番外編 その1.魔王様はワンコがお好き~大道寺光輝 視点~
俺様は、大道寺光輝。西咲学園の生徒会長をしている。
最近、友人の雲瀬直樹の機嫌がいい。笑顔の中に何か黒いものが混じっていることを除けばだが。本人には知られていないと思い込みたいが、裏では『魔王様』と呼ばれている。これは、中学の時からの友人がつけた渾名。なんでも、RPGゲームのラスボス的な雰囲気だかららしい。その友人は、早川颯太。クラス担任の早川奈月の従弟だ。
直樹と初めて会ったのは、幼稚園に入る前。家が近所で、同じ年の男の子がいたことで母親同士が意気投合したらしい。母親同士が仲良くなったことで、必然的に俺たちも遊ぶようになった。
俺様の家の家訓の一つのため、小学校・中学校は市立に通った。なんでも、金持ち特有の選民意識を持たないためだ。金持ちや名家の人間以外ともうまくやっていくためだとも父に言われた。
結婚についてだが、婚約者はいない。家の義務があるから婚約者がいるのは当たり前だと思っていたのだが、どうやら家は違うようだ。『家と自分に相応しい女性を自分の力で見つけれないと、大道寺家を継ぐに値しない。決して、恋愛に血迷うな』と幼い頃に祖父が言ってた。今考えると、祖父は子どもに何を言ってるんだと思う。大道寺家に生まれた以上、家にとって害になる女性を選ぶわけがあるはずがないだろうと。
金持ちや名家、その他権力者が一堂に集うパーティーが年に数回ある。
正直なところ、このパーティーは憂鬱でしかない。
中学の頃からこのパーティーには、俺様の付添いとして直樹と颯太も参加している。あまりにも纏わりついてくる女がうざいので、そのことを父と母に愚痴ったらそうなった。直樹と颯太は、俺様より女の扱いがうまく捌いている。それを見た父と母の俺様に向ける視線が痛い。人には得手不得手があるんだよ!
この時に、直樹の女嫌いを知った。パーティーで遭った女に、それはそれは何度もしつこく迫られたそうだ。つけている香水が、鼻がひん曲がりそうになるほど臭かったと言っていた。ご愁傷様としか言いようがない。颯太の方は、大人しいと評判の華鹿の四女のフォローをして付き添ってた。初めてパーティーに参加した時に、仲良くなったと言っていた。
そして、高校で同じ生徒会で働く仲間たちと顧問の先生を互いの親から紹介された。この時には同じ生徒会で働くなんて思っていなかったし、想像以上に使えない奴らだなんて思いもしなかった。
直樹の女嫌いを知って数年、引越した先の隣の家の女の子が可愛いから、手を出すなと黒い笑みで言ってきた。正直怖かった。これが颯太が言っていた魔王の笑みなのか。大人しく頷くしかなったのは言うまでもない。俺様がこいつに逆らわないようにしようとその時に強く固く心の底から決意した。
その数日後、颯太が「魔王様がものすごい美少女とショッピングをしていた」と言った。
その美少女とやらは、直樹と買い物をしているときは機嫌良くしていたのだが、顔だけが取り柄の最低な奴に因縁をつけられると直樹の背に隠れていたらしい。
「魔王様といる時には犬のように尻尾をぶんぶん振っているような幻覚が見えて、顔だけが取り柄の奴を見ると猫のように威嚇した幻覚が見えた。これからはあの美少女を犬と呼ぼう」と颯太は言った。美少女と言ったわりには犬扱いか。おかしなやつだな。
高校生活最後の入学式に、生徒会として忙しく働いていた。生徒会の顧問ははっきり言って顔だけで使えないので、俺様が指示を出して入学式の準備を手伝う生徒たちをまとめていた。他の先生方は、あの顧問が使えないのを諦めの境地だ。早川先生によれば、問題を起こしたら困るから俺様に押し付けた形だと言っていた。時々、早川先生が心配して自分が顧問を持っている部活があるにもかかわらず、生徒会を手伝ってくれるのが救いだ。
入学式の準備がひと段落したので、どこかに見落としがないかを確認するために、直樹と颯太に手伝ってもらって、校内を見回ることにした。
見回りを終えて体育館に戻る途中、迷子になっている新入生を見つけた。
入学式に間に合うように、声をかけ連れていくことにした。
声をかけたすぐ後に、直樹に声をかけられた。魔王様のようなオーラを出しながら、魔王様の笑顔で言ってきたので、俺様は慌てて体育館に戻った。決して、あの女子生徒を見捨てたわけじゃない。見捨てたわけじゃないからな!
入学式の片付けも終え、帰宅しようとしたところで新入生の帰宅時間と重なった。
直樹は、迷子少女と一緒に帰るようだ。
颯太は、
「あの子が、例の美少女だよ。相変わらず、犬が尻尾を振ってる幻覚が見えるぜ」
「あの迷子少女がか」
「それに後ろから睨みつけてるヤツがこの間言ってた、『顔だけが取り柄のヤツ』」
「あれ、荻堂一真だぞ。新入生の中で、新しく生徒会に入れる奴を話しあっている時に、強引に顧問の柳塚先生が決めたんだ。早川先生は反対していたんだがな」
「止めとけ、止めとけ。絶対顔だけだぞ。俺の第六感がそう言っている。他に候補はいなかったのか?」
「森川まどか。俺様としては、その子を推薦したんだがな。中学の時は三年間学級委員長で、クラスのまとめ役をしっかりこなしていたと他の要素もあって推薦入学したしな」
「俺は何も言えない」
「悪いな...」
荻堂一真が生徒会に入った時に、他に補填する役がいないかと訊いてきた。それにあると答えれば、荻堂一真と柳塚先生が鼻息荒くして「神無月愛梨を入れろ!」と迫ってきた。俺様としては森川まどかを入れたいのだが、「俺の顔を潰す気か」と柳塚先生がキレてきたので、うまく彼女を誘導すればこの生徒会に入らないように仕向けることが俺様はできるので、その場は「神無月さんがいいと言えばいいですよ」と答えておいた。
そう言えばあの柳塚先生、『入学する生徒の資料を見て気になる美少女がいるから物にすると言って、一年の担任を権力を駆使してもぎ取った』と早川先生が呆れ果てて愚痴ってたな。ここは学校だろ。いい年こいた大人が、生徒を物にするために権力を使ったって、ロリコンかよ。学校という意味さえ分からないのか、あの駄目教師が!学校は、お見合い会場じゃないんだぞ。そう思ってふと思い出した。『雲瀬直樹』という存在を。この生徒会で、アイツに勝てる奴はいない。主に、精神的な意味で。神無月というのは、あの美少女だな。なら、きっと大丈夫だ。なにせ、魔王様のお気に入りだからな。
神無月に声をかけ、放課後生徒会室に来てもらうことにした。これで、断れればロリコン教師と荻堂を言い負かす自信はある。
そしたら、魔お...もとい直樹と鳳凰院がついてきた。その瞬間、魔王様の笑みを向けてきた。なぜ、心の中で魔王様と呼ぶのが分かった?心の声なのに、慌てて訂正してしまった。危ないとこだ。
そしたら、美少女がなぜ生徒会に入りたくないかと直樹が語ったので、他に誰を入れればいいかと訊くと、美少女は、鳳凰院を入れればどうかと言ってきた。鳳凰院か。荻堂は彼女の婚約者だし、怒っても反対できないな。柳塚家より荻堂家が権力があるし、ロリコン教師は反対できないはずだ。とりあえず、美少女に感謝した。鳳凰院は、森川まどかと友人らしいので、うまく引き込んでくれるかもしれない。期待しよう。
そしたら期待通り、鳳凰院は森川まどかを生徒会に引き込んだ。俺様の判断は間違っていなかったようだ。
颯太によると、美少女は荻堂一真を全身で嫌っているらしい。荻堂は、美少女が自分のことを好きだと思い込んでいるようだが、美少女に対する奴の日ごろの言動を見ると、嫌うのが当たり前だと。あれで好きだと言ったら、ドMか何か別の生き物とか。
俺様たち生徒会役員が食堂やそのほかで食べると、女子生徒が騒がしくなるので、生徒会室で昼食を食べている。
ある日、荻堂は自分のことが好きな美少女は素直じゃないから、弁当を作らせてあげるよう仕向けたと言って、上機嫌に弁当を食べていた。
翌日、その弁当は鳳凰院が作ったと美少女に騙されたと怒っていた。次は、ちゃんと自分で作らせると息巻いていた。
その翌日、次はちゃんと美少女に作らせたと上機嫌で弁当箱を開けた。それを見た瞬間、憤怒の形相だ。顔だけはいいと言っても、あの表情は奴のファンの女子生徒には見せられないな。なんとその弁当は、呪いの藁人形を模したように、白ご飯の上で昆布巻きが乗せられていた。彼女の思いを如実に表していたように感じた。美少女に対する荻堂の言動の数々を見たことがあるのだが、あれでは嫌われて当然だと思った。どうやって、自分のことを好きだと思い込んだんだろうな。不思議だ。
荻堂による「美少女語り」を聞いて、副会長と双子が興味を持った。副会長は、美少女に接触しようとしたのだが魔王様の逆燐に触れ失敗したと言っていた。馬鹿だな、直樹の真の恐ろしさを知らないのか。
次に双子だが「どっちがどっち?ゲーム」をしてあげたのに、美少女が無視すると怒っていた。自称「どっちがどっち?ゲーム」は生徒会にたくさん苦情が来ている。どう止めさせるかが悩みどころだ。もちろん、美少女からの苦情もきていた。かなり、ご立腹のようだ。
遠足場所を決める日、直樹が体調を崩して休んできた。俺様と早川先生と颯太とクラスメイト全員は恐怖した。下手な場所を決めれば、魔王様の逆燐に触れる。慎重に決めなければいけない。その時に、早川先生が森川のメールアドレスを知っているか訊いてきた。知っていると言うと、早川先生と颯太とクラス全員は目を輝かせて俺様を見てきた。今すぐ森川にメールしろと言われたのだが、授業中を理由に断ろうとしたのだが、思い直した。直樹が怖いからだ。森川が携帯を没収されても、ロリコン教師を丸めこんで、俺様と早川先生が取り戻せばいいだけだ。メールをして少し経った後に電話が来た。森川からだ。その後、用件を言うと「まかせてください」と言われたので電話を切った。危機回避をで来たことを伝えると、クラスの皆で安堵した。
遠足当日、直樹と美少女は一緒にいた。楽しそうだ。
俺様は離れたところで、颯太とその様子を見ていた。俺様はつかの間の平和を楽しんだ。大袈裟かもしれないがそれが真実だ。
この日、俺様のクラスでは迷子少女が『美少女』として認識された。女子たちは、美少女の様子に癒されたようだ。そして、クラス内(直樹を除く)に『美少女を愛でる会』ができた。
言えるなら、全校生徒に声を大にして言いたい!
「美少女にだけは、興味を持つな」と。




