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状態異常の亥城さん  作者: 栗尾りお
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状態異常の亥城さん 3―2

 よし、終わった!


 最速で掃除を終わらせ昇降口へとダッシュする。

 同じ班の男子たちは必死に掃除する俺を若干引いて見ていたが、そんな事気にしていられない。俺にはやらなければならないことがあるんだ!


 「はぁはぁはぁ……つ、着いた」


 目的地に着いた俺は息を切られながら周りを見渡した。底にはクラスや学年の違う人たちが数人いたが亥城さんの姿はなかった。


 「まだ帰ってないよな」


 さりげなく自分のクラスの下駄箱に近づく。周りを警戒してから亥城さんの下駄箱をそっと開けた。すると中には小さなローファーが入っていた。


 良かった、まだ学校にいるみたい。


 周りに警戒しながら静かに下駄箱をしめ、今度は自分の下駄箱に向かった。

 よし、今のところは順調だ。凌平は部活に行ってるから邪魔されることはない。さっき一緒に掃除してた人たちも部活に入ってた気がする。何事もなければ一緒に帰れるはず。

 そんな事を考えながら靴を履き替え、自分のクラスの下駄箱が見える位置で待った。


 そわそわしながら待つこと5分。

 ようやく亥城さんが――ではなく同じ班の男子が降りてきた。慌ててスマホを取り出しゲームアプリを開く。そしてゲームに夢中で気づいていないふりをする。こういう時にスマホの持ち込みが許可されている事にすごく感謝する。

 ちなみ別に仲が悪い訳ではない。しかし、同じ班というだけで特に仲が良いわけでもなく、こういう時にどういう態度を取ればいいか分からなくなる。

 おそらく向こうも同じ気持ちだったのだろう。軽く俺を見てからすぐ目を逸らし、早足で部活へと向かった。


 「ふぅー」と息を吐きスマホをしまう。


 どうだろ。上手く誤魔化せたか? 個人的には違和感はなかったと思うけど。でも、もう少ししたらもう一人の男子も来るはず。今のでも結構焦ったのに、もう一回同じことをやらないといけないと考えると気が重くなる。仕方ない場所を移すか。


 これ以上昇降口で待つのは精神的にキツいと判断した俺は新しい場所を探すため移動を始めた。


 「待つと言ったらここかな」


 昇降口を諦めた俺は待ち合わせの定番、校門へと向かった。確かにここなら絶対に通る場所だし、昇降口から距離もある。もう1人の男子にも気付かれる事はないし、ゲームに夢中のフリもしなくていい。最初からこうすれば良かった。


 あれ? 遠くからじゃ見えなかったけど校門の所に誰か立っている。あの制服は確か近くの男子校だった気がする。わざわざ迎えに来て彼女と一緒に制服デートですか? くそっ、羨ましい。

 まあ、別に俺も負けてないけど? 俺も亥城さんが来たら一緒に帰る予定だし。帰るだけだからお金もかからないし。


 勝手に対抗心を燃やした俺はチラッとその男子の顔を見る。そしてすぐに下を向いた。


 どうしよう。あいつの近くで待ちたくないな。かといって今さら昇降口に戻るのもな。

 とりあえず、普通にこのまま進もう。そして校門を出て少し右に曲がっていた所で待っていよう。これだと校門を出てきた亥城さんを追いかける事になるが、これなら亥城さんを見失う事もないし、あいつと並ぶこともない。


 打開策を考えた俺はその通り校門を出て右に20メートルくらい進んだ所で足を止めた。うん。思った通り、ここなら出入りする生徒がしっかり見えるし、先に待っている男子生徒の邪魔にもならなそうだ。でも、この状態で好きな子を待つってストーカーしてるみたいだ。別に変な事はしていない。そのはずなのに変な汗が出てくる。……本当に大丈夫だよな?


 不安と戦いながら待つこと10分。ようやく亥城さんが出てきた。よし、今日一日緊張して渡せなかったが、ここで挽回してやる。

 そう思い、一歩足を踏み出す。しかし、二歩目へとは続かず立ち止まる。


 ヤバい、足が重い。前に進めない。あれだけ気合い入れていたのにハンカチを返すどころか近づくことすらできない。もしかして風邪か?


 額に手を当てて体温を計る。……うん、多分平熱だ。体がが重いだけで頭が痛いとかめまいがするといった症状はない。おそらくだが緊張と焦りのせいで重く感じているだけだ。


 しっかりしろ、俺! 借りたものを返すだけだろ? ダッシュで近づいて、速攻で返せばいいから。別に一緒に帰る必要はないし。さっきの男子と張り合わなくていい。身長と顔で負けている時点で勝ち目はないし。


 頭の中でもう一人の俺がおれを責める。確かにこのままだと後をつけるだけで終わりそうだ。もしこのまま返せず亥城さんの家まで着いていってその事が亥城さんにバレたら……そういう事を言いふらす人じゃないと思うが、多分一生目を合わせてくれないだろう。その結末だけは避けたい。


 近づいて、返して、逃げる……近づいて、返して、逃げる……よし、行くぞ。


 少し早歩きで一歩、二歩と前進する。やはり、さっきは変に緊張していたみたいだ。今は足に違和感なく動かせる。

 亥城さんは背が小さいし、歩くのも遅い方だ。これならすぐ追いつく。そう思いながら進むも10歩くらい歩いたところで再び足が重くなり速度が落ちる。さっきは足にちょっとした重りをつけている感覚だったが、今は人に足を掴まれている感じがする。背中の方も何か背負っている感じがする。まるで終業式に置き勉していた教科書を全部持って帰る時のような感じで懐かしい感覚を思い出す。


 「はぁ、はぁ、はぁ……ちょっと休憩」


 あまりの体の重さに思わず膝に手をついて立ち止まる。いつも通っている傾斜もない平坦な道なのに。亥城さんも普通に歩いているし、すれ違う通行人も車も速度を落とす様子もない。

 変なのは俺だけみたいだ。でも、何で? 俺だけ何かした、もしくは何かしてないとか? でも、そんな事ってあり得るか?

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