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状態異常の亥城さん  作者: 栗尾りお
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状態異常の亥城さん 2―1

 私、亥城もみじは能力者だ。


 といっても、世界を変えるほどすごい物じゃなく、能力はただの状態異常の付与。しかも、対象は告白してきた異性のみ。

 正直この状態異常の種類とか発現した理由とか私自身分かっていない事が多い。分かった事があるとすれば、解除方法と状態異常の威力と相手との距離に関係がある事。


 けど、能力が発動しなければ普通の女の子だし、もしも発動しても近づかなければいいだけだ。ついこの間までそう思ってたのに。


 「先生、プリント1枚足りません」


 「え、嘘? じゃあ悪いけど一番後ろは席くっつけて隣に見せてもらって」


 プリント足りないんだ……ん? ちょっと待って。


 えっと……プリントの足りない列の一番後ろは夜舞くん。その隣は……私か。


 こんなの聞いていない。


 この前の『炎症』が起こった時も同じ教室入ってきただけで顔が赤くなっていた。それに席を離して隣に座っているだけで顔が真っ赤だったし、息もあがっていた。


 それなのに席をくっつけるなんて。そもそも今日状態異常が発動するか分からないし、種類も分からない。けど場合によってはすごく迷惑をかけてしまう。


 どうしよう。もしも状態異常が発動してしまったら。怖いからいっそ体調が悪いとかいって保健室に行こうかな。でも、嘘ついて教室を出るのも嫌だし。かといって――


 ガタッ!


 机をくっつける衝撃と音で我に返った。


 ちらっと左を見ると、顔を赤らめながらもプリントを真剣に見る夜舞くんがいた。プリントが私の机の上にあるため、少し身を乗り出すような姿勢で見ている。

 そのせいか、夜舞くんとの距離がやけに近く思えてしまう。多分実際の距離はそれほど近くはないはずだ。でも、意識すればするほど私まで顔が赤くなりそうになる。


 ……落ち着け私。夜舞くんはプリントを見ているだけ。それに今は授業中。集中しなきゃ。


 そう自分に言い聞かせ落ち着きを取り戻す。そして、プリントを夜舞くんの机の方に移動させた。


 よし、これでちょっとは離れられたかな。私は能力者だ。夜舞くんに近づくと状態異常を発動してしまうかもしれない。それに少しだけど身を乗り出してまで真剣に見ていたんだ。だったら夜舞くんの見えやすい位置に移動させた方がいい。


 「これで大丈夫?」


 一人で納得していたところに声をかけられた。びっくりして隣を見ると夜舞くんがこっちを見ていた。目が合った瞬間慌ててうつむいてしまう。


 「プリントもう少しそっちに寄せた方がいい? これで見える?」


 そう言われ机の上に視線を移動させると、配られたプリントが真ん中より少し私の机の方に移動させられていた。

 じっと私を見て反応をうかがっていた夜舞くんに気づき、慌てて首を縦に振る。


 本当はしっかり「ありがとう」と言いたかったけど緊張して声が出なかった。私、何やってんだろ。


コミュ障でお礼の一つも言えないし、ほかの女の子と比べても暗くて地味だ。背も低いしスタイルだってよくない。夜舞くんはこんな私のどこが好きになったんだろう。


 それに比べて夜舞くんはすごい。

 男女問わずクラスの人たちと話しているし、顔もいいし、私みたいのにもさっきみたいに優しく接してくれる。

 そんな人が私のこと好きなんて――


 いやいや、今はそれよりも状態異常のことだ。今のところ何もないように見えるけど、すでに発動しているかもしれないし、もしかしたら時間差で発動する可能性だってある。

 とりあえず、気付かれないように椅子をずらして距離をとろう。席がくっついている今、ちょっとくらい離れたところであまり効果はないかもしれない。でも、少しでも楽になるなら。


 音を立てない様に慎重に、慎重に――

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