5.隣の家に越してきたのはあの人です。
一ヵ月前に、仲の良かったお隣のご夫婦が海外に引越していきました。
旦那さんがフランス支社の支店長に出世してのことです。
お隣の奥さんに餌付けされていた私としては、次にお隣の家に住む方が気になります。
昨日、引っ越しの業者が来て作業を終えて今日、お隣の家の人がうちに挨拶に来ました。
母がその人の対応をしています。まどかさんに借りた乙女ゲームを二階にある自分の部屋でしていたのですが、母が私と年齢が近い男の子がいるので挨拶をしなさいと言ってきたので玄関まで降りて行きます。
玄関まで行くと、雲瀬直樹さんがいました。俺様男大道寺光輝の幼馴染です。ゲームではヒロインの隣の家に引っ越してくるなんて設定がなかったはず。現実だから、設定にないことが起こるのは当たり前ですよね。ゲーム内では攻略対象と違い、爽やかな感じの少年で、私の好感度が一番高いキャラだったんです。ゲームでもそうでしたが、現実でも爽やかさが前面に出ています。とりあえず、挨拶をしないと。
「はじめまして。こんにちは」
緊張しすぎて淡々としゃべってしまった。
「ごめんなさいね。この子は愛想がなくて。娘の愛梨です」
母よ隣のご夫婦と息子が美形だからと言って、別人になっていますぞ。父がいなくてよかったな。いい年した大人が拗ねてしまったら、鬱陶しいですから。
「僕は、雲瀬直樹です。よろしくね、愛梨ちゃん」
「はい」
「直樹、学校に必要な物をまだ買いそろえてなかったでしょ。愛梨ちゃんに付き添いを頼んだらどう?」
「まあ、この子は今日暇だからいいわよ。受験生だからって、ゲームばかりしているんだから。いいわよね」
それは決定事項ですか?母よ。前世で普段勉強しなくて失敗したから、今世では普段から勉強していて、受験だからってあわてなくてもいいんです。息抜きなんです。それに、私が内弁慶だと知っててそういうこと言いますか?嫌がらせですか?
「お久しぶりですね、先輩。家でお茶はどうですか? 旦那は、これから会社のお付き合いで出かけますし」
「いいわよ。愛梨、戸締りしてちゃんと行きなさいよ」
と言って、母は家を出ました。私が対人スキル全くなしなのにフォローなしで行くのかよ。今日の夕飯は、母の嫌いなピーマン料理尽くしにするので、覚悟しとけ。
「ごめんね、愛梨ちゃん。なんなら」
「大丈夫です。戸締りしてくるので、少し待ってて下さい」
私は部屋に戻りゲームをセーブしてから、戸締りをして雲瀬直樹さんと家を出ました。
「呼び方だけど、愛梨ちゃんでいい?」
「はい」
「じゃあ、僕は」
「直樹お兄様でいいですか?」
「えっ?」
「直樹お兄様で。昔から、お兄様が欲しくて。友達に、お兄様と仲がいい子がいて羨ましいんです。ですから」
「うん、いいよ」
「本当ですか?」
「うん」
「ありがとうございます」
あれから、ちょくちょく未那さんと遊ぶようになり未那さんが年上の兄と仲が良いのが羨ましかったんですよね。はじめは、かわいい妹の恋敵と警戒をあらわにされたんですけど、そうでないと分かったとたんフレンドリーな態度になり、未那さんに呆れられていましたが。
直樹お兄様呼びの許可が取れて、よかったです。これで、距離を詰めていこうかと思います。でも、この呼び方だと『妹』のままかも。でも、いいか。対人スキル0な私としてはこれしか方法がありません。
買い物中に、天敵の荻堂一真に遭ってイヤミを言われたのですが、直樹お兄様が庇ってくれてうまくイヤミ攻撃かわしてくれました。すごいです、直樹お兄様。私では、恥ずかしい過去を人前で言うことで恥をかかせることができません。
この後は、直樹お兄様の買い物を終えて帰りに喫茶店に寄ってから帰りました。
勉強の不安なとこを教えてもらう約束もしました。私としては、上出来です。