シャヴィン
今回は宇宙人達の行事のお話です。
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ハロウィン。古代ケルトの祭事であるサウィン(日本のお盆に近い)を期限に持ち、現在では旧アメリカ等で民間行事として定着した十月末日の行事。
この日、該当の国々の人々は仮装することが定番。
実は宇宙人達にもこれに相当する行事――シャヴィン(Chawin)がある。
だが、その重大さは地球の比ではなく、期間も十月から十一月までと長い。
その前半部分の、十月中は死者を弔う為だけに行進する期間。言わば――弔いの月。
この死者には、自身の先祖や身内、戦死者及び殉職者、ペットや家畜等、広範囲に及ぶ。
無論、他にも宇宙人達には死者を弔う行事はある。
だが、この十月中の死者のみ、自国が討ち取った敵の将兵や獲物まで含めているのが特色。
それ故に十月中、イベント参加者のほぼ全員が仮装するが、あまり大声で笑ったり騒いだりしない。只々、公道を厳か気味に行進するだけ。
十月中の仮装と言えば、死に装束、昔の服装をした戦士、昔の文武官の制服が定番。
他は死者を表す怪物(ゾンビ系やミイラ等)や動物ぐらい。
仮装しない者も行進に参加できるが、その際は喪章をつけるのが相応しいとされる。
なお先の文武官の制服には旧共和国や共和政の時代物も含まれているが、本来は宇宙人達にとって、無許可や無免許で着用すれば罰金刑を受ける制服。
宇宙人達の「弔うべき“敵”は弔う」と「敬うべき“敵”は敬う」という信条から、シャヴィンの期間中のみ、無許可や無免許での着用が許されている。
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続けて、シャヴィンの後半部分の、十一月中は今年の終わり及び新年の訪れを前以て祝う為にあちこちで宴会を開く期間。言わば――祝いの月
宇宙人達は十一月一日の零時になった瞬間から騒ぎ始める。
十一月中の仮装と言えば、皆の思い思い。定番が決めきれない程、多種類。
民間でも小規模、ほぼ全ての各政府機関も最大で中規模な宴会を開く。
その宴会の日も“期間中に一日だけ”だったりすれば、金銭面で非常に余裕がある人に限っては期間中毎日開いたりする。
流石に毎日参加する者はほんの一握りだが……。
例え戦場でも、最前線以外では豪華な食事が将兵に提供される場合がある。
また地球のような“植民地”を管轄する部隊も、十月中はより小規模で行進、十一月中もやや厳か気味だが小規模な宴会を開く場合がある。
流石に強い警戒が必要な地域では、各々の故郷のようにはいかない。
ここ地球の各所で行われたシャヴィンは以下の場となった。
地球の人々(官民問わず)と宇宙人達との交流の場。
反乱分子と宇宙人達との衝突の場(当然、反乱分子の末路は死刑か流刑)。
大国から派遣された外交官や駐留軍将兵との交渉の場。
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王政復古されたポーランド。その王国のオシフィエンチムという都市の郊外に腹切くん達はいる。新設されたばかりの宇宙人達の大規模な駐屯地を視察する為だ。
腹切くん達はその基地の責任者から基地の説明を受けていた。丁度、以下のあたり。
「ここ――当駐屯地内では反乱分子に対する矯正施設も併設されています。
また、モノビツェの分屯地には工廠が年内に併設される予定です。
ブジェジンカの分屯地は大国へ租借され、既に同国の駐留司令部がされています」
別の所では、駐屯地内の指揮所を視察中の総督は隣にいる副官のギーガー大佐に――
「予想以上にすっきりして、清潔感に溢れているね」と駐屯地内部の印象を述べた。
それにギーガーは「大国が熱狂的に手伝ってくれましたから」と答えた。
次回予定:傀儡の主はつらいよ。




