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リュウの魔法




 翌日、トラベラーズホーム、魔力調査室。


 服も調べたいとのことから三人は今日も学生服だ。鎧や武器はリサの徹夜の作業で調査は粗方終わったそうだ。今日は、異世界で何が起きたかを記録したり、武器を実際に使用することになる。


「フフ、フフフ、君達の武器の宝石……すごく膨大な魔力が込められていた……いや、これは正確じゃないかも知れない! 魔力を変換、強化する仕組みが、強力な魔法によって造られていた あぁ! きっと、想像もできないほど強力な炎系か爆破系の魔法の使い手がいたはずだ! そんな人物の協力がなければこんなものは作れない! さあ、君達のブックの話を聞かせてくれ!」


 そして三人は話し始める。三人が体験した【ファンタジカ】の世界を。リサは話を聞きながら記録を取っていく。


「……本に載っていない人物?」


 【アヤ】のことだ。


「そうなんスよ。確かにあの場にいた上に魔王とも実際に戦闘したっス。それに一つの村も守り抜いてるんス。なのに本に載ってないってこういうこともあるんスか?」


 リサはメガネを外す。


「いや、今までそういう事例は聞いたことがないな。ただのすれ違った人や人混みなんかは、そうでした、って表現されて終わりなんだが、そこまで話に深く関わっている人物の描写が無いなんて……。まだまだブックから帰ってきた人物が多いというわけじゃないから、ありえないこと、とまでは言い切らないけど注意しておく必要があるね」

 リサはペンを置き立ち上がる。

「それじゃあ、あらためて武器を使って見せてくれないか! フフフ、数値化して記録しないといけないんだ!」


 魔力調査室に備え付けられた【魔力実験室】


 研究員が魔力計測器を準備し、リュウ達は武器を手に取った。強化ガラスの向こうからリサが声をかける。

 まずはリュウからだ。


「やることは簡単。あっちの世界で使っていた通りにするだけでいいよ」


 リュウが宝石に魔力を込める。

 爆風が発生した。


 しかしその爆風は、【ファンタジカ】にいたときの吹き出るようなものと比べると、貧弱なものだった。もう一度、魔力を込める。しかし結果は同じだった。


「うーん、やっぱりかぁ」


 頭を掻きながらリサが言う。


「その宝石は魔力を変換、強化するっていうのは言ったよね? 今計測した魔力の流れを見るに、周囲の魔力も利用していたらしい。術者の付近の魔力が魔法自体に影響を与えるのは普通のことなんだけど、習ったかな?」

 タツだけ頷く。

「うーん、宝石が術者としての役割を担っていたってかんじかな? だからこの世界では、魔力の豊富なあっちの世界での君たちが言っていたほどの威力は出てないってわけ。 でも君たちの魔力の扱い方もなかなかのものだね。年齢を考慮すれば、ありえないくらい強力に使えてる。……魔力を多く流す感覚に体が慣れたとかかな? それに爆風の方も強化されているだけあって、この世界では強力な魔法の部類に入る威力だよ。ああぁ! 君達の行った世界にも行ってみたかった! 行ってみたかったよ!!」


続いてタツ、スケも試すが結果は同じく、爆発は起きるものの、威力は落ちていた。





「もう一つ検査させて欲しいことがあるんだ。世界と世界を移動するときに強力な魔力が発生するのは君達が体感した通りなんだけど、それは……、膜とでも言えばいいかな。世界の膜と膜の間に高純度の魔力があるからなんだ。

 その膜を一瞬とは言え一時的に破るから魔力が漏れ出す。これは私が実際に体感して検知したことだ。その間を移動するということは、少なくともこの世界では想像もできないほどの魔力にさらされるということ。

 ただでさえ強力な魔力で開かれたその穴。一度ならともかく、何度も通ってしまうとその人の生まれ持った魔法すら変質させてしまうことがある」

 リサの眼は真剣だ。

「私達トラベラーはその危険性を持っているんだそこで私の魔法であなた達の魔法を検査させて欲しい」


 やること自体は単純なものだった。リサがリュウ、タツ、スケ一人ずつに手をかざし記録を取っていく。


「タツ君、君の魔法は特に変わった痕跡はないね。ただ、強力になっている」


「スケ君はちょっと複雑だね。一言で言えば扱える魔法が増えている。【潜伏魔法】とでも言えばいいかな。周囲に存在を気づかれなくなる魔法だ。使いこなすにはもちろん訓練は必要だけどね」


「リュウ君は……」


 リサはメガネを外す。


「すまない、なんて言ったらいいのか。……君は今【魔力放出】とでも言えばいいかな、そういう状態だ。元の魔法も使えなくなってるみたいだね。ファンタジカの騎士が持っていた剣、それに近い状態かもしれない。

 君はまだコントロールできていないから、魔力は減り続けてしまう。普通の人は魔力を完全に使い切ることなんてできない。身体がストップをかけるようにできているからね」


「でもリュウ君はそれも曖昧な状態。つまり……、つまりだ、仮にこのまま魔力が減り続けてしまうと、魔力が尽きて死んでしまう」



「俺、死ぬんですか……?」


 リュウの声は震えていた。


「すぐのことではない。トラベラーは体に持つ魔力も大きく増えるんだ。それが持つ間は問題ないよ。それに安心してくれ、魔力を結晶化させた錠剤のようなものがあるんだが、それを飲めば魔力を補うことが出来る。それで魔力を補填しながら訓練を積んでいけば、まず死ぬことはないだろう。ただその薬は……、その薬は、ここにしかないものなんだ」


「膨大な魔力の研究の副産物的に生まれたものを利用して考えられたものだから、とても貴重、とまでは言わないけどそこらにあるものではない。

 汚い言い方になってしまうけれど……代わりに私達【トラベラーズ】に協力してもらえないか? ホーム内の訓練する場所も提供する。私達はブックから帰らない人たちを、関わる人を減らしたい。君達もわかると思うけど、あれは危険なものだ。リュウ君、君にとって今はまだ危険な存在でしかないかもしれないけれど、その魔法は戦闘に転用するととても強力なものとなるだろう。

 ……タツ君も、スケ君も、どうか力になって欲しい。魔力も乏しいこの世界では、君達のように戦える人は数える程しかいないんだよ」






「お疲れさま」


 武器をしまい、ホームを出る三人にリサが声をかける。


「リュウ君、薬を飲むタイミングは身体でわかるはずだから」

「……あの、リサさんが行った世界っていうのはどんな所だったんですか?」


 リュウが問うがリサは苦笑いした。


「あー、あんまり人には言いたくないんだ。秘密じゃダメかな?」

「……そうなんですか、大丈夫ですよ」


ごめんね。と、リサは謝った。


「リサさん! 本当にこれ持って帰っていいんスか?」

「あぁ、武器と防具なら持って帰っても構わない。もう記録も取ったしね。それに、君達にとってそれは大切な物だと思うから。ブックは預からせてもらうけどね」

「いやいや、十分ありがたいっス! ありがとうございます!」

「じゃあ、車は出すから。万が一またブックを見つけたら必ず持ってきてね!」


そして三人はトラベラーズホームを後にした。






 家に着くと、もう日が沈もうとしていた。


「ファンタジカを拾ったのもこんな時間だったな」


 リュウは部屋でベッドに大の字になり呟く。

 魔王を倒したあとは、どうなったんだろうか。オーシンさんはきっと英雄となるんだろう。急にいなくなった俺たちの扱いはどうなるんだろう。テシアさん心配してるかな、本の事は知らないもんな。

 オーシンさん、絵本のパターン的にお姫様と結婚とかになっちゃってたりしてな。

 一人でグルグルと思考を巡らせる。

 ふと起き上がり、小さなケースに入った錠剤を口にいれ噛み砕いた。身体が満たされるような感覚がする。


「飲み過ぎるのも危険っつってたな」

「流ー! ご飯よー!」

「はーい」


「明日から学校どうなるんだろ……」


少しだけずれてしまった、でも確かに今までどおりの日常が

そこにはあった。



ファンタジカ編、完!

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