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状態異常の亥城さん  作者: 栗尾りお
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状態異常の亥城さん 1―2

 「もみじ! 学校遅刻するよ!」


 「分かってる! 行ってきまーす!」


 お母さんに急かされるかたちで家を出る。


 私、亥城もみじの朝はゆっくりだ。朝起きて、ゆっくり朝ご飯を食べ、ゆっくり支度して軽くテレビを見てから登校する。そしてチャイムが鳴ると同時くらいに校門をくぐり、SHRが始まるちょっと前に教室に入る。

 遅刻はしてはいけない。かといって早く学校に着きすぎると、トイレで時間を潰さなくちゃいけない。私は毎朝、教室にいる時間をいかに短くできるか頑張っている。


 どうして朝からこんな面倒くさいことをするのかというと、()()()()()()()()()()()()()()()()


 ゲームとかでよくある相手に継続的にダメージを与えたり一定時間動けなくしたりするあれだ。

 ただ、ゲームと違うことがあるとすれば発動する状態異常はランダム。さらには私の意思で発動、解除ができない。さらにさらに発動する対象は告白してきた異性に限られる。


 確かにかなり面倒くさい能力だけど、目立たずにしていれば学校生活だって普通に過ごせるし、私の意思で解除できないだけであって解除方法はある。実際ほんの1ヶ月前までは何こともなかったのに――


 重い足取りで教室にたどり着いた私は、彼が休みであることを願いながら、足を踏み入れた。


 ……いた。


 そんな私の願いなど叶うはずもなく、窓側の一番後ろの席に彼はいた。もうすでに状態異常が始まっているのか、しんどそうにぐったりしている。私の意思とは関係ないけど、あんな様子を見ると罪悪感がわいてくる。


 「おはよー! 亥城さん!」


 「!」


 突然扉の近くにいる女の子たちに声をかけられびっくりしてしまった。

 当たり前だけど夜舞くん以外にもクラスメイトはいる。けど、ある意味朝から夜舞くんのことしか考えていなかったから、大げさと思われるくらい驚いてしまった。


 「お、おはよう……ございます」


 人とのコミュニケーションが苦手になった私は、クラスメイトに小さく挨拶を交わし逃げるようにその場を離れた。


 あの人たちはこんな私にも声をかけてくれるいい人達だ。もし友達になれば、きっと楽しい学校生活になるはず。

 けど、だからこそ私はあの人たちと仲良くすることはできない。私の目標は楽しい学校生活を送ることより目立たず犠牲者を出さないこと。

 今でさえ夜舞くんという犠牲者がいるのに。あの人たちのグループに入ったらさらなる犠牲者が――ってそんなわけないか。

 今の私が少しぐらい関わったくらいで、告白されるなんてあり得ない。あるとしたら、それは私の妄想の中だけだ。夜舞くんの告白だって多分何かの勘違いか聞き間違いだろう。


 席に向かいながら、夜舞くんの方をチラッと見るとたまたま目が合った。


 どうしよう。目が合っちゃった。無視するのは変だよね。軽く会釈ぐらいしたほうがいいかな?


 そんな思考が私の頭の中に浮かび上がった。けど次の瞬間、夜舞くんは勢いよく顔の向きを変え窓の外へと視線をやった。


 あ、目そらされた……


 予想外の行動をとられ、少し心が傷つく。


 別に付き合っているわけじゃないし、告白だってたまたま立ち聞きしただけだし、そもそも勘違いかもしれないし。


 そう必死に言い聞かせるも、どこかショックを受けている私がいる。


 しっかりしろ私! やらなきゃいけないことだって、いっぱいあるんだから。


 一人勝手に傷つく私に気合を入れまっすぐ自分の席へと向かった。


 「……ふぅ」


 ため息をつきながら自分の席に座る。鞄を机の上に置くついでに、チラッと隣を見る。

 あいにく夜舞くんはまだ窓の外を見ていた。けど、真っ赤な耳に荒い呼吸、明らかに普通じゃないことが分かる。


 この状態異常は見たことがある。この状態異常に名前を付けるなら『炎症』かな。病気の熱の症状に似ていて、体温の上昇、呼吸の乱れ、全身のだるさが現れるらしい。


 どうしよう。見ているこっちまで辛くなってきた。とりあえず、ここはいつも通り一旦離れてーー


 「おーい、お前ら。席に着けー」


 立ち上がろうとした瞬間、担任の先生が教室に現れた。

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