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冴島のウチ

 すごく気まずい…。デカイ男子高校生が、道端で立ち尽くしてる。そしてその原因は…俺!


「あー…、だいじょぶか?」

「古賀ちゃん、オレ、死ぬの?」

「死ぬかっつーの! こんなん俺は信じないぜ?」

「………」

冴島さえ!」


 やばい。やばいって…。

 信じちゃってる…。

 やらすんじゃなかったな…そんな後悔が込み上げてくる。


「帰ろうぜ、冴島さえ

「古賀ちゃんさ、オレ、今日さ、一人なんだ…」

「え?」

「母ちゃん、夜勤なんだ」


 冴島の母ちゃんは看護師だったっけ。そっか、夜勤か…。こいつ、このまま帰して大丈夫か?


「あ、ウチ、来る?」

「いーの!?」

「……分からんけども」

「えー…」


 逆に、俺が泊まりに行く方がうるさく言われないかもな~。ウチの母親ババアは外面は良いくせに「早めに言え」だの「お布団干してないのに」だとか言いそうだし。言われてたのは親父だけど。


「じゃあ、お前んチ行くわ。床で寝せて」

「えっ! マジで…? ヤバ…」


 ヤバいんかい!


「あ、リビングで良いよ?」

「やったぁ! 映画借りよ~よ。ピザ頼む? ドラッグストアでジュース買お!?」

「あ、はい…。え?」


 何でこんなテンション高いの、こいつ? イミフ。


 俺は冴島バカがレンタルショップにいる間に母親に連絡した。明日は土曜日だし。下着はコンビニかドラッグストアで買って、服は借りれば良いだろ。

 母親は、「明日は誕生日だから許すわ」なんて言っていた。そして「早めに言いなさいよ」とな。やっぱ言われるんかい…。俺も親父の子だわ。


「古賀ちゃん、アクションでいーい?」

「良いぜ~。何でも来いよ~」

「おけ。支払いしてくる!」


 何だかんだで、冴島のウチに行くのは初めてだ。手土産…そっか、母ちゃん居ないのか。

 俺は財布の中身を確認した。幸い、五千円札が一枚と小銭があったので、ピザ代払ってギリギリ足りそうだ。


「次、ドラッグストアね! ポテチ買う?」

「お、おう」


 ピザ食ってコーラ飲んでポテチ…俺の腹は破けるんじゃないだろうか。

 結局、両手に荷物をわさわさ持って冴島のウチに着いた。





 アクション映画は、何か期待とは違ってマイナーなやつだった。俺は知らんやつだ。さっきから冴島はゲラゲラ笑いながら見ている。…あ、また車が爆発した。もう何度目だよ。


冴島さえ、風呂どうする?」

「あ、入る入る。古賀ちゃんは?」

「んー、今日は良いや」


 他人のウチって何か落ち着かないんだよな。


「いっしょに、シャワー、浴びる!?」

「……ねーわ」

「いてっ」


 冴島の額に手刀を叩き込んでおく。何で嬉しそうなんだ? 友達ダチが泊まりに来て興奮とか、小学生か!!


「んじゃ、服だけでも着替えなよ。貸すし」

「んー。部屋入って良い?」

「あ、あー! めっちゃ汚いよ!?」

「知ってた」

「ええっ!?」


 大体想像つくだろー。冴島だしなー。

 俺はレジ袋から新しい下着を取り出して開封した。


「ブリーフ派かぁ…」

「今更? 体育のとき隣で着替えてんじゃん。お前はトランクス派だろ? スースーしねぇの?」

「する~」

「んじゃ、浴びてこいよ。俺は部屋で替えてくるわ」

「らじゃっ!!」


 冴島は部屋の中でガサガサしていたと思ったら、ジャージの上下を持ってきた。着ろってことだな。同時に冴島は風呂場に行った。

 俺は冴島の魔窟へやに入り、予想以上の汚さに驚いた。…足の踏み場なくないか? これ?


 ベッドに、勉強机。シール貼りまくり…ガキか。本棚。バスケのボール、バスケシューズ…バスケ雑誌が本棚から溢れて床に積み上がってる。バスケ、やっぱ好きなんだな…。

 ちっ、部活すれば良いじゃん。勿体ねぇだろ、身長タッパも体格もあんのに。


 まあ、部活やってたら、俺たちに接点とか、なかったかもしれないんだよな。そう考えると、冴島さえ友達ダチになれたのって、不思議な縁だなって、思う。


 ふと、机の上の上、教科書とか立てる棚の上に紙袋が大事そうに乗っかっているのに気付いた。…新しいな。


 まさかな。

 俺へのプレゼント、なーんて。


 見ちゃいけないと思いつつ、紙袋をそっと下ろして覗き込む。中は、時計らしき箱と、メッセージカードが入っていそうな封筒だった。…ピンク? 笑えるな、ウケを狙ってるんだろう?


 時計の箱を、そっと開ける。


 あ、これ、この前俺が気にしてたやつじゃん…。何だよ、よく見てんな。


 取り出して見ると、時刻はもうすぐ真夜中の24時になる。わお、ハッピーバースデイ、俺。


冴島さえ? 出たのか?」


 音がした気がして、俺はリビングへ戻った。冴島はリビングに立っていた。カーテン全開。なにして………


 は?


 え?


 鏡みたいになったガラス窓に、一瞬、女の姿が映った気がした。


冴島さえ、今の見たか? …冴島さえ?」


 人が倒れるとき、よく、ぐらっと、とか、膝を折ってって言うじゃん?

 冴島さえは違った。

 足を突っ張るように真っ直ぐにして、ばたんって倒れたんだ。後ろに。


冴島さえっ、大丈夫か!? あ、頭…えっと、救急車…?」


 冴島は目を見開いたまま倒れていた。

 こんな時、どうする? どうすれば良いんだった?


 俺は救急車を呼び出し、曖昧なまま住所を伝え、人工呼吸を試みた。


「しっかりしろ! 息、してくれよ! 冴島さえっ! さえ……」


 結局、冴島は、ダメだった…。

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