廃業寸前の武器屋の店主だけれども、SSRのジョブを引き当てた。
『廃業寸前の武器屋の店主だけれども、SSRのジョブを引き当てた。』
アイアンソード2500G6本。今日一日働いた売上である。今日の売上は15,000Gしかなかった。ちなみに仕入れ値は1本2000Gだ。残った利益は3000Gしかない。今日は10時間働いた。時給300Gにもならない。
武器屋は儲からない。よく賢者のおっさんがよく言っていた。何故なら魔物との間に大きな城壁を作ることに成功しているからだ。国王が国民の為の公共事業の一環として3重にも城壁を作ったのだ。城壁の外には大きな巨人がいるとの噂であるけど僕は見たことがない。
王様の御触れにより、書物と武器は値下げしてはいけないとされている。どこの店でもアイアンソードは2500Gなのだ。そのような表の価格と裏で流通している価格はやはり異なる。オークションや裏ルートで販売して利益を得ているブローカーが多すぎるのだ。すでに正規店で武器を買う冒険者は少なくなってきている。購入者は初心者ばかりだ。アイアンソードしか売れないのには理由がある。
隣の道具屋のおっさんはえらく景気がいい。観光客相手に「静寂のオーブ」や「真紅の宝玉」といったSR級のアイテムを販売している。隣国のショーザギイ国から来る観光客が爆買いしているのだ。いままでは船で来ていたのであるが、ここ最近で通称「闇の通路」と呼ばれる瞬間移動の手段が確立された。隣町や隣国まで、呪文で移動できるようになった。宿屋のおっさんも観光客相手にうまく商売をしている。武器屋だけが流行らない。
僕の店では20,000Gのドラゴンソードが一番高い武器になる。一回3000Gのガチャで仕入れた。僕の店の唯一販売しているSRの品である。SRの上にはSSRという格付けの武具が存在しており、廃人どもが何本も独占している。SSRの武具は人気があり、オークションでよく取引されている。SSRの武器さえ手に入れば一攫千金が狙えるのに。こうしてまたガチャに手を出してしまう・・・。こんどSR級の武器が手に入ったら、もう辞めようと思っている。Rのミスリルスピアぐらいしか手に入らないのは何度も経験している。でもガチャが辞められない・・・。
ガチャでSSRの武器を引き当てて転売する。僕のひそかな夢である。ちなみに確率は0.025%とされている。これは運営側の公式発表でしかない。もしかしたら、もっと低いのかもと周囲の人達はよく言っている。
僕はなけなしの今日の売上3,000Gと金庫の6,000Gを握りしめガチャ屋へ向かった。ガチャ屋には行列が出来ていた。今日の午前中から新たな仲間である「ウェポンマスター:コトリー♀」が実装されていたのだ。長くまっすぐな髪と水着姿が印象的な女の子だ。いろいろな武器を扱う。特に弓矢スキルは「連撃Ⅳ」を初期スキルで実装しており、これが「壊れスキル」と評判なのだ。
行列は動いていない。前の人に聞いてみると赤い服のデブが既に500回近くガチャを回しているという。500回って・・・。一回3,000Gだから1,500,000Gは消費しているぞ。僕の年収の半分ぐらいのお金をガチャに使っている。ちなみに僕の月収はおよそ200,000G程度しかない。
赤い服のデブはしばらくすると気が抜けたようにすごすごと帰っていった。大量の武器や道具を残したまま。ようやく行列は少しずつ減っていった。僕の前の人は5回ほどガチャを引いた。なんと最後の一回でSR級の「ニンジャマスター:ノブシゲ♂」を獲得した。ファンファーレが鳴り響く。「ニンジャマスター:ノブシゲ♂」は自在に伸び縮みするという伝説の武器「如意棒」を持っている異国のアサシンだ。脚装備は「疾風のローラースケート」を装備しており、移動速度が通常の3倍にもなる。こんなのカタログでしか見たことない。
僕は羨ましくてしょうがなかったのであるけど、前の人は「前衛男キャラは金食うから育てる気にならない。要らないんだよな」と呟いていた。なんて勿体ない。
前に人に「おめでとう」と思わず声を掛けた。すると「流れ来ているぞ」と返してくれた。
SR級が目の前が引き当てられた。この流れに乗るしかない。このビックウェーブに乗るしかない。ようやく僕の番だ。9,000Gを支払う。3回だけしか引けない。
一回目:N「ゆみ」
ノーマル「ゆみ+5」かよ。アイアンソードより攻撃力の低い武器ではないか。売却価格は1200G程度だ。
二回目:R「聖者のナイフ」レア武器だ。売却価格は5,000ぐらいにはなる。なんとか元は取れそうだ。
三回目。最後だ。「ガチャを続けて引きますか?」に「はい」とボタンを押す。
すると真っ白に光を放つ。これはもしかして・・・。まさか・・・。
次の瞬間、僕の目の前には半裸の女の子が目の前に現れていた。「ウェポンマスター:コトリー♀」だ。僕は揺れるおっぱいに目が釘付けになった。乳揺れの演出がスゴイ。
きたきたきたきた。
本当に?僕は思わず叫んだ。「よしーーーー」
コトリー♀と目が合う。「これから私と一緒に冒険をはじめましょう」と笑顔で僕に話しかけてきた。僕はしどろもどろになりながら、「はい」とだけ言った。ファンファーレが鳴り響く。周りからの嫉妬のような視線がツライ。コトリー♀の周りに人が集まってきた。中にはローアングルで下からのぞき込もうとしている奴までいる。見世物じゃないんだ。僕のものだ。見るんじゃない。
僕「もう少し服を着た方がいいよ」
コトリー♀「これが私の衣装なんで、これで構いません」
コトリー♀は派手な格好が好きみたいだ。贅沢言ってはいけないのは理解しているけど、やはり清純派のほうが良かったな。
ちなみにガチャで引いた冒険者は冒険するとき以外は石板の中に封印されている。僕は
「ウェポンマスター:コトリー♀」レベル16の石板を受け取った。あまりにも目立つので僕は簡単な手続きだけすまして、自宅に帰った。
自宅で冒険者ギルト登録の変更の手続きをした。「お供の冒険者」を「R魔界の女騎士:リノ♀」から「SSRウェポンマスター:コトリー♀」に変更した。すると次から次へとフレンド申請の連絡が来た。「今日の夕方の人ですよね?」「本当にコトリー♀所持しているのかよ。」「水着をアップしてみろよ。嘘乙。」多数のメッセージが来た。
そのなかでレンタル石板の依頼が多数あった。石板はトレード機能とレンタル機能が実装されている。調べるとレンタル4日間で32,000Gで取引されていた。なかなかの収入になる。ちなみに売却だと1,200,000G前後が相場らしい。せっかく引き当てた石板なのでやはり売るのはおしくなってきた。とりあえずレンタルを使ってみよう。僕はレンタル希望の方に連絡をした。
「こんにちは」メッセージを送る。
「こん」すぐに返事が返ってきた。
「レンタル希望を閲覧しました」僕は丁寧に送付した。
「求琴希望8kG/1だy*4d」
「????」何書いているかさっぱりわからない。
「おマ初心者?チェリーかよwww」
馬鹿にしやがって。隠語ばかり使うんじゃねーよ。
「求:コトリー♀希望 8000G/1dayで*4ay」
相手は再び送ってきた。最初からそう書けよ。
「了解」
「おk」
僕は転送装置に石板をセットした。同意するに「はい」を押す。石板は消えた。代わりに所持金が32,000Gになっていた。
「あり」
僕が「こちらこそありがとう」とメッセージを送付しようとしていると相手は既に落ちていた。僕は相手の評価ポイントを☆5のうち☆2評価にして運営に送付した。
掲示板を眺める。実装されてまだ初日だというのに多くの取引がされている。最高11k/1dayという条件もあった。通常のレートより少し安くし過ぎたかな。ちょっとだけ僕は後悔した。
次の日、いつも通り武器屋を開く。隣の道具屋の店長が話しかけてきた。僕が「SSRウェポンマスター:コトリー♀」を持っていることを隣の道具屋のおっちゃんは知っているみたいだった。
「いい薬あるんだよ。特別なアイテムだよ」密売人みたいだ。
どうやら「技スキル」を1ポイント上昇できる「深紅の果実」を売ってくれると言う。
一個1,500Gと言ってきた。確かに「連撃Ⅳ」と技スキルを上昇すれば強くなれる。どうしようか悩んでいると道具屋の店長はこう言ってきた。
「いまなら「深紅の果実」の増殖方法も教えるよ」
運営には気が付かれていない消費アイテムの無限使用方法があると言う。「「深紅の果実」の無限増殖」僕は思わず大きな声を出してしまった。
「駄目だよ。大きな声で言ったら。」
「1,000,000Gと言いたいところだけど、500,000Gでいいよ」
「ガセネタかどうか確かめてからでいいかい?」
「もちろん」
彼は目の前で見せてくれた。「深紅の果実」を引き出しに入れて取り出した。そのときアイテムは2個になっていた。
「すげー。どうやっているんだ?」
「いまなら500,000Gでいいよ」
再び道具屋の店長は言ってきた。金庫には400,000Gは残っているはずだ。コトリーをレンタルすれば100,000Gぐらいは何とかなる。
「いま全財産が400,000G」しかないんですよ。
「100,000Gは後払いでいいよ」
僕は即決で契約した。
仕組みは単純であった。僕のアイテム保管庫に一度いれたあと引き出しをキャンセルする。
そのあとなんでもいいので他の消費アイテムを使う。使って本来表示されないカーソルと増殖したいアイテムを入れ替える。極めて単純なバグを利用した増殖方法であった。一度スタミナ消費するダンジョンで潜り、すぐに脱出してから行う必要があると言う。スタミナは一時間で1ポイント回復する。要するに一時間に一個しか増殖できないみたいだ。「深紅の果実」の売却は800Gなので武器屋の時給より高い。
僕はコトリー♀が帰ってくるまでに70個近く「深紅の果実」を増殖しておいた。5日後コトリー♀が帰ってきた。僕はいきなり彼女に伝えた。
「「深紅の果実」を70個食べてくれ」と。
「そんなに食べられないよー。それカロリー高いし。太っちゃう。」
言うことを聞かない女だ。僕は無理やり食べるようコマンドした。コトリー♀との相性値が50から42まで下がってしまった。そのかわり「技スキル」は127から197まで上昇した。
少し太った様に見える。もともと大きかったおっぱいがますます発達したみたいだ。
「じろじろ見るんじゃーねーよ」
相性値が下がったせいなのか口調が乱暴だ。出会ったときは優しく微笑んでくれていたのに。僕はそのあと彼女用に武器を渡した。「ゆみ+5」である。
「SSRキャラの私の装備が何でノーマル「ゆみ+5」なんだよ。つまんねー」
こんなキャラだったっけ?相性値を回復するアイテムを買わないと。
僕たちは二人で中級ダンジョンを探索した。彼女の力を見たかったからだ。彼女の後衛スキルはすさましく、チート級のダメージをたたき出していた。ダンジョンのボスに出会う。「隻眼の巨人」だ。僕は巨人を見るのは初めてだ。やけに歯並びの良い巨人であった。
コトリー♀は「下がっていろ」と叫ぶ。
そして「連撃Ⅳ」のスキルを発動した。あっと間に巨人は倒れた。お宝を確認する。「巨人の盾」だ。やけにデカい。僕にもコトリー♀も装備できない。
「売りとばして金にするぞ」相変わらす口が悪い。
僕はレベルアップした。そして一緒に旅をした結果なのか相性値が1ポイント回復した。
大きな盾を背中で担ぎながらダンジョンを引き返す。コトリー♀と一緒ならば人生がやり直せる。いずれ相性値も回復するだろう。なんとか武器屋もやっていけそうだ。レベルもあげて、武器も手に入れて出世するんだ。
ダンジョンとフィールドの入口まで向かうと青いローブを来た3人の男が立っていた。そして一人の男が言ってきた。
「あなたはアイテムを増殖するというバグを利用しました。不正行為を行っていることが判明しました」
「不正手段で手に入れたアイテムが既に消費されている場合は、対象のキャラクターまたはアイテムの削除させていただきます。これは利用規約第25条3に記載されております」
「アイテムの不正利用は認めるけど、「ウェポンマスター:コトリー♀」はちゃんとガチャで引いたんだよー。」
「利用規格通りに粛々と処理させていただきます」
「そんなこと許されないよー」
「ウェポンマスター:コトリー♀」は削除された
僕は普通の武器屋に戻った。あれから数年が経過した。ガチャに挑戦するけれどもSSRなんてあれから二度と引けない。
ときおり、僕はあの日のことを回想する。コトリー♀との楽しかった冒険のことを。僕の冒険者ギルト登録はいまだに「ウェポンマスター:コトリー♀」レベル16のまま登録されている。今日もフレンド登録申請が多数来ていた。