噂
「芦屋さん、さっきの話…」
「ああ。やっぱり、事件性はないみたいだな」
「それじゃあ、死因は不明のまま、急死ってことですか?」
二人は、狂ったように泣き叫びながら、古賀 正芳のせいだと喚いていた冴島の母親を思い浮かべた。
「殺人を示す証拠は何も出なかったし、そもそも頭の傷は死後のものだったんだ。古賀君がどんなに手際が良くとも、無理だったさ」
「実際、古賀 正芳は高校生とは思えない程、的確な処置をしていましたしね…」
「良すぎる、か?」
「ええ。ですが、いかがでしたか?」
「わたしの勘ではシロだね」
「そうですか…」
杉野は事情聴取にあたり、長く少年科で禄を食んできた芦屋に、古賀少年の当たりを見極めてもらおうと連れてきたのだ。
「それにしても、アプリとはね…。よく分からんな」
「ちょっと見てみましょうか?」
杉野は慣れた手つきでスマホを操作し、アプリを検索した。しかし、画面に写し出されたのは、
『Not found』
「おかしいな…見つかりませんね」
「そう、か…」
『冴島死んじゃったね』
『殺されたって話、ほんと?』
『違うだろ、心臓マヒだろ』
『葬式、行った?』
『見た見た、冴島の母ちゃんがさ~、コガって奴に塩撒いてた』
『ブッ叩いてたね~』
『それで古賀くん休んでるんだ~』
『古賀って二組の? アイツなんかしたん?』
『冴島コロしたんだってさ』
『げ! マジマジ?』
『やめなよ、嘘ばっか!』
『実際は?』
『先生の話だとさ、アプリかなんか、呪いらしいよ?』
『意味不明ワロス』
『あれじゃね、『死にかた』じゃね?』
『なんそれ』
『知ってる。『今日の死にかた占っchao!』だわ』
『あー、マジで死人出てるっていう?』
『え、何それ』
『赤文字で表示されたら、本当に死ぬらしーよ?』
『はぁ? はぁ? はぁぁあ?』
『見つかんないよ?』
『下手くそかw ちゃんとあるじゃん。インストしよ』
『見つかんねって』
『ちゃんと探して~』
『古賀はヒトゴロシ』
『萎えるわ~』
葬儀を終えて、焼き場までの車が出ていくのを、喫茶店の窓から見ていた。…冴島、本当にいなくなっちまったんだな…。
胸のあたりがチクチク痛む。飲み下した筈の珈琲がせり上がってきて苦しい。
俺はトイレで腹の中のもの全てをぶち撒けた。
母親に無理言って連れてきてもらったけど、ちゃんとお別れは出来なかった。仕方ない…仕方ないよな。
さっきから母親はずっと冴島の母ちゃんの悪口を言っている。俺が死んでたら、あんた、同じことしたんじゃないの?
外面が良いから、泣き笑いで冴島に俺と別れの挨拶させてたかな…。
とにかく、冴島の体が警察から帰ってくるまで丸一日以上かかったからな…。通夜をして葬儀を出して、今日はもう火曜日だ。昨日は学校休んだけど、さすがに明日は行かないと…。……。きもちわるい。
夕飯も入らなかった。
部屋に戻って、明日の支度をする。スマホを確認したら、何件かメッセージやメールが入っていた。クラスの奴とか、心配っつうか、 事情知りたい、みたいな…。
その中に、冴島からのメールがあった。受信日時は、21日、午前0時00分。件名は……。
俺は震える手でメールを開いた。
『誕生日おめでとう! 古賀ちゃん!
なんと、プレゼントを用意してマス!
何だと思う~? ナイショだよ~』
「バカ冴島…。時計だろ? 知ってるよ…」
熱いものが目尻から零れていった。
ヤバイ、冴島の声が聞こえてきそうだ。
俺は朝までずうっと、冴島とのメールや、メッセージのやり取りを読んでいた。
…すごく笑えて、すごく、泣けた。