入学式にて厨二病現る
あちこちで起こる出会いの中。新島大輔は緊張感を持って天の川高校の入学式会場の体育館に入った。
席順は決まっておらず来た人から詰める仕組みのようだ。
大輔もそれに従い席を詰めて座る。
「大輔ー! はーいこっち向いてー! ピースピース!」
なぜだか保護者席の方向から、母親の声がした気がしたが幻聴だろう。
母親や自分に注目が集まっている気がするのだが、それも気のせいだろう。
大輔は冷や汗を流して知らない人のふりをする。
ふと、隣の人がどんな人か気になって大輔は隣を見る。
大輔より1つ早く座っていたのは、丸眼鏡をかけていて、髪を2つ縛りにしていて、前髪が長い少女だった。
彼女は何をするでもなく下を向いて座っていた。
話しかけようかなと思った大輔だったが、俯きがちで座っている彼女は人との接触を拒んでいるように見えたので止めた。
自分の後から来た人も隣に座ったのでならばと思い、大輔はそちらも見た。
「!?」
その隣に座っている人の姿に、大輔は驚く。
この高校のブレザーにはなぜか腕を通しておらず羽織っている状態で、右目には黒い眼帯、左手には包帯が巻かれている男だった。
「あの、その腕大丈夫か?」
奇抜な見た目をしているぶん、その見た目の話題から会話に入りやすい。
包帯を使うほど怪我をしている彼に、大輔は心配そうに尋ねた。
「うぇ……! な、な、な、なんてことない!」
「あ、もう怪我は治っていたんだな。そうそう。はじめまして俺の名前は新島大輔。よろしくな」
「そ、そうか! 急に貴様が話しかけるから知り合いだと思ったぞ」
「ははは、違う違う」
(こ、コイツ! 知り合いでもないやつに話しかけるとは……なんだ! コミュ力の塊か!? 恐ろしい……)
内心ビクビクしながら右目に眼帯をしている少年は自分が名乗っていないことに気付き自己紹介をすることにした。
「貴様の真名は把握した! ククッ! 次は我が名乗ろう。我の名は宵闇の王(キング オブ トワイライト)。深淵より産まれし闇を操る、破壊の宿命を背負いし者だ。……こちらの世界では佐藤太郎と名乗っている。よろしくな」
「うん。よろしく。キングオブトワイライトさん」
佐藤太郎もとい宵闇の王(キング オブ トワイライト)は大輔のセリフを聞いて身悶えしたあと、若干赤くなった顔で髪の毛をいじりながら呟いた。
「……佐藤太郎の方でお願いします」
「オーケー、分かった」
「……………そう。そうなのだ。いついかなるときも油断してはならない。光教会の連中がどこで耳を立てているのか分からないからな。我が真名を明かすのは盟友になり得るものだけなのだ!」
如何にも今設定を思いつきましたと言わんばかり太郎。
これが噂に聞く厨二病ってものだろうと大輔は理解した。
「つまり、友達になってくれると?」
「っ! そ、そこまでは深く考えていなかったが仕方がない……。オークよ友になってやる」
「オークって……」
うん。確かに太ってはいるから否定はしないけどね。
太郎が包帯をしていない手を差し出したので、大輔は苦笑しながら握手した。
ぼっちになる可能性はなくなったな。と大輔は嬉しく思う。
「……ときに大輔よ。後ろで貴様の名を呼ぶ声が聞こえるが、応じなくてよいのか?」
「あまりツッコまないでくれると助かる」
「……うむ」
その後、入学式で校長の話を聞いたりした。
大輔は入学式が始まると、包帯や眼帯を取りブレザーの袖に腕を通した太郎に対し、めちゃくちゃ真面目だ……という印象を抱いた。