アンパン戦記
本日二回目の更新。
ある絶望に立ち向かった男のお話は今回で終わります。
~92~
今回も、宇宙人達に捕らえられた某国の一将兵の日記から、その内容の一部をご紹介。
ちなみに今回の更新分全てがこれと同じテーマ。
この収容所に捕らえられて十日目。
健康的に痩せていく俺の身体とは裏腹に、俺の精神はどんどん蝕まれている。
今日の悪夢は――顔にモザイクがかかった男性から、自分の顔面にアンパンを叩きつけられる夢だった……。その後を思い出そうとしても、頭が痛くなって思い出せない。
どうやら体と心がその先を思い出すことを拒否しているのだろう。無理もない……。
この収容所に捕らえられて十一日目。
今日の悪夢は――顔にモザイクがかかっているヒーローから殴られる夢だった。
その際に「黴菌の兄さん、覚悟!」と言われた。
何で俺が悪役な上に黴菌扱いされなければならないのだろう……。
この収容所に捕らえられて十二日目。
今日の悪夢も――顔にモザイクがかかっているヒーローから殴られる夢だった。
何かむかついたから、反撃してヒーローの頭部をモザイクごと吹っ飛ばしてやった。
だが、どこからかモザイクが飛んできて――ヒーローの頭部が復元。スペアのようだ。
結局、俺は復元されたヒーローに殴られて、宇宙の果てまで……。地球は青かった。
~93~
この収容所に捕らえられて二十日目。もう俺の精神は限界だ……。
見る顔全てがアンパンに見える……。見る物全てがアンパンに見える……。
この収容所に捕らえられて二十一日目。悪夢も酷くなってきた。
今日は知らない家で、頭部がアンパンで覆われた家族から逃げる夢だ。
この収容所に捕らえられて二十二日目。もう……本当に駄目だ……。限界だ。
このアンパンを誰かに……特に宇宙人達に投げつけてやりたかった。
しかし、そんなことをすれば即死刑。早まるな、俺。堪えるんだ、俺……。
この収容所に捕らえられて三十日目。
Anpan, Anpan, Anpan, Anpan, Anpan, Anpan, Anpan, Anpan, Anpan,Anpan, Anpan…….
気づいた時には、残りページのほとんどが「Anpan」で埋め尽くされていた……。
あと数ページしかない。いよいよ終わりが近い。この日記にも、俺にも……。
~94~
この収容所に捕らえられて三十一日目。俺は宇宙人達の隙を見て脱走に成功。
収容所にいる間は知らなかったが、どうやら……ここは日本のようだ。
その日の午後に、俺はある民家に匿われた。
その一家は言葉の通じない俺に、親切にしてくれた。
そんな時に一家の少女が俺に食べ物をくれた。――それはアンパン。
次の瞬間、気づいた時にはその少女の顔面にアンパンが叩きつけられていた。
どうやら俺は無意識のうちに、アンパンを彼女の顔面に投げつけてしまったようだ。
私は何てことを……。何故、皆の頭部がアンパンに見えるのだ?
何故この世の全てがアンパンに見えるのだ? ああ、全てがアンパンだ……。
その日の内に通報されて、俺は逮捕された。
俺はそのまま宇宙人達の収容所へ連れ戻された。
その直後の裁判で受けた判決は――懲役一か月。その間、毎食アンパン生活。
結局、俺は無罪と引き換えに、軍事機密を宇宙人達に売った。
それは遊撃戦に備えて秘匿されているの予備の秘密基地の場所だ。
こうして俺の戦いと、この日記が終わった……。翌日から精神科で入院生活だ……。
次回予定:そろそろ腹切くんサイドへ……。




