邪恨砲
宇宙史上――最凶の兵器登場⁉
~35~
地球の総督は、現地の占領軍司令官を兼ねている保護者の官邸(ベルビュー宮殿)を訪ねた後、同じく同地の占領軍副司令官兼参謀長を兼ねている首相官邸(旧連邦首相府)を訪れていた。同地の占領政策の中枢を視察するためである。
当然、現地の議会は解体され、大統領や首相を含めた閣僚級の人事も、現地人から宇宙人へと代わっている。各地の州内閣にもだ。
その後、視察を終えた総督はベルリン市内を悠々と視察。
それからベルリン市内の視察を終えた総督はシェーンハウゼン城で宿泊。
その夜に総督は仮面を脱いで、ハーブティーを嗜みながら、自身の副官であるパウル・フォン・ギーガー(Paul von Giger)大佐からの報告を耳に入れていた。
ちなみに総督の素顔は、白長髪で褐色肌の――穏やかな初老の紳士である。
「閣下、先の『鍵十字』に関する会見後、欧州を中心に大規模な反乱等が起きていましたが――全てわが軍に数時間で鎮圧されました!」
ギーガーの報告を聞いた、総督はどこか哀れ気味にティーの水面を見て――
「愚か者の末路だ。機が熟すまで忍べば――我々を討てたかもしれんものを……」と呟く。
「御尤もです。反乱者共に流れてきた武器が全て我々に管理されているものと知らず……。それに工作員も見抜けられないとは……」
総督の呟きを聞いて、嬉々としてそれに答えるギーガー。
事実、反乱失敗の第一の原因は“準備不足”に尽きる。
反乱分子共に、予め買収した工作員を使って、早まったことを促す。
後は自分達が反乱と同時に故障されるよう改造した古い武器を……反乱分子共の手元へと、怪しまれない商流に流すだけ。
訓練不足もあって、ほとんど悟られなかった。
そして反乱は工作員達の誘導によって、宇宙人の都合よく収拾することができた……。
~36~
夜のティータイムを終えた総督は、仮面を被りなおして――
「ところでその反乱で捕らえた者達はどうしてるかね?」とギーガーに問う。
「我々の凄惨な拷問を受けている頃です」とギーガー。
「“弾”の補充が済み次第、戦争作戦発令の合図を出せ!」
この総督の命令に、ギーガーは「御意!」と応じて、どこかへと走っていった……。
総督はノートパソコンを用意して、作戦の要となる兵器を視察する。
その時のノートパソコンの画面には、一門だけとはいえ巨大な要塞砲が映っている!
砲の大きさは旧日本海軍の長門級戦艦が装備している砲に匹敵する!
そんな要塞砲の分類は――『邪恨砲』と呼ばれている。
それを見た総督は「天の怒りの火だ!真の神罰を食らうがよい!」と独白!
~37~
邪恨砲……。宇宙人達が有する“最凶”の兵器の一つ。
人の恨み辛みを核として、生きた人間の“魂”を“弾”として発射する恐るべき兵器!
当然、弾として発射された人間の末路は――運が良くて永遠の廃人。悪くて死亡。
どちらにしろ魂は消滅するので、暗黒の結末が待っている!
人の恨み辛みを核とする以上、その威力もそれらの感情に比例する。
それ故に、“弾”に肉体と精神の両面で苦痛を与えるのが当たり前。
必然……これを担当する将校も罪悪感を持てない狂人しか選ばれない……。
ある一例に、“弾”となる男へ自身の愛娘から「パパ――百キック(キック百回)!」というビデオメッセージを送って、人生のどん底へと叩きつけるという手法がある。
ちなみに邪恨砲の威力は“弾”に苦痛を与えるだけでなく、標的に対する恨み辛みを抱かせれば――その威力は反比例する!
ある一例に、“弾”となる別の男に『所属組織の指導者がお前の妻と浮気してたぞ』という事実を証拠映像ごと教える手法がある。
邪恨砲から発射された弾は――その着弾地点一帯を“呪い”とかしか言いようがない力で覆い尽くす!その力の餌食となった男は――弾からあまり恨まれていない者で心臓麻痺。
だが逆に弾から恨まれていた者は――原因不明の苦痛に全身を襲われて死ぬ。
直接的な破壊はなく、範囲も調整可能。味方には一切リスクがない設定。
宇宙人達の地球侵攻にもその威力を存分に発揮しまくっている!
このようにして欧州のほぼ全域で、全反乱分子が根絶される。
ただでさえ低い再独立の芽と共に……。
次回予告:腹切くん――フランスへ!




