2.入学式
あのときのことは今でも覚えている。
「ユイ、こちらがこの国、エクスフォス王国、王太子であるジェイル殿下だ」
「レグルス・ユイ・ステイフィス様。はじめまして、ジェイル・ライト・エクスフォスです」
「・・・・・・」
「ユイ?」
「あっ!ご、ごめんなさい。はじめまして、レグルス・ユイ・ステイフィスともうします」
「これからきみとぼくはこんやくしゃになるから、よろしく」
「え・・・・・・?」
「じゃあね、またくるから」
そう言って殿下は去って行った。このときに崩れ落ちなかったことを私は自分を褒めたい。だって、
「おとうさま!わたしはまどうぐしになりたいといっているではないですか!」
「落ち着け、これはユイにとってもいいことなんだ」
「どこがですか!?」
「ユイには聖女の素質がある。それは、誇るべきことなんだ」
「せい・・・・・・じょ?」
「ああ」
私はこの瞬間に思い出したのだ。ここが、『イケメンたちをオトせ!ドキドキラブラブ学園生活!』の世界だと。なお、このタイミング?王太子遭遇のときじゃないの?と言う質問や、タイトルキモいとかの突っ込みは控えていただきたい。というか、タイトルに関しては、私も突っ込みたいほどだ。実際、数千万件の問い合わせがされていた。同一人物の重複もあるかも知れないけれど。でも、頭に膨大な情報が流れてきたことにより、私は、
「ユイ!?だれか、誰か来てくれ!」
オーバーヒートして倒れてしまった。
「・・・・・・新入生代表、ジェイル・ライト・エクスフォス」
やっと長い新入生挨拶が終わった。なんとなく察しているかもしれないけれど、私は、この『イケメンたちをオトせ!ドキドキラブラブ学園生活!』通称、『アイ学』に出てくる悪役令嬢だ。『アイ学』は、『IDL学園』から『アイ学』になっている。そして、私は、どのルートにも出現し、嫌がらせをして、最終的に死ぬキャラ。もう一度言おう。どのルートでも、死ぬ。だから、あのとき、前世の記憶を手に入れてから、私は、婚約破棄のために自分の評判を下げて、ジェイル様にも強くあたった。なのに、行動に移せなかったジェイル様は婚約破棄をしてくれなかった。そして、ヒロインをさっき見つけた。つまり、ゲームのスタート、である。
「新入生退場!」
さて、どうしようか。私は、王妃になるつもりはない。私は、魔導具を作りたい。乙女ゲーム転生系小説だと、破滅回避のためにヒロインと仲良くしている。だけれど、私はこの国から出たかった。魔導具が作りたい。だから、進まなくてはならないエンドがある。それは・・・・・・
「追放エンド、か。」
「レグルス様?」
「なんでもないわ」
どうやって追放されようか。このゲームはすごく作り込まれていて、例えば、王太子ルートに進んだとき、私はDED、追放、修道院、娼館、爵位剥奪のENDがある。どれにしろ死ぬが。それでもDED扱いではない。追放だと生きる術をもっておらず行方不明、修道院は火災に遭って身元不明の遺体がいくつか発見、娼館では男たちに使い潰されて死亡、爵位剥奪だと一家心中。DEDは処刑台送りのときだけだ。そのときだけ、DEDと表示される。それぞれでえられるスチルが違うから頑張った。そして、ヒロインが選べるルートは10人。はっきり言って、多すぎる。ヒロインが進むルートによって嫌がらせの種類も違うし、少しでも間違えれば、追放エンドには入れなくなる。
「レグルス様、どうなさったのですか?」
この子はヤルフォード伯爵家のフェルア・ハル・ヤルフォード様。相談しても黙っていてくれそうで、かつ、入学前から交友関係がある。あわよくば、情報収集をたのみたい。ちょうど教室に戻ってきたし、HRまで時間もあるから持ちかけてよう。
「フェルア様、相談したいことがあるのだけれど、いいかしら?」
「ええ、喜んで!」
フェルア様の他に仲のいい方にも相談を持ちかけよう。口が固い人限定で。