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早速一年たった

 ーーピピピピッピピピピッ……


 目覚まし時計の音がなり俺は目を覚ました。

 体を起こすとそれに合わせベッドが軋む。

 学校へ行く前にまず歯磨きをし、寝間着を抜き、制服に袖を通し、朝食を食べる為にダイニングへ行く。

 ダイニングへ行くと朝のニュースがテレビ画面に映し出される中、妹の杏と母と父はもうすでに食べていた。

 テレビで時間を確認すれば、まだまだ余裕がある事が分かる。


「おはよう。いただきます」


 そう言って、俺は朝ご飯のオムライスを手を付けた。

 今日も美味い朝ご飯を掻き込んでいると、杏にジッ……と視線を向けられた。

「なんだ? 杏」

 不思議に思い俺は杏に視線を向ける。

「よく朝からそんなの食べられるね」

 眉を顰めた杏にそう言われた。

 ちなみに、オムライスは俺専用であって杏父母は普通にパンやスープなどを食べている。


「え、時間なんて関係なくない」

 どんな時間に食べても美味いものは美味いし、不味いものは不味い。俺には油っこいものが入らないとか、軽いものが食べたいといった感覚が分からなかった。


「そんなんだからデブなんだよ」

 杏ちゃん。ごもっともです。

 茶化したように俺は心の中で呟いた。


「まあまあ、大輔の大は大きいの大だから」

「大食いの大でもあるぞ」

「とにかく幸せそうに食べてくれるから、作った側としてはどんどん食べさせたくなっちゃうのよね」

 母がからから笑い、父は新聞を読みながらケタケタ笑う。


「……お兄ちゃんが太った要因って主に二人のせいだよね」

 杏はため息を吐いた。



「「行ってきまーす」」

 入学式から一年がたった。俺とともに家を出た杏も天の川高校の生徒だ。


「お兄ちゃんは玄関を右から出てね。私は左から出るから」


 玄関から抜けるとおもむろに杏は呟く。

「別に同じ高校なんだし、一緒に行ってもいいんじゃないか?」

 ぶっちゃけ左から出た方が学校近いし……。

「……学校の人にお兄ちゃんみたいなデブが兄弟とか思われたくないから嫌だよ」

「別に皆そんなの気にしてないって」


 杏は気にしすぎなのだ。自分達が思っている程周りは自分達に興味はない。

 俺の楽観的な様子を見て杏は眉を釣り上げあがる。


「お兄ちゃんはいいよね。私と違って評判が下がることないから。逆に私みたいな可愛い妹がいて評判上がるもんね? それに対して私はこんな恥ずかしいお兄ちゃん知られると、評判だだ下がりだよ」

「わかった、わかったから」

 可愛いとか自分で言っちゃうんだ……。まあ、確かに可愛いけど。

 長い茶色の髪の毛は、絡まることなくさらさらしていて、瞳はぱっちりと大きい。厚すぎず薄すぎない唇に、綺麗に整えられた眉。

 妹とだからなんとも思わないけど、妹じゃなければドキドキしているかもしれない。


「わかったなら痩せてよ」

 怒りに細められた杏の目に、気まずくなって視線を外す。

 わかっているんだ……。けれど、

「……ごめん。ご飯が美味くてやめられないんだ」

 俺が痩せられないのはご飯が美味いせいだ。

 美味いものの大抵高カロリーなのが悪い。

 何度か挑戦したダイエットはそれ以上のリバウンドを齎した。

「そうやって言い訳して、結局お兄ちゃんは痩せる気がないんでしょ……? お兄ちゃんは私よりご飯が好きなんだ」

 耳が痛いセリフだ。

 けれど、決してそうじゃない。そうじゃないんだ。


「そうじゃない。杏かご飯……どっちが好きかなんて、選べるわけないだろ」


 俺がそう言うと杏は今まで以上に鋭い視線を向け、歯をくいしばった。

「お兄ちゃんなんて……大っ嫌い!」

「あ、待って杏」

 杏は玄関を抜けると左に曲がる。

 追いかけようとも思ったのだが、あの様子じゃ下手に刺激するのも良くないな。


 よし、……帰ってきたら謝ろう。


▽杏視点


 最悪、デブ、痩せてよ。

 なにが、『杏とご飯……どっちが好きかなんて、選べるわけないだろ』なの。嘘でも私の方が好きだっていってよ。それに、お兄ちゃんが太っている次点でご飯の方が好きだって、答えは明白でしょ!? そんなセリフをいうなら痩せてから言ってよ!

「……お兄ちゃん、馬鹿」

 きつく強張らせていた表情が緩んだ。

 ちょっと泣きそうになる。


 昔のお兄ちゃんはかっこよくて、優しくて、私の自慢だった。

 友達も皆お兄ちゃんがお兄ちゃんで羨ましがってた。

 けれど、お兄ちゃんが太っていくに連れて、皆の目が変わった。

 あるときには苦笑いされた。

 あるときには可笑しそうに笑われた。

 あるときにはあんなおデブを誉めるとか見る目がないって言われた。


 あんなにかっこいいお兄ちゃんを、キモイって友達は笑った。


 そうしているうちに、友達にお兄ちゃんを見せることが恥ずかしいことになった。

 そして、そんなお兄ちゃんの見た目をかっこいいと今だに感じている私は、

「……デブのお兄ちゃんは、気持ち悪いだけだよ」

 思ってもいない言葉で、自分の本心を誤魔化した。

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