旧クリル三地区
いよいよ腹切くんが日本の大問題にメスを入れる……!?
~57~
某日、赤坂離宮のある一室で腹切くんとその孫娘の望の朝食中……。
「ジジイがお仕事してるとこ見たい!」と死んだ目で話しかけられた望に言われた腹切くんは「よっしゃぁ!見せたらぁっ!」と目を――カッ‼ と開いて気合を入れて――。
「食い終わったら、宇宙人達に土下座だ!」と続けた。
しかしいつもの悪い目つきのままの腹切くん。過剰な気合で失敗しなければいいが……。
望も死んだ目を変えることなく「何を『じかだんぱん』するの……?」と不安を漏らす。
その頃、復元されて新たな大日本帝国保護者兼占領軍司令官の居城となった延遼館の執務室では、その保護者が自身の副官から――
「閣下、ユーラシア都督府から新たな命令が届きました。命令書によれば――
『ロシア帝国があまりにも広すぎ、現地の味方が統治することに面倒くさがっている。
また現地の抵抗運動がむかつくので、報復したい!
故にサハリン州のクリル三地区を正式に大日本帝国に復帰させよ!』と……」
この副官を聞いた保護者は「上級司令部の命令の前置き――まんま言わなくていいよ……」とドン引きしつつ副官に返した。こんな侵略が上手くいっていることが恐い……。
それから午前が過ぎない内に、腹切くんが望と護衛達を引き連れて、占領軍司令部(旧総理大臣官邸)を訪れた。中に入ると、多くの司令部要員と共に待っていた保護者から――
「陛下、今日は大日本帝国にとって“おめでたい日”になったよ!
都督府の命令でロシアのクリル三地区を再支配することになったからね!」と告げられた。つまり『北方領土問題』が解決するという意味だ……。
そして保護者から「ああ……そういえば、話って何?」と尋ねられた時――
「いえ……もう拡大されて終わってました……」と腹切くんは答える他なかった。
この時、腹切くん側に“めでたい”気分を覚えた者はだれ一人おらず、皆――拍子抜け。
腹切くんが話をすれば多少の抵抗があるだろうと予測していたが故に……。
結果――腹切くんの有り余った気合は、ゲームなどの暇潰しに無駄遣いされた……。
~58~
あれから数日後――腹切くんと望の姿は護衛達と共に、復帰した領土の一つである
占守島にあった。既に旧クリル三地区内に在った旧ロシア連邦守備隊や警備隊は殲滅され、反逆した住民も全員――殺されるか、追放された。
結果――“旧ソ連”時代から続く住民は十人にも満たない始末……。
「やった……俺やったんだ……。諦めかけたことあったけど……何とかなったぞ……!」
地面に膝と手をついて、その地に涙をポツポツと落としていく腹切くん。
ちなみに腹切自身は何もやっていない。よくそこまで感動できるな……。
しかし、この時点で日本人達にも酷な話が進んでいる……。
日本領復帰の通達があった翌日――旧北方領土を含めた千島列島に対する植民計画が始まったことを知らされた。もちろん植民者に地球人は含まれていない……。
植民者は全員――宇宙人や宇宙人達の支配下にある異世界人など!
当然、腹切くんらにその計画を拒否したり妨害する自由などない。
急ピッチで進行中の植民計画は……実行の待つ寸前の段階まで進んでいた。
それ故に、北方地域の復帰と聞いてお祭り気分になる日本人は誰もいない……。
この時点で日本人達はある設定を悟り……受け入れてしまった……。
もう“旧北方領土”が――真に日本人の手に戻らないことを……。
~59~
クリル三地区が大日本帝国に復帰して即日、抵抗運動が活性化していた!
その日までは地下活動や森林地帯で身を隠していた旧ロシア領内のほぼ全組織が……その日に至っては宇宙人達に向かって市街地戦を仕掛けたり郊外の基地を強襲し始めた!
とはいえ各地の戦いは皆――始まって数時間で宇宙人達に制圧されたが……。
元々、クリル三地区の件は隠れている反乱分子を挑発して日の当たるところに誘い出して叩き潰すのが真の目的。その意味では大成功したのだが……。
――全反乱分子が一丸となって手が付けられなくなる前に、皆殺しにしなくては……。
これを受けて、事態を重く見たロシア帝国政府(既に連邦政府は解体済み)。
そんな政府は上級司令部のユーラシア都督府に二つのことを進言した。
一つはさらなる報復として、残ったサハリン州全土(樺太全島)を大日本帝国の支配下に変えること。もう一つは禁断故に封印されている強力な兵器の投入である。
前者の提案は一時保留されたが、後者の提案は僅かな検討を挟んで採用された。
そして僅か数時間で「禁断の兵器の封印の解除」という進言が総督の耳に入った……。
次回予告:宇宙人の禁断の兵器登場!




