星と月は相容れない
貴方と手を繋いで
サイダーを買いに行く夜が
好きでした
貴方は月が好きで
私は星が好きで
相容れない私たちの始まりは
月の好きな貴方に
「月が綺麗ですね」と
伝えたことでしたね
そしたら貴方は急に黙って
何も喋らなくなってしまったわ
あの時の私の心臓といったら
一生分の働きをしてくれたんじゃないかしら
貴方の息を吸う音で
止まっていた時が動き出して
「お前と見る月だから」
って
私もう耐えきれなくて
大泣きしてしまったわね
電話口に貴方が
おろおろしているのがわかったけれど
それどころじゃなかったのよ
許してね
それから私たちは
同じ夜空を見上げるようになって
貴方は私の手をとって
私は貴方の手を取って
夜の道を歩くようになった
貴方の手の温もりだけが頼りで
なんてことない時間だったけど
私にとっては宝物だった
貴方は夜空を見上げては
「今日は月が綺麗だな」
って
負けじと私は
「明日はきっと星が綺麗よ」
って
そしたら貴方は苦笑して
「そうだといいな」って
言ってくれた
そんな貴方の黒い瞳が
私を映すその瞳が
星よりも綺麗だったこと
貴方は知らないでしょうけど
だから
その黒い瞳が
私を映さなくなっていったことに
気づいてしまったの
貴方は優しい人だから
私が何も言わなければ
きっとずっと一緒に
サイダーを買いに行ってくれるでしょうね
でもそんなの許せなかった
だって私は貴方が好きなの
貴方が幸せになれない道で
私が幸せになれるわけないでしょう
馬鹿にしないでよ
みくびらないでよ
だから、だから
貴方から離れたのに
行きつけの喫茶店で
別れを告げた時の貴方の顔と言ったら
動揺してるのがバレバレよ
ずっと黙りこくってちゃって
一言
「ごめん」
って
あたしが何も言わないことをいいことに
「君なら他の人と幸せになれる」
だなんてね
最後の最後まで
最後の最後まで
ほんと自分勝手な人
「さよなら」って告げて
精一杯胸張って
貴方の方なんか振り返らずに
前へ進んでやるわよ
他の人と幸せになってやるわ
言われなくてもわかってるわよ
最高にいい女になって
貴方なんかより
よっぽどいい人見つけて
貴方が羨ましがるぐらい
幸せな家庭持って
大往生してやるんだから
あぁ
でも
貴方と幸せになりたかった