一宿一飯の恩義と最初の絶望
ゴブリン襲来
3
夜も深くなり客達も部屋や家路につくころ事件は始まる
ロバートが宿に駆け込んでくる
「マーガレットヤマト君の部屋はどこだい急いで逃がさないと大変なことになるんだ」
「ロバートどうしたんだいそんなにあわてて何かあったのかいとにかく落ち着きな」
「落ち着いてなんていられるかゴブリンの集団この村へ向かってきてる冒険者の生き残りが最後の力を振
り絞って伝えてくれたんだ無駄にはできないんだ今村人を集めている俺達は死んでも彼が生き残れば必ず
助けを連れて来てくれる村に残るのは俺達だけでいいだから彼を逃がす教えてくれ彼はどこだ彼には息子
を救われた恩があるだから彼はこんな絶望的状況で死なせていいはずがない」
「馬鹿だねあんたそれを聞いて見捨てられる冒険者なんてあたしゃ見たことがないよあたしたちが言うの
はただの一言力を貸してくれそれだけでいいことだろまったく男ときたら言葉が多いだよそうだろヤマト
君」
床をきしませながら武装したヤマトが現れる
ヤマト自身驚くほどに冷静で恐怖におびえることもなくただ誰に言われたわけでもなく誰に望まれたわけ
でもないただひたすらにここでのうまい食事に見ず知らずの自分を怪しむことも無く迎えてくれた人々が
宵闇から迫り来るゴブリン達に蹂躙されるのが我慢ならなかった彼を動かしたのは理由なんてそれだけで
充分だった
「ヤマト君死ぬんじゃないよこのわからずやに生きて見せてお挙げ本当の冒険者って生き物をあんたなら
私はできるって信じているからね」
そう言って前を通るヤマトの背中を叩く
頷き宿を出て行くヤマトをあっけにとられたロバートが見送る
「あれが彼なのかあんな覚悟を決めた表情を浮かべさせてわしらは見守るしかないのか?」
「しょうがないだろ私たちは彼の邪魔にしかならない」
「若者を犠牲にして得た未来になんの価値がある」
「それはどうだかねあの子無駄にしに行くつもりは無い様だったよもしかしたら」
「英雄の一戦がこれだと言うのか?」
「あるいはね」
村の入り口にたどり着いたヤマトは村の木戸を閉め唯一の入り口の前に立ち塞がる
「きたか」
そういって空に光を打ち上げる光に照らされて姿を現すゴブリン達を睨み付けると一斉に数で押そうとし
て襲い掛かるがヤマトの振るう刀をくぐれるものはただに一匹もいないあらゆる方向に目があるがごとく
切り伏せられる動きが止まると刀の血を振り落とす
わずかに付いていたゴブリンの血にいきり立つゴブリン達を押しとめる様に体躯の大きい個体達が声を上
げると一般的なゴブリン達は跪きそれを迎える
「あれはまさかゴブリンキングとゴブリンナイトじゃないのか?」
途端に形勢が悪くなると考えた村人が色めき立つがヤマトは冷静なままだった
そして手を掲げると一言「我が敵はすべて凍てつけ」
眼前すべてのゴブリン一般兵達は氷柱と化し刀の一振りですべて砕け散った残ったのは三匹ゴブリンキン
グ・二匹のゴブリンナイトだけだった
「圧倒的じゃないか彼はまさに英雄か勇者なのか?」
「ロバート何をのんきなことを言ってるんだいくら相手が三匹とはいえ相手が悪いんだぞ」
「わかっているさ最低でもBクラスパーティー複数で討伐する相手なのに気が付いていないのかお前ら
さっきまでと顔色がまるで違うことに」
「え・・・・・・・・・・」
「さっきまで青白いほどだったのに血が通って普通じゃないか」
「だってしかし」
「現金なものだな体ってやつは本人には気づかせずとも勝利ってやつを信じてやがるお前ら声を上げろ俺
たちが年食って忘れちまった勝利の確信があることを体が訴えているんだ俺たちの英雄に力を戦えぬわれ
らの代わりに戦う彼を一人にするな術は無くとも心を祈れ信じろ彼が立つ限りやつらがこの村を襲える道
理は無い」
声をあげる人々の声が戦歌となり戦うヤマトに力を与える
笑みを浮かべ何度はじかれようとも刀を振るい向かってくるゴブリンナイトと切り結ぶそして音を上げた
のはゴブリンナイトだった片腕を失い膝から折れ立ち上がれないゴブリンナイトに
「とどめがいるのか」と聞くと首を振ったナイトたちは自ら命を絶つ
漫然と勝利した後のことに思いをはせていたゴブリンキングは舌打ちをすると地に倒れたナイトたちの遺
体を踏みつけると
「使えない奴等だ王であるわれの手を汚させるとは」
しゃべるゴブリンに驚いている村人達にゴブリンキングは宣言する
「お前たちの希望はこの男か今すぐ絶望に変えてやろうそして勝利し村の男たちは皆殺しにし女たちは皆
ハーレム住人となり我の物にしてやろう死ぬまでゴブリンを生み続けるのだ光栄に思うがいい、それがい
やならばこの男を自分たちの手で殺すがいい」
そう言ってげらげらと笑い声を上げるゴブリンキングに
「足をどけろ」
「何か言ったか弱く下等な人間」
「もう一度言う足をどけろ仮にも王を名乗るなら自分を守って死んだものたちに敬意を払え」
「こんな奴等に敬意など払う必要などあるものか我の血筋の者なのに弱いにも程があるぞ王である我に手
を汚させた時点で無価値なのだよこいつらはな」
そう言って踏みつける足に力をこめるとげらげらと笑い出すと
「お前の敵だったのだぞこいつらはなのにこいつらに敬意とか名誉を守れとか笑えるは」
この言葉には我慢できずにヤマトがほえる
「なら話はここまでだ俺の顔を絶望で染めてみろよできるならばな」
次の瞬間にはゴブリンキングは手にしたナイフを密着したヤマトにつきたてたかに見えたにやりと笑うゴ
ブリンキングに
「何が楽しいんだ」
ナイフは体からそれ指先をわずかにかすめるていどで止められていたが
「掠りさえすればナイフの効果で貴様は身動きもできずに我に殺されるのだ」
再びげらげらと笑うゴブリンキングにヤマトは
「かすった程度で大喜びなんてちょろいなお前だます必要ないだろ」
「何を言っているどうだしびれるか苦しいかええ言ってみろよ」
「なら言ってやるお前馬鹿だろ解って構えていたのに何も備えていないと思ったのか?」
距離をとったゴブリンキングを一瞬で距離をつぶして殴りつける動けないとたかをくくって無防備だった
ボキン音を立ててゴブリンキングの骨が折れるのたうつキングに
「まずは一つ」
ヤマトは逆に宣言する
「もう貴様に期待しないあらゆる物を砕いた後でギルドに提出しよう」
キングは気が付いた自分が逆鱗に触れてしまったことを目の前の男を怒らせたらこの世界中モンスターを
総動員したとしても敗北するのは自分たちだと
そしてそれを伝えられてであろう手段は存在しなくなったことを
自覚したキングが最後に見たものは自分唯一無事だった頭をつぶすヤマトの刀だった
朝日が昇り村に平和が戻ります
次回朝日とともに戻る平和と旅立ちの日