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状態異常の亥城さん  作者: 栗尾りお
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状態異常の亥城さん 3―1

 「お前ら席に着けー。帰りのHR始めるぞー」


 全ての授業が終わり、みんな一息ついているなか担任がズカズカ教室に入ってきた。クラスメイトも担任が入ってきた事に気付くと、すぐに会話を終わらし自分の席へと戻っていった。


 「じゃあ、委員長。号令」


 「起立、気をつけ、礼。着席」


 「はい。帰りのHR始める。まずは配布物から――」


 そう言いながら持ってきたプリント類を配り始めた。

 うちの担任は朝のHRは長いが帰りのHRは異常に短い。プリント類の配布が終われば軽く連絡事項を伝えて終わる。

 いつもなら、あと少しで帰れるとワクワクするはずだが今日はテンションが上がらない。


 2、3日前に亥城さんからハンカチと保冷剤を貸してもらった。それを返すため今日ずっとチャンスをうかがっていた。

 しかし、全然思うようにいかない。今日は移動教室が多く普段の様に近くに亥城さんがいることが少なかったし、移動中に話しかけようとしても凌平が話しかけてきて亥城さんのもとに行けなかった。

 それに、昨日の英語の授業の時に起きたあの一件。話しかけようとするたび、あの出来事が頭の中に蘇り恥ずかしさと申し訳なさで躊躇してしまう。そんな事をしているうちに時間だけが進み、帰りのHRの時間になってしまった。そして、そのHRも終わりに近づこうとしている。


 「他に何かないか? ないなら帰りのHR終わるぞ。掃除当番の奴はしっかりやって帰るように。あ、そうだ。不審者の目撃情報があったらしいから用のない奴はすぐ帰れよ。じゃあ委員長、号令」


 「起立ー」


 担任の指示で号令がかかった。

 はぁ、結局この時間も話しかけられなかった。これであとは掃除をして帰るだけか。一応、俺と亥城さんは同じ班だが、今週の掃除場所は男子と女子で場所が違う。一緒の掃除場所ならまだ可能性はあったのに。これだと近づけないのはもちろん、亥城さんが先に帰ってしまう可能性がある。

 借りた物は早く返さないと好感度が下がる気がする。それに、女の子の可愛いハンカチをいつまでも男の鞄の中に入れておくのはかわいそうだ。

 こうなったら、最速で掃除を終わらせて昇降口で待っていよう。そうすれば確実にハンカチを渡せるし、もしかしたらハンカチ渡したついでに一緒に下校なんてイベントが発生するかも知れない。


 そんな楽しい未来を想像しながら、俺は掃除場所へと向かった。








 「ごめんねー。もう少しで大会だから」


 「そうそう。それに顧問もうるさいから。掃除よろしくねー」


 そう私に謝った2人は楽しそうに歩きながら部活へと向かった。


 「また1人ぼっちか……」


 1人つぶやきながら誰もいなくなった場所を箒で掃き始めた。

 高校に入ってから、こういう事が多くなった。クラスには私なんかにも普通に話しかけてくれる女の子もいれば私を利用するだけの人もいる。掃除を押しつけられたり、日直が運ぶノートを運ばされたり。教室でもいつも1人で誰とも話さないから「頼みやすそう」とでも思われているんだろう。

 とは言っても、私は1人でいることが結構好きだ。雑用を押しつけられるのは、もちろん嫌だ。でも1人だと話題を探す必要はないし、周りの人と色々合わせる必要もない。そもそも私には『状態異常』という能力がある。この能力が発動してから人に近づくのが怖くなった。


 今は発動条件が『私に告白する』だけだけど、何らかの拍子に条件が増える可能性だってある。未知な上に発動頻度や種類がランダムなので人と関わるときは注意しなくちゃいけない。でも注意してても夜舞くんに色々迷惑かけてる。特に昨日の事とか。


 「あれはビックリしたな……」


 あまりの出来事過ぎて、夜舞くんを見るたび、握られた感触がよみがえる。そのせいで今日ずっと夜舞くんに謝りたかったけど行けなかった。本当に自分が嫌になる。


 「はぁ」


 箒で掃く手が止まり、大きなため息が出る。

 昨日は『麻痺』、3日前は『炎症』が起きている。多分今日は何も起こってないと思うけど、これ以上夜舞くんが私のせいで苦しむのを見たくない。

 もしかしたら私の能力の事を離せば夜舞くんにも気を使って距離を取ってくれるだろう。そうすれば状態異常が発動する回数は今よりずっと少なくなるはず。夜舞くんの告白を聞いてしまった時から、この考えはずっと頭の中にあった。でも、なぜかこの方法をやりたがらない私がいる。


 「最低だな、私」


 そう1人つぶやき、再び箒を動かし始めた。

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