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帰り道

 とりあえず、まだまだ掛かりそうな病院の手続きやらで母親は忙しそうだ。電話もちょこちょこ対応しているし。藪が来てくれたから、藪と話したいし、ブラブラ帰ろうと思って、まずは許可を取りに来た。


「あー、あのさ、先に帰って良い?」

「えぇっ! 一人で帰るなんて、駄目に決まっているでしょう!」

「…いや、あの、友達ダチと帰るからさ」

「友達って、誰なの?」


 母親の目が険しくなる。

 う、疑われている! ちげぇし、ボッチじゃねぇし!?


「…藪だよ」

「ああ、藪くんね。なら良いわよ、気を付けて。タクシー使う?」

「…いや、いい」


 藪という謎の信頼感。

 俺、ちょっと傷ついた…。


「古賀、母ちゃんいいって?」

「最初からおまえ連れてきゃ話が早かったなぁ…って」

「?」


 病院の売店で、棒アイスを奢る。わざわざ見舞いにまで来てくれた礼だ。俺はミルク味を、藪はドギツイ色の巨峰を選んだ。冷たくて美味しい。

 ぶらぶらと、田んぼに流す水路沿いの道を歩く。あんまり車が通らない、そんな道だ。


 夕方だからまだマシだけど、それでも暑くてじめじめしていて、夏になったらどうしようかという…。避暑地に行きたい…。


冴島さえも棒アイス好きだったな」

「へぇ」

「俺と冴島さえは中学が同じでさ、ずっとバスケ部で一緒に居たからなぁ」

「へぇ。あいつ、バスケ上手かった?」

「上手いなんてもんじゃねぇよ。タッパもあったし、アイツこそエースだよ!」


 じゃあ、推薦入学いけたんじゃないのか? 勉強は苦手だったろうし。


 疑問を口にしてみれば、家の都合だという。推薦で入れそうな所はどこも、遠くて引っ越すわけにはいかないと。寮に入るにしたって物入りだし、そもそもバスケ自体、いやスポーツってどれもお金がかかる。

 だから、家から近くて専門学校と連携もある今の高校に決めたらしい。確かにね、高専じゃあないけどそういうサポートがあるし、大学も選べるしね。


「そっか、それでバスケ辞めちゃったんだ…」

「一年の頃はやってた。二年に入ってからもやると思ってたら、オマエとダチになれたからってあっさり辞めちまいやがったんだ」

「はぁ?」


 初耳なんだけど?

 えっ? っていうか、うわぁ…。


「一年の体育祭でさ、アイツ転んで思いっきり膝擦りむいてさ。それをオマエが肩貸して水場まで連れてってくれたんだって、言ってたぜ」

「え。誰それ、別人?」

「いや、オマエだろ」


 覚えてねーよ、一年の頃の話なんざ。


「スゲェ颯爽と助けてくれて、ハンカチまでくれたって」

「う~ん…」


 ハンカチ…。なんか…、思い出しそうな…。


「名前入りのハンカチだったから、すぐにクラスも分かったのにさ、ダチになりたいくせに、オマエがいっつも眼鏡かけて難しい顔して本読んでるから、声かけ辛いって言ってさあ。俺も何度か付き合わされたわ」


 え、難しい顔?

 買ったラノベがカスだったんでキレてたんじゃね、ソレ?


 つか、え? 

 ずっと見てたの? 声かけろし。ストーカーか!


 俺が覚えてる出会いっつーと、二年の化学実習で同じ班になったときにあいつが話しかけてきたことだしなぁ。


『オレ、冴島。よろしく! みんなオレのこと、さえ、って呼ぶから、古賀ちゃんもそう呼んでよ』

『お、おう…。じゃあ、よろしく。さえ』

『古賀ちゃんて、ヒョロイのに名前、男らしいよね!』

『っさいわ』

『いてっ』


 いきなり馴れ馴れしくて、普通じゃ考えられないくらい失礼だったんで、思わず手刀を額に入れたんだった。こいつには遠慮なんか要らんと思ってな。


 考えてみれば、高尾が絡んできてからも俺と離れていかない奴は、冴島だけだったなぁ。うん、初めてだわ。


冴島さえさぁ、マジでオマエとダチになれて、嬉しいつって喜んでたんだわ。

 はぁ…。なんで、アイツ……。いいヤツだったのになぁ…」


 藪の言い方に、俺はカチンときた。


「やめろよ、そういう言い方」

「あ、悪ぃ…」

「まるで、冴島さえが…冴島さえがここに居たこと全部が昔のことみたいな、そんなん、失礼だろ!」

「…ごめん」

冴島さえは、冴島さえだろ」

「おう…」


 過ぎ去った過去みたいにさ、もうここには居ないみたいにさ、そんな風に昔語り出来る程、昔のことじゃねーんだよ!


「帰るわ」

「あ、待てよ。送ってくって」

「良い」


 思った以上に硬い声が出て、藪の奴がたじろいだのが分かる。俺は溜め息を吐いて、も少し優しい声を心掛けた。


「んじゃな」

「……また、明日な!」


 後ろから掛けられる声に、俺は振り返らず片手だけ上げて挨拶した。藪と別れたのは家へと伸びる坂道の途中だった。藪は駅へと向かうだろう。


 ああ、なんか、もう、休みたい…。

 どっと疲れた気がする。


 家の鍵を用意しながら、生け垣を過ぎてさあ玄関というところで、俺は横から突き出た腕に引きづり込まれた。


「!」

「おう、ちょっとつら貸せや」

「…はぁ。ヤだね」


 高尾だった。

 危うく反動を利用してアイツの鳩尾に頭を突っ込むトコだった。まぁ、高尾だし、大丈夫だったろうけど。


「連れてこいって言われてんだ、こっちは!」

「じゃあ最初から言え!」


 腕を放せ、このど阿呆!

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