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教師の陰謀  作者: 谷川 亮輔
第一章
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約束

八月三十日


駅から十五分ほど歩くと目的の校舎が見えてきた。学校に近づくにつれて聞き飽きた真夏の蝉の声に混じり、グラウンドで部活動に励む学生の声が耳に入ってくる。


高校二年生の片桐隼人は明後日からここ藤浪高校に転入することになり、事前に担任と顔を合わせにやってきた。


転校することには慣れていたものの二学期から転入というのは初めての経験で、そのうえ寮生活ときたのでかなり気が滅入っていた。


門の前に佇んでいると、門に入ってすぐ左にある警備室から五十代後半くらいの警備員が声をかけてきた。


「君は、片桐隼人くんだね?」


そう言うと、待ってましたと言わんばかりに構内地図が描かれた紙を渡してきた。


「それ、持っていって。大まかだけど大体の地図は書いてあるから。分からないことがあれば遠慮なく聞いてね。」


警備員はその強面とは対照的な優しい笑顔でそう言ってきた。


昨日隼人が電話越しに担任と会う約束をした時はこの時間に門の前で待ち合わせるという話になっていた。


しかし約束の時間が過ぎているにもかかわらず担任の姿が見当たらなかった。


「ありがとうございます」


そう言って隼人は数秒立ち止まり、そのまま校門を離れていった。


担任に言われた通りここで待つ事も考えたが、幼い頃から転校を繰り返したということもあり中学の頃から人との会話、というより人と関わること自体が億劫になってきていたのでこの場から出来るだけ早く立ち去りたいというのもあったし、何よりも担任がここに来る可能性の方が低いと感じたのだ。


警備員が隼人の名前を知っていた。それが少し不自然に思えた。


担任が直接門の前で待つのだとしたらわざわざ警備員までに名前を言う必要がないのだ。


それに担任が自ら門の前に行くのが遅れた時のために警備員に名前を知らせておいたのだとしても、ここに留めておくように伝えるか、担任の今いる場所を隼人に伝えさせるはずだ。


しかし警備員は担任に関しては一切口にせず、まるで片桐隼人という名前の人が来たら渡すよう指示されていたかのようにすぐに構内地図を渡してきたのだ。


そんなことをされたら、担任が構内地図を使って職員室に来るように隼人に仕向けたとしか考えたくなくなってくる。


もしそうでなければ、転入生である隼人に自分の今いる場所を伝えておいたり、急用が入ったからこの時間に変更でお願いしますとかいうことを直接電話するか警備員に伝言しておかないのはおかしな話だからだ。


尤も、忙しさのあまり伝えきれなかったとか、担任がそもそも自己中で杜撰な人間ではなから伝える気がなかったとかであれば話は変わってくるが……


様々な疑問と考えを頭にはりめぐらせながら、隼人はとりあえず現時点で担任がいる可能性の最も高い職員室に向かうことにした。

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