ブックとは
トラベラーズホームで閃光が迸る。リサは急いで計測室へ向かった。そこにはリュウ達三人の姿がある。
「おかえり。無事で良かったよ」
三人の表情は暗い。
「……あまり明るい物語では、なかったようだね。早く帰って休みたいかもしれないが、記録だけ取らせてもらいたい。いいかな?」
「……やっぱりそうだね」
【ヒューマンセル】の記録を取り終え、三人の魔法を計測したリサが言う。
「一度世界を往復した人間は、魔法が変質したり魔力量が増えるっていうのは以前言ったとおりだ、だがその後その種類が変わることはあまりない。二度目か三度目か、はっきりは言えないが強力な魔力に当てられて備わった魔法だ。それだけ変質しにくいんだろう。……つまり、君たちの魔法もそのまま、魔力が大きく増えたということだ。……リュウ君の魔力はもう安心してもいいかもしれないレベルで増えてるよ。それでも人の目もある。それに限りあることに変わりはないから、魔力は引き続き抑えたほうがいいだろうね」
トラベラーズホームを後にし、メガネの男が運転する車の中でスケが言った。
「やっぱり、ケイジさん死んじゃったんだろーな」
「あの爆発だ。きっとケイジさんでも助からないだろう」
「……あれがブックの通りだったのかな」
リュウが呟く。
「どういう意味だよ?」
「ブックに書かれることは既に起きたことだけだ。未来予知なんて魔法があるのかは知らねぇが、そうじゃないなら、俺たちでなんとか出来たかもしれないかと思ったんだ」
「……ブックに書かれたことが運命として決まっていたことなのか、それとも俺達の選択でそうなったことが書かれていくのか。そういうことだな?」
タツはそういった。
「なるほどなー。……今度リサさんに聞いてみよーぜ。これはそうとう大事なことかもしれねぇ」
「……なるほど、面白い観点かもしれないな」
三人はブックについての疑問をリサに話した。
「しかし、ブックが【本】という形である以上、誰かが予言して書いたものじゃあないかな。……これは個人的な見解だが、私は【第三者】が、その予言のできる人物がなんらかの目的があって、異世界からブックを送り込んでいると考えている。これはつい先日偶然わかったことなんだが、ブックはこの世界に出現する際にも僅かではあるが魔力を放つんだ。……その質はトラベラーが移動する際の魔力に非常に似ていた。つまり、ブック自体異世界から来たものと言って間違いないだろう」
「異世界の誰かが予言をし、記した本をこの世界に送り込んでいるんですね?」
リュウが言う。
「まあ、予測でしかないが、私はそう考えている。この世界じゃなく、異世界、私が行った世界や君たちが行った世界でも同様にその【第三者】から送られているんだろうね」
「うーん。はっきりしないっスねぇ」
「トラベラーである君たちには当然、わかったことは即座に伝えるが、こればかりはまだ謎だね」
三人はホームを後にした。
「結局、分からず終いだったな」
「ブック自体未だに未知のものであることには変わらない。仕方がないといえば、仕方がないだろう」
「まあ、リサさんはああ言ってたが、それこそオレ達の行動で変わらないとも決まってはいねぇんだ。最善を尽くそーぜ」
これが三人なりの結論だった。しかし、三人は【最善】がいかに難しいことであるか、いずれ知ることになるだろう。