帝国の保護者
保護者の非日常……。
~17~
京都(旧京都府)京都市伏見区内にある二条城。日本の保護者の居城である。
京都民はその城の傍を通るたびに、「何で宇宙人達の居城なんだよ……」とか「これなら偽皇帝様(腹切)の居城がまだマシだ!」と愚痴っていた……。
「ぐははははっ‼侵略した国の城に居座るの――夢だったのよ‼」と二条城内に新たに設けた執務室の椅子に座ったまま、高笑いを決め込む“保護者”を務める宇宙人。
保護者の頭部の上半分は半透明のフードで覆われているせいで、保護者の眼は遠目では全く分からず、近づけばようやくうっすらと見えるほど。
残りの下半分は骸骨の思わせるような顎がむき出しになっている。
その首から下は自軍の軍服。それも日本の勲章をつけれるだけつけて……。
ちなみに保護者は日本を占領している軍の司令官を兼任している。
「閣下、ユーラシア都督府(ヨーロッパを除いた、旧ロシアやアジアを管轄)から命令を受信しました!」と保護者の副官が執務室に駆けてくる。人間だが、れっきとした宇宙人。
「何だ?」と保護者が自身の副官に聞き返すと……。
「本日より一週間以内に、現地“保護者”は二条城を退去し、二条城を現地皇帝に返還せよ!
これと並行し、都督府が指定した事務所で任に当たれ!と……」
「……⁉」
副官越しに都督府の命令を聞いた保護者は思考停止。それも五分程……。
保護者の夢は、本当の“夢”の如く――あっけなく過ぎ去ってしまった……。
~18~
「閣下、摂政就任おめでとうございます!」と自身の秘書から祝福を受ける万歳くん。
「めでたないよ。摂政就任まで日にちがあるんだぜ……」と力なく返す万歳くん。
彼は今朝、日本の保護者から摂政就任の通知を受けていた。
「それに俺の摂政就任に合わせて“内閣総理大臣”の官職が廃止になるし……」
「ええ……閣下……。“太政大臣”の名前を復活させて、日本の占領軍の副司令官兼参謀長に兼職させるそうですよ……」
さらに力なく話しかける万歳に、秘書も力なく返す……。
もう宇宙人達には“保護”の体裁さえする気がなくなったようだ……。
「そういえば閣下!どうも保護者が東京に戻るそうですよ!
なんでも旧アメリカ(既に連邦政府ごと解体された)の『駐日大使館』を事務所にするみたいです!どの“メディア”も真っ先にこれを報じてますよ」
この秘書の言葉に、万歳くんはどこか力なく諦めたように――
「宇宙人達の中に……お目が高い奴がいるな……。
日本を支配するのに一番ふさわしい所を選んだな……」
秘書は「結局、戦後とは何も変わってないということですね……」と悲しげに呟いた……。
万歳くんは秘書の呟きを否定できず、小さく肯くのみ……。
~19~
ここで現在の大日本帝国の現状を説明しておこう。
先ず宇宙人達は新元号を腹切くんの戴冠日付で、『建世』と制定。
当然、その年は同元年となる。本作品の年代もようやくはっきりとする。
さらに宇宙人達は腹切くんが擁立された王朝は『熊』と名付け、腹切くんに『太祖』という廟号と『光斌皇帝』という諡号を贈った。
当の腹切は以上のことには不本意だが、“天”に逆らえるはずもなかった……。
さらに同国政府(宇宙人内閣)は神奈川県を『神奈川都』に、大阪府を『大阪都』に、愛知県を『中京都』に、新潟県を『新潟都』、福岡県を『福岡都』に改称!
東京に集中していた政府機能の一部を、「京都(旧京都府。現俗称は西京都や本都)」や先の諸都に随時移行し始めた。複都制へ舵を切ったのだ!
ここにきてようやく東京一極集中が緩和されるようになる……。
また内務省の復活までの中継ぎとして総務大臣(当然宇宙人)に内務担当大臣を兼職させて、同省が地方の行政を直接指導できる体制を整えた。
これに合わせて、日本の各“地方”ごとに戦前の『地方総監府』を復活させている。
当然、各地方総監には全て宇宙人(占領軍に属する各部隊指揮官)が就任している……。
この地方総監府の復活による、一番の被害地方は北海道。
現地の地方総監府の管轄域と、北海道の領域がピッタリと重なってしまうため、北海道庁は地方総監の一極集中された干渉を受ける羽目になった……。
何しろ一総監府に一道態勢という一対一。道庁の廃止も検討中……。
次回予告:跡形もなく消える旧世界……。