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第13話【鳴上国:計略の刻】

「王よ、やはりここに居られましたか。皆の者が待っておりますゆえ、お気が済み次第、お出で頂けますと幸いです」


朝政の前、物思いにふける余を探しにくるのは、決まって左大臣だ。


ここは、公卿であろうと容易には入れない内裏(だいり:王の私的区域)でもさらに私的な場所である上に、他の者では余にこのような生意気なことをいうこともできはしないのだから、左大臣が呼びに来るのも仕方がない。


だとしても、左大臣などという大層な肩書を持つものがやる仕事ではないな。その仕事と大仰な役職の場違い感で、笑いが出るわ。


「何をニヤニヤとされておられるのか存じ上げませんが、お出でになる際は、精悍なお顔立ちであることをお願い申し上げます」


 こやつ、相変わらず、なかなかに失礼だ男だ。


「ふん、わかっておるわ。全く、そのような物言い、左大臣でなければ掌底の一発でも叩き込んでやるところだ。……でだ、せっかくおぬししか居らぬのだから、聞いておく。例の策の進みは、どうなっておる?」


「例の策といいますと、花吹雪国の流言のことでございますな? 現在、旅芸人や商人として間者を潜り込ませております」


 ふん、相変わらず、左大臣は察しがいい。余の簡便な問いかけで、正確に知りたいことを答える。


 そして、その返ってくる答えの手際の良さは、恐ろしささえ感じる。余が、策を左大臣に伝えるや否や、事前にその策を予想していたかのように、すぐさま人員を用意し送り込むのだ。

 神算鬼謀の才を持つとは、こやつのような者をいうのだろう。


「流石は、左大臣だ。その手際の良さは、称賛に値する。……それで、間者が流す話は、間違いなく伝えてあるのだな」


「はっ、しかと。間者には『御台所は不義を働いている』『うまら第一姫御子は、王の実子ではない』と、民に噂を流すよう、指示を出しています」


 ふん、その噂が果たして流言か、それとも真なのかは、御台所しかわからぬところだろうがな。


「ふん、なんとも下賤な策だ」


「僭越ながら、私もそのように思います。ただ、下賤な策ほど、民には効果的でありましょう」


 そのことは、余も身をもって知っている。不覚ながら。


「この策に、真っ先に気づくのは、おそらくはあやつであろうな」


 あやつ……あずまは年若くとも、花吹雪国の腑抜けどもと違って、修羅場くぐり抜けている。


「陛下のおっしゃる通りでありましょう。しかし、あずま殿がその策に気づいたとしても、妨げになることはないと思われます。策自体がそれほど効果的でない割に、あずま殿がとれる対策が面倒でありますし、無理をして国同士の争いに手を出すお方でもありません」


 そう、この策は自体の効果をそれほどではない。国が倒壊するほど揺るがすことはできないであろうし、国に亀裂を与えることもできはしないだろう。

 ただ、これによって王家の結束を緩め、うまら第一姫御子の後継者としての正当性へ疑問を投げかけるきっかけとなる。

 民は、王家の血が流れていない不義の子に、王位を継がせてもよいのかと思うことだろう。


「そうだ。だからこそ、次に出す策の下準備としては効果的だ。国を揺るがすための策をより確実に成功させるための、地盤を緩める策として、な」


 我が大願、国盗りの大偉業は、今始まるのだ。


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