宇宙人達と大国
宇宙では不平等条約なぞ――当たり前。
~100~
ロシア帝国の首都であるサンクトペテルブルク近郊のアレクサンドロフスキー宮殿。
ようやくロシア帝国の地を踏めた腹切くん一行はその宮殿に宿泊中。
現在、一行は明日の戴冠式に向けての打ち合わせをしている。
一方、地球総督は同宮殿内の仮執務室内で、ギーガー大佐から――
「閣下。若干準備不足な面もありますが、ロシア帝国の戴冠式が予定通り可能です!」
これを聴いた総督は「何とかなったか……」とホッとして――
「戴冠式は予定通り実行する! 任務続行と各部隊に伝えるのだ!」とギーガーに命令。
「やれやれ……。こんなに忙しい総督府は久しぶりだな。
これなら傀儡の身分がまだマシ――」という総督の呟きを……。
「閣下、次の案件です。全て、大国の高等弁務官事務所からです!」
ギーガーはこの台詞と共に、大量の書類で総督の言葉を遮った。
その厚さ――三糎程度……。
「……」
自身の決裁を必要とする大量の書類に対して、総督は絶句するのみ……。
その時の総督の仮面の奥の表情は、総督自身も知らない程に――無。
~101~
先の話の続き。――絶句するだけでは埒が明かない。と悟った総督。
自身の目の前に差し出された大量の書類の内、一番上の書類を手に取って確認する。
「えっと……。これは大国に貸す租借地の分だな。
バイコヌール、ディエゴガルシア、グァンタナモ基地の三地域。
これは侵攻前からの協定通りだな」
この総督の台詞通りに、宇宙人達と大国は同盟関係にある。
しかし、その関係の本質は、大国が主で、宇宙人達が従。
故に、“余程の理不尽や不当”ではない限りは、大国に従わなければならない。
なお先の三地域の租借の代償は、地球内の敵勢力の征伐への協力。
故に大国は侵攻時から征伐に協力している。それも積極的に。
実は地球側の戦死者の九割強は、大国の戦果。
その真の意図は地球内の労働力を少しでも減らすこと。
要は宇宙人達が強くなり過ぎないように、人的資源を減らせる時に減らすのだ。
そもそも大国が宇宙人達に同盟を半ば押し付けるように持ちかけたのも、宇宙人達の行動を監視する目的。
都合が許せば、宇宙人達の行動にも制限をかける予定だ。
「次は……大国に貸す基地の一覧か。要確認の書類か」
この総督の台詞にある「基地」の租借の代償も、地球内の敵勢力の征伐。
「これから先は……開港する地域の一覧。
この次は……地球対象の“通商条約”関連だな」
この総督の台詞にある「通商条約」に至っては、不平等条約。
通商に関しては、地球の主である宇宙人達にも容赦ない。
その内容は下記の通り。
・地球内に輸入される大国からの物品に関しては、関税を免除。
・地球内では、大国に片務的最恵国待遇を認める。
・地球内では、大国の治外法権を承認する。
流石に宇宙人達の本国(各構成領等)では上記のような不平等条約は通じないが、本国以外は別。それが大国との同盟の代償。
これまでの解説の裏で、書類の厚さを一糎まで減らした総督は――
「いいなぁ。傀儡は楽に生きてて……」と嘆息した。
次回予定:再興ロシア帝国の戴冠式に臨む腹切くん。




