ドイツ
腹切くん――世界へ!
~32~
本日、腹切くんは……冕冠(即位時に宇宙人達から与えられた、前後十二旒計二十四旒のオリジナルの冠)と冕服(礼服)を着用して、京都(旧京都府)中京区内の二条城(腹切くんの居城)に帰ってきていた。
宇宙人達によって作られた“新大日本帝国憲法発布式” に出席するために……。
「こんなにわくわくしない憲法記念日は初めてだな」と腹切くんは、隣にいる万歳くんに声をかけた。万歳は戦前の元帥海軍大将の正装に身を包んでいる。
万歳くん残念気味に「だって休日じゃないもんな……」と腹切くんに返した。
それから間もなく“新大日本帝国憲法発布式”が始まった。
同式の主催者は総督、同式の総裁(実行委員長)には日本の保護者兼駐留軍司令官。
今式典で、新憲法は総督が皇帝である腹切くんに授けるという形で発布される。
「さ……陛下。我々が創った憲法を受け取ってくれたまえ」と腹切くんに憲法を手渡す総督。
その憲法を腹切くんは「拝受します」と台詞と共に受け取る。
ちなみに腹切くん、新憲法の内容を知るのは今日が初めて。
今日まで内容を気にしていた腹切くんが憲法を見ると――内容は《それは》たった一か条!『大日本帝国は全権力をマルケルデ総督府に委任する』だけ!
「……」
内容を知った瞬間、腹切くんは――早速、昔のフランス(ヴィシー政権)のパクっとる!と心中で突っ込んだ!それを表情に出さないようにしていたが……。
腹切の目が突っ込みを抑えきれていない……!
――どうせ宇宙人達に都合がいい憲法なのだろう……。と覚悟していても……。
「さっ……今式典が終わったら、私と一緒に……世界行くぞ!」
この総督の一言に「え……⁉」と驚きの言葉を禁じ得ない腹切くん。
聞いていた万歳くんも――このタイミングで、本気か……⁉と内心で動揺!
あまりにも突然のことに、二人とも反応が取れない……。
~33~
そして地球総督、腹切くん、万歳くん、その他必要随員の一行が日本から出て一番最初に向かったところは再興されたドイツ帝国(旧ドイツ連邦共和国)。
これは総督の予定に合わせてのことらしい。
腹切くんがこの地について真っ先に行った公務が戴冠式への出席。
大日本帝国の皇帝即位の際には、京都の二条城で同帝国保護者から冠を受けた。
しかし今度は総督から直々に冠を戴くらしい……。
それをドイツではブランデンブルク州の州都ポツダムの無憂宮殿で……。
そうして戴冠式が始まり、腹切くんは総督から直々に――
「“ドイツ皇帝”及び“プロイセン王”、“兼任”おめでとう!」と冠を戴いた。
「ありがとうございます。でもいいんでしょうか……?ドイツ皇帝が日本人で……?」と腹切くんが総督に話しかけると、総督は「大丈夫。君、日本人じゃないから」と返した。
「……」
総督の返答に、自らの帰属意識が崩壊した腹切くん。それ故に――
「今戴冠式が次はバイエルン王のと、ハノーファー王のと、ヴェストファーレン王。
それから……ザクセン王とヴェルテンベルク王のと!あとは……」と以上のような総督の口から出る、自身の現地での膨大な予定が頭に入ってこない。
驚きと絶望が混じった表情のまま思考停止、体も固まってしまう腹切くん……。
~34~
腹切くんがドイツ内の各王としての戴冠式や即位式に出席するために、ドイツ各地を回っている頃、総督はベルリンのシャルロッテンブルク宮殿から会見を開いた。
地球の地球人共に以下の総督府令を発するためである。
「地球の一部地域では『鍵十字』を規制されている。
挙句の果てにはこれに禁止マークを重ねたり、ゴミ箱に突っ込む……!
以上の行為は我が一族や他家の家紋を汚す行為――すなわち侮辱に他ならない!
現時点を以て、このような行為には一族郎党の死、若しくはこれに準じて処分する!」
こうして総督のいつもの穏やかさではなく、厳しい口調で発せられた布告によって……。全該当人物の理想は絶たれた……。
「それと……『鍵十字』を地球人が政治利用することも禁止する!犯した者は先の者達と同様に処分する!」
某組織残党の野望も絶たれた……。残るは“天”の都合だけ。
次回予告:腹切くんがドイツ各地での即位式や戴冠式で忙しいころ。




