休憩
平日、普段なら部活に行っている時間だが、スケは忘れ物を取りに教室へ戻っていく。
すると教室の中から女生徒のはしゃぐ声が聞こえた、帰宅部の連中だろう。
「ねぇ、あなたは好きな人とかいるの?」
「えーヤダ! 言いたくないですぅ~」
「……B組の彼とか……」
スケとしては気になる内容だった。聞き取りづらかったため潜伏魔法を発動し、教室にこっそり入っていく。
「かっこいいよね~! 運動もできるし! 他の学校でも有名みたいよ!」
「……私はもう少し勉強ができる方がいい」
普段は物静かな生徒も混ざっている。
「でもやっぱり見た目って大事よ~。一緒にいるだけでも嬉しくなっちゃうもの!」
「テニス部の一年の子も良くない? 彼ってすごく礼儀正しいよ~」
「確かに礼儀正しいらしいけど、ホモって噂もあるわよ!」
「えぇー! なにそれ~! ウケる!」
物静かな生徒がスケの方をちらりと見る。
(あれ! バレてねぇよな!)
スケは自分の手を見るが魔法は発動している。ちゃんと見えていないはずだ。
「……スケ君とかどう?」
スケはもう一度自分を見るが確かに消えている。
「あー! 結構いいかも!」
「リュウくんとタツくんといつも一緒にいるよね!」
「チャラいイメージあるけど、意外と女の子の噂聞かないね~!」
「案外、硬派だったりして?」
「硬派といえばタツくんでしょ!」
「え~、ちょっと真面目すぎるでしょ!」
「でも身体の筋肉すごいわよね!」
「あなたほんとに筋肉好きね~!」
「だってこの前の武術部の模擬戦見た? すっごく強いのよ!」
「一番強いのはスケ君でしょ! この前魔法を二種類使ってたように見えたけど……」
「でもリュウくんはこの前勝ってたよ!」
「タツくんなんか勉強もできるし、あなたいいんじゃないの?」
「……なんか違う」
スケは笑いをこらえるのに必死だった。
「リュウくんは……行方不明になってからなんか感じ変わったよね」
「わかる。もともとクールというか人に無関心な雰囲気はあったけど、なんだか近寄りがたくなったというか……」
「……あれは、魔力の感覚よ。……どうしてかはわからないけど、魔力が放出されてるように感じる」
「そうなの? そういえばあなた魔力感知で学年トップだったもんね!」
「……」
物静かな生徒はおもむろに厚みのある教科書を取り出し、スケの方へ思いっきり投げた。
「痛って!」
教科書は額に当たり、スケは声を上げる。なんとか潜伏魔法は解かなかったが、急いで教室から逃げ出した。
「ど、どうしたの急に、声がしたけどもしかして誰かいたの!」
「……なんでもない」
スケは忘れ物も取らずそのまま武道場へ走っていった。