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防衛戦


 オーシンとリュウ達が魔王に挑む三日ほど前。王都は大きな混乱に包まれていた。


「国王、北から魔王の軍勢が迫っています。数は万はくだらないでしょう、明朝には到着かと。」


 魔王の拠点の周囲に魔力が散っていたのはこれが原因だった。魔王はオーシン達が到着する直前に、王都を襲撃しようと膨大な魔力を消費し、大量の魔物を生み出していたのだ。オーシン達の奇襲とも言える暗殺のタイミングは成功していたと言えるだろう。

 しかしその軍勢は王都に迫らんとしている。


「そうか……わかった。赤杖、魔術ギルドの兵士の編成はどうなっている」

「既に終わっております」

「そうか、主要の部隊を北に回せ、指揮するものを選んでおけ、お前は城壁の中で待機だ」

「はっ」

「緑帽よ、周辺にいる商人たちを全て城壁の中に収容しろ。戦火に晒すわけには行かない」

「了解しました」

「兵長、蒼剣不在の今お前に武術兵の指揮を取ってもらう。S部隊は待機、ほかの兵は北へ回し防衛の準備を続けるのだ」

「し、しかし……」

「主要の兵達は北を、ほかの兵は城壁を回り込んできた魔物共の相手をしてもらう。そのために腕利きを残すのだ」

「……了解しました!」


 城下の騒ぎは城の中まで届いている。部屋に一人となった王はオーシン達のことを考えていた。任務は失敗したのだろうか、魔王に敗れてしまったのか。しかしいくら考えても現に魔王の軍勢は迫っていた。



 次の日、二度目の夜明け。


 魔王の軍勢は既に見えるところまで来ている。戦争が始まろうとしていた。


「魔術兵、詠唱開始! 武術兵は弓を構えろ! 飛行できるものを狙うんだ!」


 赤杖の選出した指揮チームが声を上げた。赤杖は複数人選出していたのだ。彼らが選ばれた理由は【交信系】の魔法の使い手で、戦場の最中であっても言葉を瞬時にやりとりすることができるからだ。もちろん魔法以外の能力も踏まえてのことである。

 魔術兵は魔法の種類の近いもの、例えば炎と爆破などの魔法は数人で力を合わせることで威力を高めることが出来る。そして詠唱、個人個人で集中力を高める文言を唱えることで、魔法の威力を高めることができるのだ。


「……放て!」


 その交信を合図に城壁から数えられないほどの矢、魔法が飛び出していく。それと同時に魔物の突撃が始まった。

 その攻撃は魔王の軍勢に降り注ぎ、多くの魔力が分散していくのが見えた。しかしそれも全体から見ればひと握りに過ぎない。


「手を休めるな、どんどん射て!」


 攻撃を続ける城壁に飛行できる魔物、鳥のようなものからハーピー、悪魔のようなものが迫っていた。


「槍部隊用意! 弓部隊を守るんだ!」


 城壁の上に、パイクと呼ばれる七メートル程の長さを持つ槍を持った武術兵が並ぶ。弓、魔法の遠距離攻撃のものたちを守護するための部隊だ。魔法に比べ多少は小回りの利く弓と、対空用にリーチのある槍で協力し、空中の敵を落としていく。


 一方地上にも敵は迫っていた。知能は低いがとにかく数が多い魔物に備え大きな門は既に固く閉じられているため、今はまだ大丈夫だが、いつ突破されるかはわからない。城の周囲に侵攻の足を止めるための多くの塹壕のようなものを掘り、準備を重ねるのが武術兵の主な仕事だった。城を守るための戦いでわざわざ門を開けてまで攻める必要がないからだ。あとは、城壁の上で援護に回っているのが武術兵の今の働きだ。


 城壁からの攻撃は休むことなく続き、日が暮れようとしていた。

 弓兵と交信していた指揮チームに情報が入る。ほぼ全ての兵力を上げて弓を一日中射っていたため、矢が尽きつつあるのだ。


「製作はどうなっている!」


 王都内の武器工房に交信を図るが、全力でつくり、都度輸送しているが到底追いつかないとのことだ。

 日没が迫っていた。

 夜目が利く魔物は多くない。そのため地上からの攻撃は落ち着くだろう。しかし空の魔物は夜目が利くものが多いため、兵士達が休む暇はない。

 しかしそのための対策も考えていた。城壁の上に松明を焚き、カカシや家畜を置き、それを囮として城壁の中の建物の上から狙うのだ。


 そして日が沈んだ。



 一度目の夜明け。


 昨晩はなんとか凌ぐことが出来た。しかし、魔術兵も魔力が尽きた者も多く、矢も残り少ない。交代した魔術兵と弓兵が城壁に並び、引き続き攻撃をするが昨日ほどの火力は望めないだろう。

 日の出と同時に魔物の攻撃が始まった。

 地上の魔物はいよいよ城壁に迫り、魔物を踏み潰しながら魔物が城壁を登ってきているような状態だった。


 それに対し弓兵や魔術兵ではあまり効果的な攻撃ができずにいた。地上の武術兵が動き出す。前日から準備していた、大きな丸太や熱した水、油などを城壁の上へ運び始める。これを城壁の外に落とすというシンプルな攻撃だが、それ故に効果は覿面だ。

 二度目の夜明けを迎え、日が天に昇る頃。

 北の城壁で詰まっていた魔物の動きが変わった。打ち付ける水のように城壁に沿って西と東に別れ始めたのだ。

 指揮チームにもその情報が入る。


「魔物の種類を報告してくれ!」


「-は、はい! 東に大型の魔物が多いように見て取れます! しかし数は西に集中しています!-」


「わかった! 引き続き北側から攻撃を続けてくれ!」


指揮チームは連絡を続ける。


「……赤杖様、西へ向かってください。そちらに数が集中します」


「-あぁ、了解した。任せな-」


「S部隊兵長どの、地上部隊の出番です。東側は比較的大型が多いですが、数は少ないとのこと、向かってください」


「-了解した。守ってみせるさ-」



 西側



「ハッ、ようやく出番だな」


 赤杖は一人城壁の上に立っていた。周囲には一般人は当然のこと、兵士すら一人もいない。眼下には数えられないほどの魔物がひしめいていた。


「おーおー、雑魚どもがわらわらと」


 赤杖は身体をふわりと地面から浮かせる。


「挨拶がわりだ!」


 自身の代名詞、赤い宝石のついた杖を前に向ける。すると宝石が輝きを増し、赤杖の前に巨大な火球が湧き上がる。杖を下に向けて振ると、象くらいなら飲み込むであろうサイズの火球が杖の向けた方向へゆっくりと動き出した。

 地面に着弾するが、火球は消えることはない。赤杖が操るまま地面を這うように移動を続け、通った跡の魔物を焼き尽くし、灰に、焦土に変えていく。


「ハハハッ! まだまだいくぜ!」


 飛行できる魔物が向かってくるが、自身も高速で飛行しつつ左手から高速な火球を放ち迎え撃つ。

 赤杖の戦いが始まったのだ。



 東側



 城門は今にも破られようとしていた。大型の魔物の力に扉が悲鳴を上げている。地上班、S部隊を筆頭に、ギルド内から選抜された兵と、魔術ギルドの近接系魔法使いが待ち構えている。

 その中には当然、三人に武術指南をしたテシアの姿もあった。


(魔王の軍勢が来るってことは、魔王はまだ生きているということ……)


(リュウ君たちは死んでしまったのかな)


「今は、ここを守ること、集中しなくちゃ!」


 テシアはそう言うと、手のひらで顔を叩き気合を入れる。誰かの声が響いた。


「来るぞ!」


 その言葉の直後、扉はミシミシと悲痛な音を立てながら破られた。S部隊以外の兵士達は思わず後ろに下がる。

 先頭を切るモンスターは複数のサイクロプスだ。その手に握る棍棒を既に振り上げている。対するS部隊の編成はこうだった。大型の魔物の隙を作る片手剣がテシアを含む5名、トドメを刺す大斧が5名だ。テシア達片手剣がサイクロプスへ向かって駆け出す。

 猛スピードで振りおろされる棍棒をかいくぐり、懐へ飛び込む。そのまま通り過ぎるように、サイクロプスの腱を切り裂いた。浅い傷だが、正確に狙われたその攻撃は足を止めるのには十分だった。

 そのまま足元をすり抜け、次の敵へ向かう。前に倒れるサイクロプスに、後ろに控えていた大斧が獲物を振り上げ飛びかかる。その重量と振り下ろすスピードから生まれた破壊力は、サイクロプスの頭を容易く叩き潰した。霧散する。

 S部隊のその働きを目にした他の兵たちは、歓声を上げた。そして、次々と駆け出す。S部隊の練度の高い動きは彼らの士気を高めるには十分だった。


「-東門でも戦闘が始まりました-」


 指揮チームに情報が入る。


「よし、ここからが正念場だな」


「ですがいつまで持つか……」


「……オーシン様達がどうなったかわからない以上、我々はできることをやるしかない」



重い空気が流れ始める。


「我々がこんな調子ではいけない! 北門の状態と投下できるものの数を確認しろ!」


「は、はい!」






 日が沈みつつある。

 魔物達の休み無い攻撃に、兵士たちは限界を迎えようとしていた。北門では既に投下するものは無く、ほとんどの魔術兵の魔力も尽きていて、矢もとうになくなっていた。地上班が門の前で、門が破られる時に備え待機する程度しか残された手段はない。


 西門では赤杖が一人戦っている。赤杖自身にはまだ余裕があったが、門が次第にダメージを受け始めていた。


 東門ではまさに死闘が繰り広げられていた。S部隊を先頭に戦いは続いてるが、徐々に兵士達にも疲労がたまり、押され始めている。周囲には兵士の叩き潰された無惨な死体がいくつも転がっていた。


「ハァ……ハァ……! このままじゃあ!」


 テシアは未だに戦い続ける、S部隊は全員健在だった。息こそ上がっているが、体はまだ動く、剣は、斧は、まだ斬れる。

 しかし他の兵士の数は大きく減り、S部隊だけでは前線は維持できない。それらの情報は全て指揮チームへと届いていた。


「このままじゃあ無理です! どうしようもありません!」


「くそ……! もう打つ手はないのか!」


 太陽が地平線に触れるその時、異変が起こった。指揮チームの頭に響く数々の交信が一斉になくなったのだ。


「ど、どうした! お前! 交信はできているか!」


「私にも何も聞こえません! いったいなにが……」


「北門! 誰か聞こえるか! 東は! 西の赤杖様はどうだ!」


 指揮チーム全員で国中の兵士に呼びかける。

 突如、指揮チームの頭に歓声が響き渡った。


「-魔物が消えました! きっと蒼剣様です! 魔物は霧散しました! 繰り返します……-」


 国中から次々と同じような報告が上がる


「くっ……全兵士へ交信、私達の勝利だ……」


 国中の歓声を一度に頭に受けた指揮チームの面々は、その交信を最後に意識を失った。


「へっ、やるじゃねーか蒼剣」


 赤杖は西の城壁に座り、一人、煙草を燻らしている。彼の眼下には、彼の魔法によって雑草一つ無い荒地と化した大地が広がっていた。





「……ありがとう」


 オーシンは光の中に消えていくリュウ達三人にそうつぶやいた。


「姫様、戦いは終わりました。お体は大丈夫ですか?」

「ええ、蒼剣、私は大丈夫です……」

「彼らは一体……?」

「彼らは異世界から来た者達です。本の件は姫様もご存知かと」

「まぁ……そうなんですか。私も救ってくれたお礼を言いたかったですわ」

「アヤ君もありがとう、君がいなければ危なかっ……?」


 オーシンは周囲を見渡すが、そこにアヤの姿はない。まるで、最初からオーシンと姫意外誰もいなかったかのように、ただ風が吹いていた。



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