシュカの胸から離れることはなかった。
重苦しい沈黙に耐えきれず、シュカが「ね?」と声をかけると、ヴォルクは我に返った様子でシュカの肩を押して自身の身体も起こした。
ヴォルクの膝に乗る形になったシュカをベッドに座らせ、ヴォルクはうろうろと獣のように部屋を歩き回り、ようやくシュカに向き直った。
「あんたが、ッ男なわけあるか! こんなに柔らかい男がいたら怖い!」
苦虫をかみつぶしたような表情で、ヴォルクは言葉を吐く。
シュカはチラチラと窓の外を気にしていた。
本当に、本当にもう夜が来てしまう。
他に作戦はないかと頭を回していると、ヴォルクは舌を打ってため息をこぼした。
「無理矢理女を抱く趣味はない。あんたの言う通りに、もうひっそりと帰ってやる」
「すみません……」
大教会でかわした誓いのキスはこの上なく幸せを感じさせてくれるものだった。
できることならシュカは彼を受け入れたい。
だがそれは日が落ちれば不可能なことなのだ。
しょげるシュカにヴォルクは眉間のしわを揉みながら背を向ける。
「……あんたは間違いなく女だ。軽々と男に身体を触らせんな」
ぼそりと言い残したヴォルクは静かに部屋を立ち去っていった。
ドアが閉まったその直後、シュカの身体は光に包まれる。
「間に合った。よかったぁ」
シュカの安堵の息と共に光は舞い上がり、背の高いヴォルクの二倍はある巨大な鳥を形どりはじめる。
光の粒が集まり、シュカは本来の姿を現した。
艶のある黒い翼で覆われた巨大な鳥。
全身を覆う羽は月明かりを反射して美しく輝き、赤い大きな瞳の周りに縁取られた長い睫は瞬くだけで小さな風を起こせるかと思うほどに長い。
シュカが少し動くだけで、人間サイズの狭い部屋の中に黒い羽毛が舞い散る。
夜になり、暗くなった窓に映る魔物である自身の姿を見て、シュカは嘴を使って器用にカーテンを閉めた。
「こんな姿、絶対にヴォルク様に見せたくないよ」