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状態異常の亥城さん  作者: 栗尾りお
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状態異常の亥城さん 2―2

 おかしい。なんだか変だ。


 今日の朝の星座占いは天秤座が1位だった。しかも、『全てが上手くいく日。積極的に行動しよう』と

書いてあった。

 普段は占いなど信用しない。だが、今日は違う。朝たまたまゲームのガチャを回したら欲しかったキャラが当たった。登校時も俺が渡ろうとする瞬間に信号が青に変わった。さらに今は5限目だが今日は1回も先生に当てられていない。そして極め付けに俺は今好きな女子と机をくっつけて授業を受けている。

 ここまできて占いを信じないなんてありえない。全て占いの通り。全て上手くいっている。


 と、思っていたのだが。


 この授業が始まってからだ。まるで体に弱い電気が流れているような、ビリビリ痺れる感覚がある。だが物を持ったり当たったりするとビリビリが強くなるくらいで、この前の熱が出た時に比べたら全然マシだ。

 でも、それだけでない。


 ギ……ギギ……


 隣から少しずつ椅子を引きずる音がする。隣を見ると亥城さんがさっきまでいた位置より明らかに遠い位置にいる。


 ……もしかして、避けられている?


 さっき先生が「2人で見て」と言った時も俺しか机動かしていなかったし、今だって俺から距離とっているし。

 俺嫌われた? でも嫌われるほど話していないし。流石にそれはないかな……いや、そうであってほしい。


 「じゃあ……Ms.亥城。次の分の和訳を」


 「は、はい! えっと……『隣に座っている彼は私のことが好きです。しかし私は嫌いです』」


 あまりにもこの状態にぴったりすぎる文章に思わずプリントを見る。だが、そこには亥城さんが言ったとおりの英文があった。一瞬頭の中に最悪な思考がよぎる。


 もしかして、この『彼』って俺のこと? 亥城さんが直接言うのは嫌だからって先生が協力して……いやいやいや、考えすぎ、考えすぎ。それは違うって。これはただの偶然。亥城さんがそんな事するはずがない。っていうか、何だこの文章! 『しかし』から後ろ別に言わなくてもいいだろ。わざわざトドメ指す必要ないだろ! それに今は嫌いでもこれから好きになる可能性だってあるだろ!


 あまりにも俺のことを言っている様な文章だったため、頭の中で盛り上がってしまった。

 とにかく、俺とプリントの『彼』は全くの別人だ。俺には嫌われる心当たりがない。そうしたら亥城さんが離れていく理由は何だろう? あ、もしかして口が臭いとか? 昨日の夕飯、餃子だったし。


 あくびをするふりをして口臭を確認するが、自分の臭いというものは分かりづらい。何度か試すが結局分からなかった。他の可能性を探すために必死に頭を回転させる。


 このままだと好きな子と机をくっつけて授業を受けるラッキーイベントが無駄になる。そう焦りながら考えるが、分からないものは分からない。


 仕方ない。こうなったら奥の手だ。


 筆箱の中をガサガサ探し、紫色のマジックペンを取り出した。

 朝の占いに書いてあったラッキーカラーの紫。テレビを見終わった後慌てて部屋中を探し回って、ようやく出てきたアイテムだ。小さいころお絵かきに使っていた物で、1箱に10色入っている太めのペンだ。これのおかげで遅刻しそうになったが、これで流れが変わるなら十分だ。

 取り出したマジックペンを机の上に置きしばらく亥城さんの様子をうかがう。


 ……特に変化ない。むしろ状況は悪化した。

 さっきまで2人でプリントを見ていたのにプリントの内容が終わり、教科書の内容に入った。もはや机をくっつけている意味はない。

加えて体の痺れがひどくなってきた。授業開始直後は物を持ったり当たったりするとビリビリが強くなるくらいだったのに、普通にしていても痺れる。いや、もはや痺れるというより痛むという表現の方が正しいかも知れない。


 試しに右手を開いたり閉じたりしてみる。すると手だけでなく腕全体に筋肉痛の様な痛みが走る。これではノートとるのに精一杯でラッキーイベントなんて気にしていられない。


 カタン!


 右手を動かした時に机に当たってしまったのか紫色のマジックペンが床に転がり落ちる。

 遅刻しそうになってまで探したラッキーカラーのペンなのに。何の役にも立たず床に落ちるなら持ってこなければ良かった。

 しかし、そんな事を思っても落ちた物が机の上に戻る訳もなく、コロコロと転がっていき亥城さんの机の下で動きを止めた。

 普段だったらすぐ拾いに行くが、この痛みじゃ取りに行く気力が失せる。


 ……最悪。でも、今は使わないし後でいっか。にしても、あの占い全然当たらないな。明日からは別の番組見るか。


 「……あ、あの」


 そんなことを考えながらため息をついていると右から小さな声がした。ふと隣を見ると、さっきまで離れていた亥城さんがマジックペンを渡そうとしていた。

 わざわざ、拾ってくれたのか。これは嫌われている可能性はほぼゼロになったか? むしろ、亥城さんも俺のこと……いや、落ち着け俺。ここで舞い上がったら痛い目を見る。

 よし、落ち着いた。普通に受け取って普通にお礼を言えばいいだけだ。


 「あ、ありが――痛っ!」


 手を伸ばそうとしたその瞬間腕全体に激しい痛みが走る。明らかにさっきより痺れと痛みが増している。あまりの痛みに少しずつしか動くことができない。


 「……もしかして痺れていますか?」


 「え? う、うん、ちょっとだけ」


 「本当ごめんなさい。」


 何で謝るんだろう。亥城さんは何も悪くないのに。


 「ゆっくりでいいですよ。誰もこっちを見ていませんから」


 彼女の優しさに甘え、痛みを我慢しながらゆっくりペンを掴んだ。

 するとペンを掴んだ途端、嘘みたいに痛みが消えた。占いのおかげか分からないがこれで全部上手くいった。今ので体の痛みはなくなったし、亥城さんとも話ができた。


 「……や、夜舞くん」


 隣を見ると長い前髪の間から覗く彼女の瞳と目が合った。顔を赤くしながら上目遣いで恥ずかしそうに見るその姿は呼吸を忘れてしまいそうなくらい可愛かった。


 「そ、その……指が」


 「指?」


 疑問を抱きながら亥城さんの言うとおり指へと目をやる。すると


 「!」


 気がつかなかった。いつの間にかマジックペンと一緒に亥城さんの指も掴んでいた。

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