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24 慰めの体温

 大衆向けレストランは食事が提供されるまでが早かった。

 いつもより味の濃い食事を終えて屋敷に向かう馬車に乗る。


 リエルは空いていた御者席に座ったため、馬車の中でもシュカとヴォルクはふたりきりだった。


 ヴォルクとこうして馬車に乗るのは結婚式の日以来だ。

 あのときのヴォルクは一言も話さなかった。


 シュカは結婚式前は誓いのキスに緊張していたし、結婚式後には誓いのキスのことを思い出してうっとりしていたので会話はなかった。

 だが今はもうふたりはため口で話し合う、親しくなりたいと思い合っている間柄だ。

 馬車の外を眺めながら、何を話そうかなと思っているとヴォルクが口を開いた。


「研究所には、これからも行くのか?」


「うん。お兄様が栄養剤をつくってくれるからもらいに行かなくちゃ。新鮮な薬草でつくった新鮮なものが良いんだって」


「身体はマジで悪くないんだな? 弱かったりすんのか?」


 前に研究所でも同じようなことを聞かれた気がする。

 あのときはヴォルクにときめきすぎてまともに返事ができなかったことを思い出した。


 今も心配している表情でこちらをヴォルクが見ている。

 ときめきで胸が痛いが、ちゃんと答えておかないと優しいヴォルクは心配したままになってしまうだろう。


「えっと、どうしても飲まなきゃいけないんだけど、身体は悪くないし、弱くもないよ」


 オルクス伯爵家に世話になるきっかけとなった魔物がかかる病は、当時鳥の魔物たちの間で流行していた病だった。

 シュカが大病を患ったのはあのときだけだ。

 他は健康そのものである。


 栄養剤は実は人間になるための変身薬だということを打ち明けられずに眉を下げて答えると、ヴォルクは「なるほど?」と挑戦的に首をかしげた。


「その『栄養剤』ってのが、シュカの抱える秘密と関係あるってわけだ」


 シュカはギクリとしてしまった上に、ギクリとしたことは表情に思い切り出てしまった。

 ヴォルクが言っていた通り、シュカは嘘が下手すぎる。


「まあ、身体が丈夫なら問題ねェ。オレを産んだ女が研究所に通ってたって聞いたから、シュカはどうなんだと思っただけだ」


「お義母様は身体が弱かったんですか?」


 ヴォルクは自嘲的に肩をすくめる。


「さァな。オレを森に捨てた女のことなんてわかんねェよ。噂でそう聞いただけだ。シュカみたいに研究所に通って、毎日栄養剤をもらってたらしいってな」


 ヴォルクの産みの親について聞くのは今回がはじめてのことだった。


 ヴォルクの母親は現国王が気まぐれに手を出したメイドだという話は有名だ。

 生まれた当初は第六王子だったヴォルクは、王位継承争いにより次々と王位継承権を持つ人々が死んでいった結果、第二王子になった。


 ヴォルクの母親もその王位継承争いに巻き込まれて死んだと聞いたが、実際は身体が弱くて亡くなってしまったのかしれない。


 好きな人のことはなんでも知りたくなる。

 貪欲になるその気持ちを胸の内にとどめたのは、ヴォルクの横顔があまりにも悲しそうだったからだ。


 ヴォルクと同じく森に捨てられた子どもであるリエルも時々こういう表情をする。

 そんなときシュカは黙ってリエルを翼の下に隠してやっていた。


 人間の姿ではそれができない。

 シュカはヴォルクへと身体を寄せて身体の側面をヴォルクにくっつけて黙った。

 ヴォルクは少しだけ驚いていたが、耳だけ赤くして拒絶はしなかった。

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