夜の過ごし方
その日は、大学の頃の先輩が泊まりに来る予定だった。
その人はサークルの先輩で、とてもお世話になった人だから、あまり人を家に泊めることは好きでなかったけれど、引き受けることにした。
人を泊めることが苦手だと気づいたのは、一人暮らしを始めてすぐの頃。実家暮らしの友達と飲み会をすると、必ず、終電を逃した何人かの友人を泊めることになった。みんながクラクラのフラフラに酔っ払って眠りについても、私は妙に緊張してしまって、眠れなかった。それは泊めた相手が男でも女でも関係なく。同じくらい自分が酔っていたとしても。
話がそれてしまった。人を泊めることが苦手な話は、また改めて書くことにしよう。
先輩が泊まりに来る以外、その日の予定は何もなく、しかも、先輩が私の家に着くのが23時というので、私は困ってしまった。何もすることがないのに、その時間まで起きて待っていることができるか不安になったからだ。部屋の掃除や、洗濯、水回りも昨日のうちに綺麗にしてしまって、することが何もない。先輩のために、何か料理を作ったりお酒を買っておこうかとも思ったが、なんだかそれでは彼氏の帰りを待ちわびる彼女のようだと思ったし、よく考えたら、先輩は飲み会後に来るのだから、お腹が空いてるはずがないのだった。どのくらい酔った状態で来るだろうか。素面で酔った先輩と話すのは、少々面倒な気がした。それならば、自分もある程度お酒を飲んでおけばいいんじゃないかしら。駅前のコンビニで、酎ハイとビールを1缶ずつ買って、近くのゲオで漫画を20冊くらい借りて。買ったお酒を飲みながら、漫画を読むなんて、とっても素敵な夜の過ごし方だ。
早速私は、スマートフォンにイヤフォンをさして、音楽を聴きながら(この時聴いていたのは、コレサワのたばこだったと思う)駅前を目指した。その日はストロベリームーンというピンク色の月が観られるとみんなが騒いでいたけれど、見上げた夜空に浮かんでいたのは、見慣れたクリーム色の、そこだけ誰かが切り取ったようなただのまあるい月だった。
駅前に着き、お酒を買って漫画を選んでいると、ピコンとLINEの通知がきた。
「ほんとにごめん!明日泊めてくれない?」
なんだろう。何かが、私の中で勢いよく萎んでいく。
「大丈夫ですよ!」
ほんとにそう。別に明日も用事はないし、少なくとも今夜はぐっすり眠れることになったのだからホッとするべきなのに。なんでこんな気持ちになるんだろう。まるで、告白してもいないのに振られたみたいな。勝手に盛り上がって、落ち込むみたいな。盛り上がった覚えはないし、落ち込んでもいないのだけれど。
そういえば、ついさっきも似たような気持ちを味わった気がする。
あ、そうか。
ストロベリームーンだと思って見上げた月が、いつもの月だった時と同じ気持ち。