6.私と彼女の作戦会議
中学三年での最終進路の希望先を書く用紙の提出期限が迫って来ました。
両親からは、西咲学園を勧められています。あの乙女ゲーム舞台の高校です。お金持ちや良家の子女がほとんどなんですよね。一般人としては、敷居が高いです。ヒロインが攻略対象者と交流し、絆を深めるらしい物語のあの高校。ヒロインの中の人が私の時点ですでに物語が破綻しているので、ここの高校に通う必要性が見いだせないのです。ですが、荻堂一真と仲直りするチャンスだと両親が西咲学園に通えと言ってくるのです。そもそもケンカはしていないし、嫌っていたのであの件をよい機会だと私は捉え、避けて無視しているだけなのに。何とも的外れな理由であの高校を勧めてくるので、別の高校を希望先で今まで出してきました。ここは、あの乙女ゲームをプレイしていたまどかさんに相談しようと思い、連絡を取りました。そしたら、まどかさんの自宅までの地図をメールで送るからそれを見て家に来いと言われました。乙女ゲームの定番、入学式に行くのに校内で迷うということにならないためだとか。関係ないような気がするのですが...
そして、まどかさんの懸念していたことが当たってしまいました。地図を見れば、まっすぐまどかさんの家に行けると思っていたのに、迷ってしまいました。つい先日までは地図を見て迷うなんてことがなかったのに。これが、ヒロイン補正というやつか!今から、ヒロインになるためのそんな準備なんていらんわ。
先日、まどかさんは家の大改装が済んで本来住む家に戻ったので、遊びに来ないかと誘われたのです。このままでは、まどかさんの家までたどり着けない。どうしようか迷っていると偶然、直樹お兄様が通りかかりました。
「こんにちは。直樹お兄様」
「愛梨ちゃん、こんにちは。どうしたの、迷っているみたいだけど」
「友達の家に行こうと思っているんですけど、迷った見たいで」
と言って、スマホを出して地図を見せました。
「ここに行きたいんですけど」
「この辺りなら、知ってるよ。送って行こうか?」
「いいんですか? 遊びに行く約束とかあるんじゃないですか?」
「大丈夫、アイツらなら待たせればいいし」
「そうですか?お願いします」
「じゃあ、行こうか」
直樹お兄様に送ってもらって、まどかさんの家までたどり着きました。まどかさん、お金持ちのお嬢様だったんですね。前行った家は、普通の家だったんで気付かなかったですよ。
「ありがとうございます。直樹お兄様」
「どういたしまして。お友達、女の子?」
「はい。女の子です」
「ふーん。じゃあ、バイバイ」
「ありがとうございました」
直樹お兄様のさっきの反応いつもと違ったような。迷ったことに呆れたとかでなければいいのですが。
目の前の家の玄関にあるインターホンを鳴らし待ちました。
まどかさんが出てきました。
「愛梨。入っていいわよ」
「こんにちは、お久しぶりです。まどかさん」
「昨日ぶりだから」
まどかさんのお部屋まで通されて、部屋に引いている絨毯の上に座りました。
「ものすっごく女の子の部屋ですね。ここで、思いっきり空気を吸いましょうか?」
「違うから。それより、ここまで迷わなかった?」
「迷ったので、たまたま通りかかった近所のお兄さんに送ってもらいました」
「やっぱり。怖いわね、今から補正力を発揮するなんて。この間まで、地図を見ればまっすぐ行けた子なのに」
「アレには焦りました」
「それで、進路はどうするの?西咲学園に行くでしょ?」
「金持ち学園に?別の高校にしようと思っているんですど」
「やめた方がいいと思うわよ」
「どうして?」
「だって、西咲学園は乙女ゲームの舞台なのよ。あの高校だとイベントだって把握しているし、なにかあっても対処できるじゃない。それに、さっきヒロイン補正があったでしょ。これから、その補正力が今以上になるんじゃない?」
「なるほど。大人しく西咲学園に通った方がいいですね」
「愛梨の成績だったら、余裕でしょ。わざと落ちる真似しないでよね」
「わかった。まどかさんこそ、わざと落ちたら墓の中から恨みますよ」
「なんで墓の中から?」
「だって、私の盾が一つ減るんですよ。私にとってのバッド・エンドになる確率が上がるじゃないですか」
「乙女ゲーム的にはハッピー・エンドだけどね」
「もし、私が別の高校に行くとどうなると思います?」
「そうね、補正力が上がって身動きできない状態になるんじゃないかしら」
「それは、最悪」
「というわけで、大人しく同じ高校に通うわよ。私も協力するから泥船に乗ったつもりで安心なさい」
「それ、安心できない。それにしても、お金持ちのお嬢様だったんですね」
「今まで、普通の一般人の家だったから気付かなかったでしょ。森川財閥の孫娘なのよ」
「ひょっとして、荻堂一真の家より格上だったりします?」
「もちろんよ。あの男に文句は言わせないわ」
「やったね。泥船じゃなく大船だ。鳳凰院家も合わせれば、鬼に金棒ですね」
「感謝なさい」
「感謝します。まどか様」
少しすると、未那さんがやって来ました。
「大変ですわ」
「こんにちは。未那さん」
「未那、どうしたのよ」
「私の成績ですの。このままだと、西咲学園に落ちてしまいますわ」
「「マジで」」
「はい」
「この時期からなんてやめてよね」
「ヤマでも張りましょうか?」
「それなら、大丈夫よ。私に恩があるとある人に、受験のヤマをプリントに書いてもらってるわ」
「まどかさんも?」
「あんたじゃないんだから。私は普段からしてるから大丈夫に決まってるじゃない」
「どうしてですの?」
「この間の未那の成績を見て未那の家族が心配したのよ。だから、この間の借りを返してもらうということで、やってもらったわ」
「ありがとうございますわ」
受験日になるまで私とまどかさんはその間、「受験なんて滅んでしまえばいい」と思いながら未那さんの勉強を見て、自分たちの受験勉強をしました。
そして、私とまどかさんはもちろんのこと、無事に未那さんも西咲学園に合格しました。
未那の両親は娘の受験勉強を娘のやる気のなさに家庭教師が投げ出したため、成績が優秀なまどかに頼みました。友だちの前なら、見栄を張るだろうと。
まどかは教えるのに熱が入ってしまい、スパルタで教えました。未那は半泣き状態で逃げることがかなわず、受験勉強をしました。主人公は、逃げれないように協力しました。