宵闇の王は花粉症
妹と逆の玄関から右側の道に出た俺が歩いていたら、目の前に見覚えのある制服の着こなしをしている奴がいたので話しかけた。
「宵闇の王さんおはよう」
「なっ……! ククッ……ここで会ったが2日振りッ! オークよ! はっくしゅん! ぅぅ……おはよう大輔君。それと太郎って呼んでくれないか」
「ああ、わかった。太郎おはよう。……花粉はまだ辛いのか」
太郎の口元にはマスクが、目元にはゴーグルが装着されていた。
ここで会ったが2日振りッ! っていうセリフのときも決めポーズをとっていたが、ゴーグルとマスクで絶望的にダサい。
ゴーグルの上から眼帯をしているのが更にダサい。
「辛いな。去年より症状がひどくなってるよ。……だが、我は屈しない! 光教会の卑劣な魔法に屈し……べぁくしゅん! ぅぅ……屈しないのだ」
「無理して喋らなくてもいいぞ……太郎」
「……強がって宵闇の王に徹しないと、花粉に敗北してしまいそうなんだよ」
確かに今年の3月の太郎はやばかった。室内ゴーグル当たり前、外に出れば「右目の封印がっ!!」といいながら両目を抑え、「我が左腕が疼く……擦ると悪化することは目に見えているが、やめられないのだ」といいながら両目を両手でこすったりといっていることとやっていることが違っていた。
両目がウサギのように赤くなっていたし、咳も凄かった。
「ときに大輔よ、貴様がこの道を征くのは珍しいことではないか?」
「そうだな。妹もこの天の川高校に入って来たんだけど、外では話しかけるなっていわれてるんだよ。家では普通に話すんだけどね」
「ほう。妹君がいるとは初耳……フェックシュ……! 初耳だな」
あれ、言ってなかったっけ。
太郎とは休日に遊んだり、学校でも一年のとき一緒だったって事もあり割と仲が良いから、言っていたものだと勘違いしていた。
「貴様と身なりは似ているのか?」
「いや、まさか。家族で太ってるの俺だけだし、そこらのアイドルより可愛いんじゃないか」
「……ふむ。今の話で理解した。貴様シスコ……ぷぇっくし……! シスコンだな。……オークよ。妹君に欲情だけはやめたまえ」
「はあはあ……妹……可愛いよ妹……ジュルル……って欲情なんてしないからな」
そう言って太郎の方を見るとなぜか俺との距離を開けていた。
「い、今のは本当に演技なのか……。いや違う。真に迫っていて大輔君の背後に本物のオークが見えてた……」
「太郎、宵闇の王モードから佐藤太郎モードに戻ってるよ。それと演技だからな」
「あ……うん。……ククッ! この宵闇の王(キング オブ トワイライト)の目を欺くとは……流石我が盟友だ」
なんだろう。
太郎は確かに宵闇の王モードになったが、距離がさっきより遠いままな気がするのは気のせいだろうか。