4.ライバルお嬢様を味方につけました。
幼稚園の残りと小学校は、荻堂一真と関わらずに済みました。
中学二年になって、このまま関わらないでいいかもと思っていた時に、私のもとに一人の獲物がやって来ました。彼女は荻堂一真の婚約者、鳳凰院未那です。あの顔だけ男を好きだなんて、慈愛の女神かお花畑思考か真正の馬鹿かのどれかなのでしょう。
現在、私のための盾を捕獲する時! 逃がすと後がない! 棺桶に入ったような人生を送るのかの瀬戸際を避ける重要な時!
優雅で美少女なお嬢様を見たとき私の眼は、獲物を捕獲する獣の眼に近かったと思います。隣にいるまどかさんが私にドン引きしています。
「あなたが、一真様に色目を使っている子ね。一真様は私の婚約者んなんだから、諦めなさい!」
「いらんわ、あんな奴。ごめんなさい、つい本音が...」
「確かに、いらないよね」と隣にいるまどかさんは大爆笑。
「えぇっ?どういうことですの?」
「こっちが訊きたいんですけど」
「だって、一真様は幼馴染の女の子が自分のことを好きだから、婚約話を断ると言ったんですのよ」
「一ミクロンたりとも、好きじゃないから」
「ウソですわ」
「なら、どうして違う学校に通ってるんです?好きなら、同じ学校に通うでしょう?」
「確かに、そうですわね」
「それで、婚約話はどうなったんです?良家のお嬢様が馬鹿の婚約者と自ら名乗ったんですから、馬鹿の抵抗むなしく両家の間で正式な婚約は決定したのでしょう?」
「はい、そうですわ」
「なのに、どうして私に言ってくるんですか?」
「だって、一真様が...」
「敢えて言います。ヤツは私にとって、イヤミを言ってイジメてきて精神的苦痛を負わせてくる存在です。関わりたくないんです」
「愛梨が馬鹿を心底嫌っているのは、愛梨と馬鹿の両親は知ってるわよ。ついでに、私は幼稚園の頃から知ってる」
「そうなのですか。なら、どうして一真様はそんなウソを?」
「さあ?誇大妄想なのだと思います。手に負えないですね」
馬鹿だ馬鹿だと思っていたのですが、私が自分のことを好きだと思い込んでいるなんて気持ち悪い。思わず腕をさすりました。まどかさんも同じことをしています。
「そこの二人、私たち目立ってるわよ。移動しない?」
「それなら、私の家の車に乗ってください。どこかでお話をしたいですわ」
「そうですね」
と私はまどかさんの腕を引っ張って有無を言わせず車に乗り込みました。
なぜか、鳳凰院家の自宅に連れて行かれました。
メイドさんたちと執事さんが出迎えてくれました。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「葛城、お客様にお茶とお菓子の用意を」
「わかりました」
未那さんの部屋に行くと、メイドさんが紅茶とお菓子を持ってきてくれました。
部屋には執事の葛城さんが控えてます。
「葛城、下がっていいわ」
「しかし、お嬢様」
「私はいても問題ないですよ」
「私も」
私とまどかさんは、未那さんに気にしないことを伝えました。向こうは大事なお嬢様に何かあったらと心配しているんですよね。私たちは何もする気がないけど。いてもらった方が執事さんを巻込めるし、私にとって都合がいいので、引きとめる方向に行きました。
「それより、自己紹介しない?お互い、名前が分からないんじゃ不便でしょ。私は、森川まどかよ」
「私は、神無月愛梨です」
私もまどかさんも未那さんの名前は知っているのですが、ゲーム知識でなのでここでは知らないことになっています。ここで初めから知っていたとばれてしまうと、気持ち悪いですからね。まどかさんの提案に私は乗っかりました。
「お嬢様、ひょっとして」
「葛城は黙ってて。ごめんなさい。名乗ってなかったわね。鳳凰院未那ですわ」
「お嬢様、こちらの方は」
「ええ、一真様が言っていた幼馴染ですわ」
「それで、鳳凰院さんは」
「未那でいいですわ」
「未那さんは、荻堂一真が好きなんですか?」
私があまりにもド直球で訊いたので、未那さんは紅茶を拭きだしていました。
未那さんは顔を赤くして
「そうですわ」
「「あの暴力男を?」」
「一真様は紳士的ですわよ」
「「暴言、イジメが当たり前な男を?」」
「一真様はそんなことしませんわ」
「ずいぶん、猫を被ってるんですね」
「信じられないわよ。愛梨をイジメて楽しんでたわよ。だから、幼稚園の時に離れて関わらないようしたんじゃない」
「それって幼稚園の時には離れてから今まで、一真様にお会いしてませんの?」
「そうです♪幼稚園の時に酷い怪我を負わされたときに、ヤツから離れてそれ以来会ってません」
「では、神無月様は一真様を好きじゃなくて、お嬢様の恋路を邪魔しないと?」
「もちろんです♪」
「よかったですね、お嬢様」
「ええ」
「熨し付けて、未那さんに押し付けてあげますよ。いらないし、不用ですから。なので、協力してくださいね。鳳凰院家協力のもと」
「もちろんですわ」
「お嬢様の幸せのためなら、僭越ながら私と使用人一同も協力させていただきます」
いいとこ育ちのお嬢様に、馬鹿を押し付けていいものかとほんのちょっとだけ良心がとがめたのですが、いざとなるとやはり自分が可愛いもので、迷うことなく馬鹿を押し付けようと決めました。
今日はもう一人の盾と協力者たちを得て、最難関突破ができるかもしれないと思える日になりました。