10.笑顔で気色悪いと言われたい? むしろ、腹黒を希望します。
生徒会へ入るのを阻止した翌日、校庭を歩いていると浮かない顔をして空を見上げている副会長を見かけました。
副会長は定番中の定番、ヒロインに「いつも笑顔で気持ち悪い」と言われて、ヒロインに興味を持つ少し頭のおかしな人。いつも笑顔を絶やさず、丁寧な態度で接して女子生徒に人気です。笑顔がトレードマークな副会長が落ち込んでいるというのはどういうことでしょう?
とりあえず、君子危うきに近寄らずということで副会長の様子を無視してそこを通り過ぎます。副会長は、天王寺正孝。生徒会長の大道寺光輝さんと並ぶ家柄です。ゲーム内でもそうでしたが、現実でも常に笑顔という印象ですね。直樹お兄様には負けますけど。
その翌日、翌々日と浮かない顔をしている副会長はいたるところで私の前に出没して、気味が悪いです。ひょっとして、新手のストーカー?
ヒロイン補正の恐ろしさの一端を改めて感じているときに、まどかさんが声をかけてきました。
「愛梨、どうしたの?」
「副会長が浮かない顔をして、私の前にここ数日間あらわれ続けるんです」
「コワッ。次は、ショタっ子双子があらわれたりして」
「イヤな予想を立てないでください」
「ゲームではそうだったわよ」
私とまどかさんは廊下を歩いている途中で外を見て、
「また、いた」
「今度は裏庭のベンチね。これもヒロイン補正じゃない?『いつも笑顔で気持ち悪い』って言わないと次のイベントに進めないのよ」
「じゃあ、言って来て下さい」
「私じゃ、きっと無理よ」
「どうしましょう?」
「どうしたの?愛梨ちゃん」
直樹お兄様に突然声を掛けられて、まどかさんは驚いて後ずさりしてしまったようです。そんなに驚くことはないと思うけど...。
私は、なぜか行く先々で副会長が落ち込んだ顔をしてあらわれるからどこぞのホラー映画みたいで気味が悪いということを直樹お兄様に話しました。
「そうなんだ...。それじゃあ今から僕が話してみてくるよ。また、あとでね」
と言って、直樹お兄様は副会長のところまで行きました。
直樹お兄様が副会長に話しかけると、副会長は珍しく突っかかっていました。それに対して、直樹お兄様は笑顔のままで話しています。いつもより、笑顔な気がします。気のせい? ここからは副会長の後ろ姿しか見えませんが、隣のまどかさんを見ると、何とも言えない表情をしています。
そして、まどかさんは気を取り直して、
「次の時間は図書室での自習だから早く行きましょ。未那は先に言ってるんだし」
「そうですね」
「課題は全部済ませているし、本でも読んでるわ」
「私もです。美登川闊歩の迷探偵シリーズの続きを」
「なんで、小学校の図書室の定番本が高校にあるのよ」
「さあ?」
図書室に着くと未那さんが、
「課題を手伝ってくださいですわ」
「また?」
「どれだけ、残ってるんです?」
未那さんが残ってる課題を差し出すと、私とまどかさんは遠い目をしました。
全然済んでないし、全部残ってる。
この時の気持ちを一言で言うと「ありえない」です。
ひょっとして、このためにさっきの授業で先生は次の時間は図書室で自習と伝えた? 次の時間を課題をするために自習にするということは、クラスのほとんどの人が終わっていないのでしょう。それに、教室でなく図書室で自習をするのは周りの人としゃべることを防ぐためですね。うちのクラスは仲が良くて騒がしいので、こうなったわけですね。さすがは早川奈月先生。クラス担任のホスト教師とは一味も二味も違いますね。
私は迷探偵シリーズの続きを読み、まどかさんが未那さんの課題を手伝っていると、早川先生が近づいてきました。
「森川さんと神無月さんは課題を提出済みだからいいけど、鳳凰院さんは大丈夫?」
「大丈夫じゃありませんわ」
「仕方ないわね。先生が手伝ってあげるわ」
「いいんですか?」
「森川さん、鳳凰院さんが一番ヤバいから。あのホスト教師、課題の出しすぎに気づいてないのかしら。提出期限を聞いたときにはホント鬼かと思ったわ」
「きっと、学年トップの森川さん基準で考えてるからですわ」
私と早川先生はまどかさんを見て、妙に納得しました。考えれば分かることをすぐに的確に言ってしまうとはやはり鳳凰院家の者だからでしょうか。勉強の方には全く生かされていないけど。
その後は早川先生指示の元、私も未那さんを手伝いました。何とか未那さんの課題を終わらせた頃には、早川先生とまどかさんと私はぐったり疲れてしまいました。次の授業は本来あるはずなのですが、学校の都合でこれで本日の授業は終わりです。次の授業がなくて本当によかったです。
あれから、声をかけてほしそうな副会長がたびたび私の前にあらわれるのですが、私は気づかないふりをして無視しています。直樹お兄様にそのことをまた相談したら、次の日にはなくなりました。これで安心して、学校内を歩けます。




