司法公務
腹切くん、初めての最高裁判所。
~21~
「ではそこのモンゴルの方……もとい原告人は訴えを述べるがよい!」
日本を訪れている総督が日本各地を視察している間に、腹切くんは久々に公務に励んでいた。それも最高裁判所の法廷内で裁判長として……。
何か保護者から「適当にやっといて」の気まぐれを命令されたらしい……。
腹切くんに促されて、原告のモンゴル人男性が――
「この漫画家が我々のご先祖様……『チンギス・カン』陛下を侮辱したのだ!」と目の前の被告である漫画家の男を指さして叫ぶ。完全……マジ切れ状態。
「まぁまぁ……彼も悪気とか侮辱する気があってネタにしたわけではないのだ」と|モンゴル人男性を宥めるも、当の男性は「そんなの信じられるか!」と全く効果なし。
すると腹切くんは、総督から賜った高価な小槌を「バンバン!」と叩いて――
「まぁ……仮に悪気があったとしてだ……。××にとって、『チンギス・カン』陛下は己の嫉妬の対象するなとは無理がある話なのだよ……」と強引に判決へと移る……!
ちなみに日本の法廷内で小槌は使われていないらしい……。
~22~
「君の誠意……若しくは覚悟を見せてもらおう!」と腹切くんが被告の漫画家に“判決”を告げると同時に、法廷内に腹切の侍従達がぞろぞろと入ってきた。
時代劇の切腹用の大道具を乗せた大きな台車と共に……。
明らかに“切腹”を期待しているかのように、準備を進めている侍従達を見て、被告の漫画家の男と原告のモンゴル人男性の双方が戦慄している!
そこへ腹切くんが原告の漫画家の男に止めと言わんばかりに――
「次第によっては無罪か、有罪……国外追放かを決めよう……。
帝国の品位を貶めるような者には相応の代償を払ってもらう!」と宣告!
――指と腹は絶対ダメ……。と当たり前に思った漫画家の男だが……。
――だからと他を切っても誠意がないと思われては国外追放……。と思い直して「ならば……!」と何かを決意して、大道具内の小刀に手を伸ばし――。
「××の意地を見よおおおおおおっ!」と漫画家の男が叫び、小刀を自身に――。
翌日、彼は非常勤宦官(正式には宮中顧問官)として復活した宮内省に迎えられた。
~23~
腹切くんが直々に裁判長として担当する次の裁判。といっても被告はいない。
何しろ原告側の中年女性が「あたしの息子を返して!」と腹切くんに訴えているのだ!
これに腹切くんが「返せばいいんだな。生き返してみせよう!」と自信満々に答えると、原告の女性が「生き返せるわけないでしょ!」と激高!
そんな女性の怒りをよそに、腹切くんは涼しい態度で――
「できる!けど……大逆の罰金として四億円かかるよ!」と返した。
すると今までの怒りが嘘のように豹変して「じゃあいいです」と訴えを取り下げた。
最早この時代……親子の縁が金には勝てない時代となったか……。
~24~
続いての裁判。今度も別の中年女性が「あたしの息子を返して!」と腹切くんを訴える!
「じゃぁ、四億円を現金でね!」と持ちかけた腹切くんに――
「いいわよ!払うわよ!もう用意してるわよ!」と女性は返事してみせた!
それから一時間後……女性の前に、蘇生された己の息子が現れたが……。
「母さん、心配かけてごめんよ!」と謝る息子に――
「こんなの違うわ!うちの子はもっと悪い子よ」と泣いて否定する女性。
そんな女性に腹切くんは「贅沢言うな!」と一蹴!
「僕……これから心を入れ替えて、陛下の為に尽くすよ!」と決意を述べた息子に――
「マジで別人並みに入れ替わってる!」とさらに嘆いて突っ込む女性。
そんな偽りの親子を背に、腹切くんは口を裂けんばかりにニヤリとして去っていく……。
肉体をそのままに、“魂”だけ入れ替えてやったのは秘密である……!
誰が己に都合の悪い大逆人をそのまま蘇生せねばならんのだ!
次回予告:憲法式典!




