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状態異常の亥城さん  作者: 栗尾りお
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状態異常の亥城さん 2―4

 試しに腕を引っ張ってみる。でも指を掴まれていた時点で抜けなかった物が抜けるはずもなく、がっしり掴まれた手はほどけない。

 ようやく現状に気がついた夜舞くんは慌てて手を離そうとする。しかし1度私に触れた時点で動かなくなるらしく、申し訳なさそうに私の顔を見た。

 けど、起こってしまった事は仕方ないし、そもそも私の状態異常のせいだ。


 「だ、大丈夫ですから」


 そう夜舞くんに伝えつつも、一番焦っていたのは私だった。


 ヤバい! 本当にどうしよう。さっき一生このままとか言ったけど本当になってしまいそうだ。 私のバカ! どうしてあの時ペンを机の上に置かなかったの! あんな事さえしていなかったらこんなに面倒な事にはならなかったのに! わざわざ手渡しする必要なんてなかったでしょ! 状態異常を和らげるために距離とったのに自分から近づいてどうするの!


 「はい。じゃあ今日の授業はこの辺りで。さっき言った宿題しっかりやってくるように」


 あー、もう授業終わっちゃう! というか宿題って何?! 『麻痺』に気を取られすぎて後半聞いてなかった!


 「委員長、号令」


 「起立ー」


 委員長の号令でクラスのみんながぞろぞろ立つ。


 大変だ! このままじゃ授業中は気付かれずに終えたとしても、休み時間に入れば確実に誰かに気付かれてしまう。やりたくはなかったけど、こうなったら誰かに頼んで手を離してもらうしかない。でも誰に? というか、第三者が私たちに触っても害はないのかな? 一瞬に痺れて動けなくなるなんてないよね?

 行動に移そうとしても、つい迷いの方が勝ってしまう。早くしないといけないのは分かっているけど1度迷ってしまったら、なかなか先には進めない。


 「とりあえず、このまま立ちましょう」


 迷った末に夜舞くんに小声でそう伝えると、みんなから見えないように手を後ろに隠しながら立つ。

 隠す事に気を取られすぎて自然とお互いの距離が近くなる。あともう一歩近づいたら肩が触れてしまいそうだ。

 その事に気が付かなきゃよかったのに、気づいてしまうと意識して恥ずかしくなる。

 周りのみんなにバレないかとか、誰に離してもらうとか、その人に悪い影響はないかなとか色々考えないといけないのに頭が回らない。本当に今日の私はポンコツだ。


 「気をつけー。礼ー」


 「「「ありがとうございましたー」」」


 頭が回らないまま勝手に号令がかかりみんな礼をした。号令が終わるとみんな解放されたように喋ったり席を離れたりし始めた。

 どうしよう。誰に頼もう。私には友達がいないし、夜舞くんのお友達に頼むと後で夜舞くんがからかわれそうだ。誰か信頼できて口の硬い人いないかな。

 必死に目を左右に慌ただしく動かして適任者を探す。でも焦った頭ではなかなか判断できない。


 そんな時、左手が力強く引っ張られ、私の視界がいきなり傾いた。


 え?


 引っ張られた方を見ると、夜舞くんが私の手を握ったまま着席していた。あらかじめ引っ張る事を伝えてくれていたら耐えられたかも知れない。けど、突然、しかも焦って頭が正常に動いていないに引っ張られたら。


 ガタン!


 バランスを保てなくなった私は吸い込まれるように夜舞くんの元へと突っ込んだ。その反動で夜舞くんを椅子ごと倒してしまう。


 「痛たたたた……」


 ゆっくり体を起こすと、いつの間にかみんなが私たちの周りを囲んでいた。


 「どうした? 何があった?」


 「大丈夫? 怪我してない?」


 よっぽど大きな音だったみたいで、話したことのない人たちも心配そうにこっちを見ている。

 普段あまりみんなから心配される事がないので少し身構えてしまった。でも、すぐに夜舞くんの事を思い出す。


 「あ、あの! 夜舞くんが! 夜舞くんが!」


 「あー、こいつなら大丈夫」


 「え?」


 振り返ると夜舞くんのお友達の……成瀬くん(?)が夜舞くんの近くにしゃがんでいた。


 「息はしてるし、見た感じ怪我もなさそうだから。きっと嬉しすぎて気絶したんじゃない? 一応先生呼んでくる。亥城さんはそのまま手を握っていてあげて」


 そう言うと立ち上がり教室を出て行った。しばらくして男の先生を連れて戻って来て、夜舞くんは無事保健室へと連れて行かれた。掴まれていた手もその時に先生に離してもらった。特に誰にも変わった様子はなかったから第三者が触るのに関しては問題はなさそうだ。あれだけ大変な目に遭ったのに収穫がこれだけというのは割に合わない気がする。

 でも、お友達の言ったとおり夜舞くんに怪我はなく、次の授業が始まってすぐに教室に戻ってきた。私から離れたことにより状態異常も解除されひとまず一件落着といった感じだ。


 周りの人からも、今回の出来事は立ちくらみをした私が夜舞くんの方に倒れてしまって少し気を失ってしまったという風に思われていたらしい。


 ちなみに、気を失った夜舞くんが私の手を掴んで離さなかった事は、クラスのみんなはもちろん、夜舞くんのお友達によって他のクラスまで広がったらしい。

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