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高尾の激情

 高尾のウチは寺だ。爺様も親父さんも、お義兄さんもお兄さんも坊さんだ。今日も大勢で食卓を囲んでいて、凄い騒ぎだ。俺のとこは法事じゃないとこんなに集まらないぞ。これが日常茶飯事って、スゴい。


 高尾の母さんが、俺の家には連絡してあるから泊まっていけ、と言う。やんわり断ったが聞いちゃいねえ。あと、そんなに盛られても食えないんですけど。…めっちゃ山盛りだし。普段でもこんなに食えないよ。


 高尾の奴は終始無言で、俺も何も聞けなかった。大勢の前ってこともあるけど。そして、久しぶりに賑やかな食卓で囲む飯は旨かった。


 終わり頃になって、高尾の双子の弟たちが(小学四年生…になったんだっけ?)俺の両側にくっついて、袖を引っ張ってきた。


「ねぇ兄ちゃん、友達が死んじゃったってホント?」

「救急車、乗ったの?」


 シーンと静まり返る食卓。


時実ときざね! 光政みつまさ!」


 高尾の母さんの怒鳴り声とゲンコが落ちて、一瞬にして泣き声がワンワン響き渡る空間に早変わりだ。


「照海」

「ん。ちょっと、来い」


 爺様に名前を呼ばれた高尾は、すっくと立ち上がると俺の腕を取って歩き出した。連れて行かれたのは…風呂場。


「先入れ」

「一番風呂は爺様だろ?」

「いいから入れ」

「ん…」


 これは多分、気を遣われてるんだ。

 なら何を言っても無駄だ。人生は諦めが肝心。俺は服を脱いで籠に入れると、温かい湯に浸かることにした。




 風呂から出た俺は、さっきのことを高尾の母さんに謝られつつ、麦茶で喉を潤した。テキトーに受け答えしつつ、高尾の部屋に引き上げる。

 ガサツな行動に似合わず片付いた部屋だ。まぁ、勉強に関する物が一切無いのが驚きだけど。…フツー辞書くらいあるよな?


 本棚の妙なスペースには、やっぱりアレなDVDが挟んである。…中学のときはよく見せられたなぁ。まぁ、俺はオカズは二次元限定なんだけど。


 高尾のベッドの横に敷かれた布団に潜り込む。もうこのまま寝ちまうか。


 そこへ、スタンっと襖が開いて、浴衣姿の高尾が入ってきた。声かけろやぁ…。


「飯…今日だけじゃなくてちゃんと食えや」

「……ん」

「またブッ倒れやがって。そのまま死ぬ気か、コラ?」


 説教の流れ? 餓死はしないって、さすがに。リハビリしようとした矢先の、あれは事故だったんだって…!


 だが、黙ったままの俺に、高尾はブチキレたらしい。借りた浴衣が崩れるくらい、合わせを掴まれて揺さぶられた。


「あんな犬っころか死んだくらいで、そこまで思い詰めてんじゃねぇよ! いつまで…」

「おい!」

「あ…?」

「犬っころって、何だよ…」


 まさか、まさか冴島さえのことじゃないよな?


 頭がキンキンに冷えて、心臓まで凍りつきそうだ。…違うって言え。頼むから。


「ハッ、犬みたいにオマエになついてた、あの冴島って奴に決まってんだろ?」

「…っ!」

「裏庭に墓でも立ててやれよ。それで気が済むんならな」

「テメェええ!」


 俺は高尾に飛び掛かった。それを利用して投げられる、が、それは当然。俺は投げられるに任せて着地の用意をしていた。俺を投げたせいで軸がブレている高尾の腰を目掛けて、肩から突っ込んだ。


 下手くそが!!


 投げたくらいで体軸が揺らぐからオマエは弱いんだよ!


 受け身くらいは取れるだろうと、思いきりゆかに叩きつけたら、頭も少し打っていたみたいだった。小さく呻いている。サボり過ぎだ、阿呆。


「取り消せ、高尾!」

「ヤだね! っとぉ!!」

「!」


 今度は襟首を引っ掴まれた俺が下になるように組み敷かれた。クソッ、馬鹿力がっ!


 高尾は全体で俺を潰して、右手の掌底で俺の額を割る勢いで押さえている。俺の右手を折れるくらいに握りしめながら…。


「んなガリッガリの体で、俺を抑えこめると思うなよ!? おら、抵抗してみろや!」

「ぅぐっ! 重い…んだよ、ゴリラ野…郎…」

「あ? 痛いのが好きなんだろ? 自分で自分虐めて、死にそうな面さらしてんじゃねぇぞ、ドマゾ野郎が! そんなに死にたきゃ、今すぐ俺が殺してやろうか!?」

「……っざけ、んな…!」


 俺は右手ききては押し潰されていたが、左手は高尾の体の下にあるだけで、引き抜くことが可能だった。右を警戒しすぎで詰めが甘いわ!


 うつ伏せで両腕極ってたら足技かヘッドバットしか無かったが、向かい合わせだったのが俺を有利にしている。


 左手で狙うのは目。目潰しを避けようと、高尾は転がった。間抜け、ヘッドバットで避けるとこだろうが、そこは!


 すかさず高尾の上に乗り、浴衣の合わせをぎゅうぎゅうに絞って酸素を絶つ。上手い具合に高尾の右肘が俺の膝の下にある。

 俺は舌なめずりすると、腰を入れて高尾を抑え、手に力を入れた。高尾の左手が俺の体のあちこちを攻撃する。太ももには爪が食い込み、きっと血も出ていることだろう。痛みはある。だが、体は絶対に動かさない。殴られても、引っ掻かれてもな。


 俺はね、やられるよりやる方が好きなんだよ、決まってんだろ。強い(やる)側に立つために修行してんだ。マゾじゃねえ。


 やがて高尾の抵抗が止んだ。


 フーッ…、フーッ…


 …俺の荒い息だけが聞こえる。

 高尾の顔はもう真っ赤を通り越して紫がかっている。このまま絞め落としてやろうか。…いや、やめておこう。


「学校でも、もう、声かけてくんな…」


 俺は浴衣を緩めて高尾を解放した。奴が咳き込んで、のたうち回ってる間に、鞄を掴んで部屋を出る。高尾の怒声だけが俺に追い付く。


「勝ち逃げなんて許さねぇぞ!! オマエは俺が必ずブッ壊す!!」


 ……知ったことか、くそったれ。

Q 古賀を捕獲するにはどうしたら良いですか?


A 解答者:高尾

  「不意討ちか人質取ってぐるぐる巻きにする。

   自由を与えるな。クソ、しくった…」


A 解答者:冴島

  「え、普通に捕まえるじゃダメなの!?」 

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