今日の死にかた占っchao！アプリ

藪

　部屋を出たかったけど、すぐさまとは行かないもので。まずは母親に電話することから始めた。…家に誰か居ると俺が全く部屋から出ないもんだから、俺が引きこもってた、大体一週間くらいの間、母親は極力外出するようにしてくれていた。

　心配をかけたくなくて、警察の事情聴取も、藪に殴られたときも、出来るだけ波風立てないようにしてきたつもりだ。

　でも、実際は学校の先公《センセ》に話した内容（もちろんアプリとかの）は筒抜けだわ、「花瓶を割った」ことと「一部の生徒による噂話と嫌がらせ」について全部親に伝わっているわで。学校が嫌になるぜ。

　冴島の葬儀では叩かれたしな。

　…母親がどれだけ泣いてたことか。

　まぁ、引きこもり止めてリハビリするからと、とりま報告を上げる。

　やっぱり泣かれて、俺は困った。

　ベッコウ飴をしゃぶりつつ、これからどうしたもんかと考える。

　橘のことや裏サイトから考えると、あのアプリは相当流行ってる…。やめろと言えばさらに加熱するだろう。俺が言えばなおさらだな。

　学校に行けば冴島の事件が、つまり『死にかた』が注目されちまう。転校…しかないよなぁ。心残りは、冴島が俺に贈ろうとしてくれたメッセージカードだけど、あれもどうにもならない代物だ。結局、線香一つあげられてない。

　…人生、諦めが肝心だ。うん。

　しかし、あのアプリ、どうにかなんないのかよ…。

　それに、冴島のウチに出た、女の影…まさか、マジで幽霊じゃないだろうな。目の錯覚だと、思いたいけど。

『女に殺されchao！』という予言だったのに、実際の死因は原因不明だった。それはつまり、女の幽霊を見て、ショック死したって事なんじゃないのか？

「分かんね…」

　訳が分からな過ぎて、頭が煮える。

　どっちにしろ、俺に出来ることなんてない。触らないこと、それだけだ。

　夕方になって、母親から電話があった。曰く、「また藪くんが来てくれているから、会ってみない？」と。また？　またって何だ？

　話によると、引きこもってた間、毎日誰かしら先公《センセ》が俺の部屋の前まで来ていたらしい。それに同行して話しかけてくれていたのが藪だという。…覚えてないなぁ。

　先公《センセ》が来てたのは、何か覚えてる、かも…？

　どちらにしろ、どうしてそこまでするのか、さっぱり分からんのよ。お人好しなのか、藪クン。

　仕方なく部屋に上げてやった。

　そのお人好しな猪は、俺の顔を見て愕然としていた。まぁねぇ、目の前にミイラか骸骨がいればそんな顔にもなるよな。

「ひ、久しぶり、古賀…」

「ああ。一応、初めましてで良いか、藪クン」

「…おう。俺は、藪 晃一。好きに呼べ」

「じゃあ猪で」

「なんで！？」

　ノリ良いな。

　嫌いじゃない。

「停学明けたのか？」

「なってねぇよ！？　…オマエの、オカゲで、さ」

「黙ってりゃバレないのに何で名乗り出たんだよ」

「悪いと思ったから」

　やけにきっぱりと言い切る藪。

「噂に踊らされて、確認も無しにオマエを殴った。マジごめん！　冴島のこと、助けようとしてたって聞いた！　俺のことも殴ってくれ！」

「…俺が殴っても痛くないけど、俺が捻《ひね》るとおまえの骨折れちゃうよ？　いいの？」

「うぇえええ！？」

　からかうと楽しい奴だな、こいつ。

「古賀、そんな強いの？」

「そこそこ」

「ひぇ～～ 」

　藪は、冴島と一年のときバスケ部で一緒だったこと、すごく仲良かったこと、二年に上がってからもそこそこ付き合いがあったことをつらつら話してくれた。俺は、藪って名前なら医者になれば面白そうだな、と考えていた。

「それで、死んだって聞いたときは信じられなくてさ…。冴島《さえ》の母ちゃん、古賀が冴島《さえ》を殺したんだって、泣いてたから…」

「ああ…」

「でも、実際は誰のせいでもなかったんだろ？　オマエはちゃんと救急車も呼んで、蘇生もしようとしたって…」

「どこ情報よ、それ」

「センセー」

　マジ、最低な。

「だから、オマエが学校に来なくなったとき、俺のせいだって思って…。三日くらい悩んだけど、オマエの母ちゃん、俺のこと入れてくれて、さ」

「ああ」

　そうらしいな。

　ん？　こいつ、バスケ部員じゃねえの？

「おまえ、部活は？」

「辞めた。停学にならんくても、暴力沙汰を起こしたのは事実だし。俺のせいで夏大会出られないと困る」

「えー…」

　何も辞めなくても。

「学校来なくなったの、俺のせいなら古賀が来たくなるまで待つ。学校で嫌なこと言ってくるヤツが居るなら、俺が守る！　だって、冴島《さえ》のダチは俺のダチだ！」

「お、おう…」

　藪クンが良いひと過ぎて眩しい。

　別に俺は橘の馬鹿が嫌で学校に行かない訳じゃないんだけどな…。

「部屋から出ることに決めたんだって？」

「まあな…」

「じゃあさ、すぐには無理でも、保健室くらい来ないか？」

　先公みたいなことを言うな、おまえ。

「おまえ、学校での俺の渾名知ってる？　今の俺、“死神”で通ってるらしいよ？」

「どこで、それ…」

「裏サイトだかプロフだか知らないけど、学校に行かなくても分かることはある」

「そっか、ごめんな…。止めさせようとしたんだけどさ」

「気にすんな」

　藪はガックリと肩を落とした。

「はぁ…。なら、冴島《さえ》のウチに行くのも、無理だよなぁ。冴島《さえ》の母ちゃんがさ、古賀に渡さなきゃならないのがあるって言うから…」

「おま、それ…」

「線香あげさせに行きますって、言っちまったんだよなぁ…」

　それ、本題！

　今までの会話、全部いらなかったよ！

「行くぞ…」

「へ？」

「今すぐ、行くぞ」